03:4 - 帰り道の井戸端会議にて
「……っだとコラ、てめェナメてんのか! あぁ⁉︎」
「おい、ここって組のクラフトだろ? しかもここは応接室だ、中で暴れるなよ」
「ッッッッてんめェ…………!」
「ちょっと、アキ‼︎ タダでさえ冷えてる肝をさらに冷やさせないで‼︎‼︎‼︎ あなた、明らかにアドレナリンでトんでるわよ!」
見るに見かねたらしいベイファンから悲鳴にも似た叱責が飛んでくる。
「ケンゴくんも本当にごめんね、うちのリーダーってばちょっとパーになってるみたいだ。……アキも、年下の上司に注意する僕らの身にもなってよ」
イヴももう限界とばかりの援護射撃を余念がない。パーって何だパーって。
だが、どう見ても非があるのは俺の方だ。どうも自分で予想してた以上に頭のネジが飛んでるらしい。ラッシュなんかこの世の終わりみたいな目で俺を見てくる。罪悪感がすごい。
「何だこりゃ……あー、お前ら交渉でここに来た……ってことで合ってるよな?」
組長へのビデオメッセージを録り終えたらしいイスルギが部屋に入ってきた。つまりイスルギがドアを開けたときには、俺は瞳孔半開きでラッシュは半泣きでベイファンとケンゴは半ギレでイヴは半狂乱で頭を抱えるという妙な状況だったワケで、そりゃ開口一番に『何だこりゃ』と呟くのも無理はない。
「……で、さっきのハナシの続きなんだが」
そして取り敢えず気を取り直したように、イスルギは話を続けた。
ちょうど一時間後。
アリアドネ号に徒歩で戻りながら、俺はラッシュとベイファンにこっぴどく怒られている。
「ホンッと信じらんない‼︎ 何、アナタあーいうことしないと生きてる実感が湧かないとか抜かすタイプの人間だったの⁉︎」
「それ病名とか付くヤツだろ! だからドンパチやらヤクザやらで興奮状態みたいのになってたんだって‼︎」
「興奮状態⁉︎ アキが変態ってだけじゃん‼︎‼︎」
「そっちの興奮なワケあるか!」
頭に血が上った二人は滝のように俺へと浴びせられる怒りの言葉。俺自身はというと、あの後すっかり酔いも覚め、今では自問自答するような精神状態に陥っていた。……そう見えないのは認める。
「二人とも落ち着いて、と言いたい所だけど今回ばかりはアキを擁護できないよ? ギリギリ情状酌量の余地はあるけども」
「本当に申し訳ない」
いつもはバランサーとして二人を諫める役を買って出てくれているイヴですら、今回は流石にこう言うしかない様子だ。若輩者がチームのリーダーなんてやってるとたまにこうなる。そういうときは決まって俺はサンドバッグに徹することで皆の溜飲を下げるようにしていた。
幸い、今回もひとしきり怒りを発散したらしい二人は若干機嫌を取り戻したようで、気を取り直したように状況を整理し始める。
「で、どうするのよ? これから」
「取り敢えずは状況説明からだよなぁ……問題は……」
「……彼ら説明書とか読まないタイプっぽいよね。賭ける?」
「賭け成立しねーからパス」
俺とイヴは嘆息した。
この一時間で決まったことは、ざっくり言うと『お互い協力してエリア・ニュクスを脱出する』ということ。ああ、笑ってくれ。結局、協定関係を断ることはさすがの俺にも出来なかった。
だって俺を探してるヤツが大勢いると判明した今、相手方には“お尋ね者の消息を知る唯一の組織”という切り札が握られているワケだ。この時点でこちらの要求を通すのは絶望的になったと言って良い。
更に付け加えると、この地が長らく人類未踏だったのは単純に侵入が禁止されていたのもあるが、最大の要因はあくまで“近寄ってどうなるか分からなかったから”だ。それがこうして侵入の実例ができた今、下手に情報を流されでもしたら侵入を実行するヤツが出ないとは言い切れない。敵がこれ以上増えるのは勘弁願いたい。
でヤツらと協力する上で俺らに課された役割は教師役・助言役だ。つまり、何も知らないヤクザ連中にアイツらが絶対興味のないことを無理やりにでも教えなければならないワケで、実行には筆舌に尽くし難いハードさが予想される。
「それと“ノルマ”は達成してかねーと、脱出できても意味無いわな」
「そっちも並行して進めないとダメってのがハードだよね」
「本当、こういうのは行政が主導した方が早いのに何でわざわざ民間にやらすのかって話よね? そんなに軍隊をすり減らしたくなかったのかしら」
それに加えて、俺らに課せられているミッションはもう一つある。言うなればこのレースのサブミッション……いや、運営側からすれば多分コッチの方がメインミッションにあたる任務で、それはアイテリウムの採掘作業だ。
今までの描写からも大体察しはついてるとは思うが、アイテリウムはクラフトをはじめとしたさまざまな先端技術に使われている金属で、通電するとともに強力な重力波を発生させるってキテレツな性質がある。そしてコイツは火星の地下からしか見つかっていない上に、その火星でも現在見つけられている鉱脈では採り尽くされつつあると考えられている。
そこで白羽の矢が立ったのが人類未踏領域というワケだ。
確かに文字通りの前人未踏の地なのだから、未発見の鉱脈・鉱床の類は域外よりはありそうではある。しかし何にしてもルールはルール。量にして各チームにつき一トンという桁外れの目標を設定されてしまっていた。もしあやふやな予想でテキトーに決めた数値とかなら脱出したあと運営に直談判してやるか……。
あと直談判といえば。
「取り敢えず、ヤクザ連中にも目標ができたって部分は大きいよな」
「やる気あるのが私たち四人だけだと意味ないものね。特にリーダー格のイスルギ君のモチベーションは重要になってくるハズよ」
ヤクザたちはエリア・ニュクス脱出後、実際運営に直談判する予定なようだ。
コイツらに関していえば、“レギュレーションの確認不足だった”というイスルギ自身のポカはあるものの、責任の大半はあのあまりに大雑把なスタートをロクに確認もせずに実行したレース運営にある。つまり期せずして当たり屋みたいな状況になっているといえるが、利用できれば手段は選ばないのがヤクザだ。親分に多額の詫び金とやらを払わなければいけないイスルギにとっては願ってもないカモだろう。
「まぁ、でも」
ここでベイファンがポツリ、と呟く。
「確かにハードだけど、でも私たちの陣営にはマンパワーはあるじゃない?」
確かに楽観視できる部分が無いわけではない。アサゴ組の七隻が協力者になったおかげで、うちのチームには血の気が多い肉体労働要員が有り余っている。ここは大きなアドバンテージかも知れない。そのぶん必要諸経費も高くつくという弱点はあるが。
「でも掘削作業は……僕らが担当するしかないよね」
「まぁ、機械が俺らの一台しかねーんだしそれが妥当だろ」
当然ながら運営から支給されている物でヤクザたちの分なんて物は無い。当然この大所帯は俺たち四人分として想定していた物資でこの危機を乗り越えなければならないワケだ。支給品の改造は自由だったハズなので、その辺はラッシュに任せるより他にないが……イヤ、むしろ任せすぎて手に負えなくならないように監視体制をどうにか……。
……いや待て、そうだ、ラッシュがさっきから喋っていない。
「……おい、ラッシュ?」
「うん、決めた」
「は……?」
「アタシが先生やる!」
「…………は?」




