19:4 - 石ころの意識の存在にて
アリアドネ号の物資搬入口前で待つこと大体十五分そこら。
長いのかこれでも短めなのかはよく分からないが、ともかくベイファンとラッシュが銭湯から出てきた。防塵マスクは当然装備しているとして、ベイファンはいつもの黒いブラウスとは違う紺のスウェットという恰好で、小脇に丸めた白衣を抱えている。白衣を持ってるってことは最初からゴーディマー技研まで行くつもりだったんだろうか、そもそも本当に白衣が必要なのかは分からないが。対して、隣についてくるラッシュは頭の上に浮かぶ例の石ころ以外はいつもの服装、赤が鮮やかなショート丈のオーバーオールのみ。鳥人種系の翼の都合で服のバリエーションが無いのが仕方ないのはわかるが、ソレとこのオーバーオールがそもそも何着あるのかという問題はさすがに別だ。気に入ってるってのはよく分かるが。
で、結局砂まみれになりながら俺たちがこれから乗り込むゴーディマー技研はというと、思いのほか小さくまとまった感じがするクラフト兼研究所だった。仮にマダム・バタフライを『派手に飾り付けた成金趣味な雑居ビル』だとするなら、こっちは『妙に流線形であることを強調しているガラス張りオフィスビル』という感じだろうか。さすがにそのまんま壁面がただのガラス素材、ということじゃないってのは俺にだって察しが付くが。
「思ってたよりオシャレな感じのクラフトだ」
「あら、ラッシュはここ来たことなかったかしら? いかにも意識高そうというかハイソぶった外観だけど中身はフツーの研究所って感じね。鼻につく感じはしなかったわ」
「何ソレ?」
「ンだよ、鼻につくって?」
俺とラッシュがほぼ同時にツッコむ。
「……いや、まぁ偏見というかジンクスみたいなモノかしら。拠点がこういう気取った感じのデザインの施設使ってる人間って、今までカンジ悪いこと多かったから」
ん? ベイファン、思ったより態度に変化がないような。割と普通に会話できている気がする。
「何であれ最初は疑ってかかるくらいでいいんじゃねーの?」
「……とにかく行きましょ、予定の時間はそろそろだし」
ベイファンはそそくさと足を速めることで俺らにも先を急ぐよう促した。
それに続いて俺たちは技研のクラフトに乗り込んで、羽織っていたり丸めて抱えていた上着や白衣の砂を払って防塵マスクを外す。まぁ、いくら着込んだところで下はスウェットなワケだが。
「お待ちしておりました、ドクター・ヤン」
「ベイファンで良いって言ったでしょ? こっちもヘインズ呼びすればいいかしら、アイザック?」
「形式上でも、挨拶は丁寧なほうが良いと思って。ごめんごめん」
そんな会話で、洞窟調査で会った研究員の男がベイファンに挨拶してきて、ソイツも加えた俺たち四人はクラフト——研究所の奥へと歩みを進める。どうやら技研側はこのまま施設内の俺たちの案内をコイツに任せるつもりらしい。ってことは以前に一緒だったあの褐色リス女も案内役に回されてそうだが、そっちの姿は見当たらなかった。
「ところでノエミアさんは? 今日は一人なのね」
「そのことも合わせて報告がある。そこのナッシュ嬢の上に浮いている『例の石ころ』についての結果が出そうなんだ……恐らく、思いもよらない形で。突き止めたのがノエミアのいるチームなんだよ。今ちょうど大詰めのところだし、まとめ終わったら彼女も来るんじゃないかな」
アイザックと呼ばれた男(つまりこないだのコイツの自己紹介とかは完全に忘れていた)は妙にもったいぶって話す。わざわざ倒置法で話してるのもあって、だいぶ(というかムダに)芝居がかって見えた。ニヤッと笑みを浮かべてみせたアイザックの顔にどことなくイラっときた気がする。
「なるほど、じゃあ仕方ないわね。で? どういう結果なの?」
サラッと受け流しつつベイファンは尋ね返した。聞かれたアイザックはというと待ってましたとばかりに声を低くする。
「僕がここで言っても信じてくれるか怪しいかもしれないような、それこそ世紀の大発見だよ……っと分かった、ちゃんと言うから睨まないでよアキ町長。簡単に言うとその石、“生き”てる」
「……………あ?」
パッと聞いてもイマイチ理解できない答えに俺は顔をしかめた。




