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19:3 - 己が目的の露見にて

「フチザキのヤローの情報操作とかあの騒動とか、そもそもお前がこんなとこ来てなけりゃイスルギさんも地球から火星こんなトコまで動く必要なかったんだぞ。テメェ地球戻ったら覚悟しとけよ、タイヘーヨーでもオホーツクでも好きな海に沈め(つれてっ)てやっからな」


「おいケンゴ、ンなカッコつかねェ脅し(ガジり)してんじゃねェ。さっきからそれ本人にも聞こえてんだよクソ」


 我慢できなくなってきたらしいイスルギ本人が会話に交じってくる。明らかに不満気だ。


「この人数の前で変に俺の名前出すなっつの、モロに居心地悪ぃんだって」


「あ、すんませんイスルギさん」


「だから敬語もうちょいちゃんと使えや」


「すみません」


 ケンゴは悪びれもせずさらっと謝ってツッコミを喰らっていた。そんで話が途切れかけたついでに俺もラッシュに一つ質問してみる。



「それよりラッシュ、あの石ころまだ頭の上に浮いてんの? この数日間“何でかお前とは”顔合わせてなかったから知らねーんだけど」


「え、あ、えっと……うん、今も漂ってるよ。お風呂でもあのバリアみたいのずっと出てる。そ、それで……それでたまに、なんかくるくる回ったりとか振動してたりとか……」


 おずおず感がとれないままラッシュは答えた。どうもずっとあのアイテリウム結晶に付きまとわれているらしい。先週の探索でイヴが拾ったあの青い金属結晶は相変わらずなようだ。結局あのとき、洞窟内に別の竪穴があったことであそこに本当に毒ガスが投入されていたのかについては有耶無耶になったワケだが、だからってラッシュにつきまとうあの結晶のことが無かったことになるワケでもない。少なくとも変なバリアを張って内側の異臭を除去できる空気清浄効果みたいのがあるのは間違いないし。

 それに、いくら結晶とはいえアイテリウムが無加工の金属単体の状態でここまで宙に浮かび続けたり誰かに纏わりついたりするなんて聞いたことも無いワケで、とにかくアレに何かあることに違いはなかった。


「ゴーディマー技研の解析は? そういうのの専門家集団なんだろ」


「まだ終わったとは聞いてないわね、このあと催促にでも行こうかしら」


 ベイファンもそのあたりの答えは分からないらしい。専門家がそう言うなら仕方ないか。

 ふとラッシュたちの声にゴッシュゴッシュと独特な音が混ざりだす。どうも泡で体を洗いだしたらしい、と同時に周りの男どもが耳をそばだて始めたのも気配で分かった気がする。ったく、無理言って監視員イスルギを置いといて正解だった。



「……ところでアキ、私も一つ質問していい?」


 不意に、相変わらずの壁の向こうからベイファンが俺を指名する。質問……一瞬、何かイヤな予感がした気がした。


「さっきあなた“自暴自棄だった”って言ってたわよね? でも今はこんなレースに参加してて優勝って目標がある、ってことでいいのかしら?」


「そ、そりゃ優勝賞金が満額出れば、持ち逃げしたカネ全額を数回分返してまだお釣りくる額だしな。治療法探す資金にするには充分だし、俺はまだ二四だから寿命? まで最低でも二〇年弱はある。それまでせいぜい足掻あがかせてもらう予定だ」


「ふう、ん……」


 何か含みを持たせた感じでベイファンは声を発する。マズい、これって。




「……また分からないことが一つ出てきた。気に障ったらごめんなさい、でも聞かなきゃいけない質問よ。何で……何で自衛官なんて立派な職業を捨てて、裏社会にまで逃げ出して、それで今さら“ちゃんとした”目標立てたの? いや、『“ちゃんとした風な”滅茶苦茶な目標』って言った方が正確ね。そりゃ、一度は逃げ出した絶望から立ち直れたのかも知れない。……でも、それにしては本気で再起を狙ってるようには見えないのよね。そもそもこうやって一攫千金を狙ってること自体が正直ヤケクソの行動にしか見えないわ。あなた、本当に何も気付いてなかったの? 話を、あなたの言い分を聞けば聞くほど“怪しいことも全部わかった上でこのレースに参加してた”ようにしか思えない」


「だったら?」


「あなたを許すワケにはいかなくなる。二年前に私たちを、ラッシュの父親の情報までチラつかせて言いくるめて、これまで破れかぶれでも沢山のアウトローを引き入れて来て、危ない場面を綱渡りしてきた原動力がタダの希死念慮きしねんりょ……要するに死ぬためだったなんて」


「……はぁ、バレた」


 気が付くと、さっき壁の向こうから聞こえていた肌をこする物音は聞こえなくなっていた。というか壁の両側の、男湯も女湯も無音になりつつある。蛇口からしたたる湯の音だけがいやにハッキリと聞こえて、周りにいた男たちは全くの無表情で俺の顔を見つめていた。


「…………銭湯スパ、出たら私たちを待っててくれない? ラッシュも連れてゴーディマー技研のクラフトまで行くわよ」


「わ、わぁった。ちょうどそろそろ上がるトコだ」


 許すワケにはいかなくなる、とまで言われて警戒していたのにベイファンから拍子抜けするような答えが返ってきて、しかしそれがかえって自分の中で静かすぎる怒りを感じさせた。言葉の最初にあった、氷のような数秒の沈黙が怖い。

 今までの大して長くもない人生経験から得られた所見ではあるが、こういう頭が良い女はその場ですぐにはキレない。むしろ“ゆっくり”キレる。その場で怒り散らして発散させて忘れるのではなく、いつまで経っても怒りを許しもせずに覚えている。性格ってよりは記憶力の問題なのか、とにかく扱える情報量がなまじ多い分だけいつまでも忘れずに心の内側へと()()()()()()()()ワケだ。

 男の、それも言われたことをすぐに忘れちまうようなバカに言わせりゃ厄介なことこの上ない。


「じゃ、後で」


 熱い湯の温度と対照的な、にわかに冷淡になった気がする周りの視線から逃げ出すみたいに、俺は足早に脱衣所へと向かう。

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