22:2 - 曰く、肉体の枷からの解放にて
『ったく覚え悪ィな……つーかこれだから人にモノ教えんの苦手なんだよ』
フチザキの声はモロに不機嫌になっていた。だが、それでも何とか説明義務は果たそうとしてくれているらしい。律儀なんだか何なんだか……。
『まぁいいや、そもそもの話から始めんぞ。その石ころ、何でいま浮いてると思う? 今まではちょっと特殊なだけだったタダの金属が急に自分で動き出したってのにも理由あんだよ。アイテリウムってなぁシグナリアンにとっての“乗りモン”みてぇなモンだ。ま、アイテリウム自体の成り立ちとかは俺ぁ知らんけどな? いいか地球人、ってか元は俺も入るけど。地球人が今まで見つけてきたアイテリウムって金属資源は“残りカス”だ。そもそもアイテリウムの中にアイツらが入り込むと形状も重力波も自由自在に操れるようになる、そんで地中を動いて岩盤を突き進んでいくと土ん中にアイテリウムが残ってくんだよ。これを人間は有難がってんのさ。ほら、ナメクジの這った跡になんかベタベタしたのが残んだろ? あぁいうのだ』
「えええぇ……、何その例え…………」
フチザキの語った経緯にラッシュは思わず、そしてフチザキに負けず劣らずゲンナリしながら声を漏らす。そして大いにビビり倒した。
「っヒ……ッ、あ、イヤその…………ごめんなさっ、今のは……」
『へっ、ンな怯えなくても俺にゃもう何も出来ねぇよ。出来ることっつったら、ちょい機械動かしてビビらせてからこうやってお前らを覗いて話しかけてバカにすることくらいなモンだ。それに何より、あの人間の体捨ててこんなんになってから欲とか生きてたときの意地みてぇのがキレーに無くなっちまっててな。そら、もう体も何も捨てちまったんだから三大欲求なんか必要ねぇし、そうなると……分かんだろ? なーんも残んねぇ。生存欲と知識欲? ぐらいが精々だ。もう何もかもどうでもいいんだよ。だから意固地にならずに俺の身の上話も素直に話した』
これまた重々しい内容をフチザキはさらっと口に出す。ただ、それを語る声にはどこか諦めというか、一抹の虚しさというか、そういうものを感じた気がした。まぁ、気がしたとかそんな程度の話だが。
「え……そ、そう言っても、その……」
もちろん今のラッシュにそんなもの感じ取る余裕はない。やっぱりしどろもどろになっている。最近はマシになっていたとはいえ、トラウマの根幹を作った人間にはそう簡単に慣れるモノではないようだ。そして熟練のヤクザだったフチザキはその怯えにもすんなり“気付く”。
『あー何だ、もしかして俺のことで変なモン植えつけられちまったとかか? 何がかは知らんがスマンなぁ。ま、今の俺は見ての通り直接危害なんか加えらんねぇからよ、気にすんな』
「そ、そんなこと言ったってさぁ……!」
おっかなびっくりではあるが、ラッシュはフチザキの声で喋るスピーカーにむかってブー垂れる。……マジでラッシュは精神的な安定ってヤツが顕著に見られるようになってきていた。あるいは突如頭上に現れた“擬似弟”の影響だろうか。
『それともう一つ。俺が“死んだ”とき上から俺のことブチ抜いたヤツいんだろ? この場にいるかどうかは知んねぇけど誰かいるハズだ。あれ誰か分かるか。何せ下向いてて見えてなかったモンだからよ』
「“何もかもどうでも良くなった”んじゃねーのかよ」
フチザキは急に話題を引き戻して、俺はツッコみを入れる。さっきと言ってること真逆じゃねーか。
『別に報復とかじゃねぇって、むしろ礼を言いたくてよ。少なくともあん時に俺を撃ってくれてなけりゃ、俺はあの場で本当に死んじまってたろうしな。人間のまま生きてたとしてもどうせ組の権力闘争で四苦八苦してた頃合いだったし、そういう立場から解放してくれたソイツには感謝してんだ』
「あ! ソレあーしっす!」
確かにフチザキが感謝の念を口にした直後、マダム・バタフライのテーブルから手が挙がった。何食わぬ顔をしているアデリアだ。というかさっきまでテーブルの全員で居眠りしていたのはどこへやら、いま見ると着席している全員がしっかり目を覚ましている。抜け目ない。
『は⁉︎ お前、俺が依頼してたあの始末屋だよな? オイオイ、撃ったのお前だったんかよ……あん時も顔合わせしなかったらいきなり小娘の声で応答してきて面食らったが……』
「ウチのトコみんな女の子なんスよぉ、成り立ちとかけっこう特殊らしくってー。アハ、“特殊”とか言っちゃった。えーと、ジコショーカイからやっとくと、あーしらはクラブ『マダム・バタフライ』って言ってー……」
そういえばフチザキはアデリアにある程度前の段階で接触してたんだったか。とはいえそれだけの間柄でしかないのは薄々勘づいていたが、とはいえ自分を殺した実行犯がコイツだったのはフチザキとしても意外だったらしい。それもそうだし、何より気になるのは……。
『イヤそりゃいい、そこは“もう”何となく分かってる。へぇ、高級娼館かつ諜報機関ねぇ。今の俺ナメんなよ、お前んとこのビルとかだってハッキングし放題なんだからな……それより、何でお前あんとき雇い主の俺を撃った?』
「あぁ、あん時っスかぁ? それは……その、あんたの首をテミヤゲにして相手の方に取り入ろうと思って……えと、そもそも始末屋としてあんたと接触したのってアレだったんスよね、家出の一環。ちょうどあんときママとケンカしちゃっててさー、ツレと二人でクラフト三隻パチって飛び出しちゃって。どーせリモートで自動操縦使えば二人でも動かせるしね。んで、ここってちょうど色んな裏社会のレンチューがうようよしてんじゃん? だからウチらの稼業の暗殺の技術活かしてここらで一稼ぎしちゃおーって思ってぇ、飛び入り参加チームのあんたらをカモろ……とにかく、接触してさ。そんなこんなで忠誠心も何も無かったし、なんかあっという間に負けちゃったしでテキトーに殺しとけば見逃してくれるかなーって。まぁ、その相手とマダム・バタフライが直接仲良くなってソッコーバレるとかはさすがに思ってなかっ——
『オイ待てコラぁ‼︎ ンな適当すぎる理由でよくもテメぇ……黙って聞いてりゃ家出だぁ⁉︎ こっちゃテメぇがオムツ履いてる時分からこの『極道』っつーショーバイやってんだよ! それをガキの遊びみたいなモンで綺麗にブッ潰しやがって、こっちとしても浮かばれねぇっつーかよぉ……』
「…………イヤ、“何もかもどうでも良くなった”んじゃねーのかよ」
フチザキがぐちぐちと嫌味を垂れ流す中、今度は俺がそうボソッと独り言ちた。




