表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/156

20:4 - 降りしきる暴威にて

「……お、お前いま言われたこと理解してるか⁉︎ 意味がないと言ったのに何でワザワザ撃つ必要があった⁉︎」


「それだってお前のハッタリかも知んねーだろ、それに傷は負わせられるだけ負わせといて損ってこたないしな」


「残ッ念ながら! ……ハッタリなどではない」


 銃声と共に弾き飛ばされて血が滴りだしたリュー軍曹の右手には穴が空いている。見た目的には止血したとしてももう何も握れそうにない。が、それでも構わず軍曹は右手を握り込んで、地面にあの芥子粒けしつぶのような光が走って爆発が起こる。あれでも動くと言うことは多分右手に義体サイバネを積んでるということだろうし、それにリモコンの有る無しに関わらず爆弾の起爆操作に何の影響もないらしいのも見ての通り。

 ついでに左手のハンドガンのレーザーで軍曹の右腿を狙ってみたがそちらも手ごたえなし。どうやら薄型のプロテクターみたいなもので対策しているらしい。ダレマファミリーのときみたいな安物じゃない、米軍謹製の現代版全身鎧。たぶん実弾で撃っても結果は変わらないんだろう。



「はぁ、いい加減腹が立つな……気が変わった、火だるまにしてやる」


 リュー軍曹はそう言うと、ダンスよろしくまたくるりとその場でスピンした。

 先ほどと違うことと言えば、右手を肩の高さまで上げて腕を大きく振り回したことだ。さっき右手、つまり向かって左側の手を動かしたときは左の爆弾が作動した。つまりあの右手の動きはそのまま手を向けた先にある爆弾を爆発させる効果があると考えられる。ってことは、今の手の振り回し方だとつまり……。

 そうしてまた一瞬遅れて、リュー軍曹の背後に仕掛けられていた爆弾が一斉に大爆発を起こした。



 耳をつんざくような大轟音と共に、炎と爆風が軍曹の両脇を抜けて俺に向かって雪崩なだれ込む。背後から凄まじい奔流ほんりゅうを受ける軍曹は涼しい顔だ。それよりも自分の身を心配したほうが良いってのはまぁそうだが。ただ、背中を炙られている目の前の本人がピンピンしているように、後ろの地雷原(?)からくる熱波自体は大したことはない。がしかし、それで終わりであるハズもない。

 次に起きた変化というのは、向こうからの爆風に乗って、あるいはもっと頭上から静かに降ってくる砂粒とそれに混じった黒く小さい球体だった。風邪のときに飲まされた丸薬に似ている。

 つまり爆発で巻き上げられた砂粒と一緒に俺のもとへ降り注いでいるのだ。そして十中八九、この粒こそが……。


「失せろ」


 リュー軍曹がそれだけ俺に言うと、いかにも楽しそうに血の滴り続ける右手を握り込む。

 俺の周囲は空気ごと弾け飛んで燃え上がった。




「ッッッ…………‼︎‼︎‼︎」


 口内を通り抜ける炎で肺が焦げる感触がした。焦げた肺では息も出来ない。全身の肌が爆炎で焼かれ、千切られ、吹き飛ぶ感触と激痛で意識までもが消し飛びそうになる。爆発の衝撃波に手加減や容赦なんてあるハズもなく、体から引き剥がされた耳のあった位置は痛みすら感じなかった。

 ただ、学生時代から訓練漬けで育ってきて痛みに耐性があったせいなのか、負傷した勢いのまま気絶するなんてことも出来なかった。畜生。



 リュー軍曹は地面に倒れ伏した俺を元の位置から見下ろしながら、さっきまでの熱っぽさとは打って変わった無表情に戻って言葉を投げかけてくる。


「意識は手放してはいないとは存外タフらしいな。このままお前を埋めてしまいたいところだが、残念ながらそういう風には命令されていない。まぁ、有り体に言えば見せしめにしろと言われている」


 如何にもお好みそうな猟奇的な話題なのに、コイツがさっきまでの笑顔から一気に冷め散らかしているのは地味に気になった。が、狙い澄ましたようにその説明が直後に続けられる。



「そこのクラフトのオーナーであるお前なら絶対にここまで出てきて俺の手で葬られてくれるハズと小隊長は予想していたが、もし実際にそうなった場合はお前を殺して死体を高めに吊るし上げろと指示が下っている。ここの集まり……この“集落”の人間が反抗する気も起きないようにしろとのことでな。個人的には埋めるどころかむしろ飾り立てろというのは美しくないが、上官命令なら仕方がない」


「ッぐ……ゴハッ……」



 クソふざけやがって、と返そうとして口から出たのは血痰けったんと痛々しい空咳だけだ。口から血がしたたり落ちるのを感じる。もはや肺から声を出すための空気も出てこない。腕に力は入らないし、せいぜい体をひねろうとしてその場でのたうつのがやっとだ。地面に垂れた血が砂地に染み込んでいくのがありありと見えた。

 コイツの美意識がどうだかについては知らないが、どうなろうと俺はここで殺されることになっているらしい。マズい、いくら保てているとはいえ意識はもはや朦朧もうろうとしていて、もはや逃げるとか抵抗するとかいう段階ですらなくなっている。今度こそ、絵に描いたような万事休す。


「それにしても吊るし上げろ、か……。そうだな、そのまま柱にでも括りつけて案山子スケアクロウ風にでもしよう。凡庸だが、どうせ“悪趣味さも見せしめには必要”とかあの人なら言いそうだ」


 軍曹はブツブツと呟きながらしゃがみ込み、俺の首筋を掴んで上体だけを持ち上げた。動けない、あと強風と砂粒が耳の傷口も遠慮せずに吹き付ける感触がじんわりとする。皮膚の感触は正常なのに痛みだけが麻痺してすっぽりと抜けているのは気味が悪かった。それに、こんな感触を味わったまま死んでいくのは気分が悪——




「っ、ッるアアぁあアあァッっ‼︎‼︎‼︎」




 不意に砂地を力強く蹴る音が聞こえて、俺の視線の先で俺を持ち上げていたリュー軍曹は向かって右からの飛び蹴りに吹っ飛ばされる。突っ込んで来た赤・白・黒の影と共に軍曹の横っ面に食い込んだのは羽毛に覆われた膝……つまり剝き出しのラッシュの足だった。ただでさえ筋肉量が多い鶏人種チキンの、その中でも特に膂力りょりょくに優れる軍鶏シャモの一撃。更にはついでのように鋭い鉤爪が軍曹の顔に食い込んで、潰したニキビみたいな穴が空いた頬から噴き出した血が宙に弧を描く。


「ガっ、小娘ぇッ……‼︎」


 尋常じゃない脚力による蹴りを真横から受けた軍曹は二メートルほど跳ね飛ばされる。踏みとどまって僅か二メートル、しかし虚を突くには充分な距離だ。軍曹は反射的に手を伸ばす、が届かない。


「アキ! 伸びてる場合じゃ、ない……でしょっ」


 そんな強さに加えて元々女としてはかなり大柄なラッシュでも、たかだか数センチ差とはいえ自分より身長タッパのある男なんて軽々と運べるものではない。それでも切羽詰まった状況がブーストになったのか、ラッシュは無理やり俺を抱え上げて全速力で駆け出す。

 一方何も抱えるもののないハズのリュー軍曹はというと追いかけるでもなく、ただその場で立ち上がって俺たちを睨みつけていた。もしかしたら“深追いはするな”だとかタヴァナー少尉に言われていたのかも知れない。

 砂塵の中で、それすらも貫いてくる眼光を感じつつ俺は気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ