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18:4 - 決着後の糾弾にて

 外部からハッチを破られて、要塞はさすがに動きを完全に止めつつある。あれほど轟音が響いていた周囲は水を打ったような静けさを迎えつつあった。

 操縦席は巨大なベッドのような構造をしている。パイロットはうつぶせに操縦席の上で寝そべり、枕のように突き出た台の上に頭を置いて、さらに天井から降りてくる巨大な機械に脳を直接『接続』するタイプ。それこそ脳を直接改造するような専用の義体拡張サイバネを積まないと動かせないに違いない。あんな激しい暴れ方をしても平気なワケだ。閉所恐怖症の人間なんかには地獄のような造りといえる。

 パイロットにあたる“ダレマ・ファミリー上層部”は全員で三人。操縦席が三つあって、多分三つとも作動中だったってだけだが。正面奥の座席からはでっぷり肥えた腹のはみ出た肉が見えた。



「お、おい! テメこっ、コイツ奪い返しにきたのか⁉︎ 俺らにっ手ぇ出したら……こいつも、お、お前自身もこの要塞ごと落ちちまうぞ⁉︎」


 乗り込んだのと若干タイミングがズレて、右の操縦席から思ってたより若めの(つっても多分イスルギより一回りは歳食ってそうだが)男が這い出てきた。明らかにどもり過ぎだし、状況を考えればそんな脅しに効果があるとも思えない。ただ男は一緒に操縦席の奥の方から重そうな人型の何かを引っ張り出してソレに拳銃を突き付けている。

 よく見ると、散々殴られ連れ去られた挙げ句、さっきまで頭部の機動で激しく揺さぶられ続けて血まみれアザまみれで気絶していたと思われるイガラシだった。



「ぉ、オラ見ろよ! こっ、こ、コイツぁ人質だ‼︎ とっ、取り戻しに来たんだろォ⁉︎ 従えよォ‼︎」


 どういうつもりかは分からないが、相手の言葉に強く出るつもりはないらしい。イスルギは声を荒げる様子もなく自分のナイフやら拳銃やらを大人しく地面に置いて、手を上げて自分の頭につけ、そして床に置いた武器を軽く蹴って自身から遠ざけてみせる。……ただ、その後の一瞬でアイツが向こうに聞こえないよう小さくため息を吐いたのを俺は見逃さなかった。




「ほらよ、得物は全部床に置いたぞ。後はどうすりゃいい?」


「と、隣のアンタも同じようにしろよ。早く!」


 指示に従って俺は同じように拳銃を地面に置いて、ズボンのポケットにも触らずに手を上げてから銃を軽く蹴り飛ばす。イスルギに何の策があるかは知らんが取り敢えず従っておこう。つっても、そんなことする必要があるようには思えないが……。


「で、ここにいんのはお前だけでもないだろ? 挨拶も無しかよ」


 ……あー、そういうことかよ。


「イヤおい待て、刺激すんなって! な、なぁ、もういいだろ? 落ち着いてくれよ!」


 俺はワザと慌てたふうの受け答えで応じる。Π小隊の取り調べされたときにされた共同質問ジョイント・クエスチョニングみたいなもんだ。みたいな、というかそのまんまだが。



「いいか、慌てないでくれよ? まずアンタの言い分ってヤツを聞きたいんだ、ソイツを人質にとってどうしたいんだ?」


「なモン決まってんだろ! お、俺……いや“俺ら”を無事に逃がせ‼︎」


「そこの操縦席で寝たまんまのお前らを? 別に逃げようともしてねェように見えんぜ?」


 交渉に乗り出した俺に茶々を入れる用にイスルギが言う。ナイスパスだ。


「な、お、おい黙っててくれ! 挑発すんな! 頼むから‼︎ お前の要求は分かる、そりゃビビるよな、分かるよ。で、でも今のままじゃ俺も話し合いようもないよな? 一回お前のボス含めて全員の顔見せてくれないか? 出てくるだけだ、それならいいだろ?」


 演技を続けつつ俺も誘導を続行する。



「……組長カポ相談役コンシリエーレ、きっ、聞こえますか? おお落ち着いて、ゆっくり出てきてください」


 男の声に応じて、正面奥と左の操縦席が同時に動いた。出てきたのは右のヤツよりも更に歳を食っていると思われる壮年の男たち。真ん中の男が例のダレマとかいうヤツで間違いないだろう。いかにもイタリアのマフィア幹部、という風情なロマンスグレーの生え際は後退していて、汗の玉がじっとり滲んでいる。


「それで、交渉というのは何——


「オイ煙よこせ」


 俺は無言のままイヴに取られなかった方の、ポケットの奥の方に忍ばせたままだった発煙筒を素早く取り出す。キャップをマッチの要領で擦りつけりゃ火がつくって仕組みだ。で、右の男が慌てて俺に向かって発砲するがそれで発煙筒の火が消えるわけでもなければイスルギを止められるわけでもない。

 火花と共にあっという間に操縦席に煙が充満し、部下たちを早々に見捨てて葬った幹部たちもまたアッサリ敵に粛清された。





 ひと騒動おさまった後の洞窟は比較的平和だった。まぁ、さっきと比べたら、という意味で。

 あれだけ盛大に暴れられた後だったものの、死者は結局ダレマファミリーのムカデ要塞が自ら葬った自分たちの下っ端だけで、怪我人であるイガラシも打撲多数ではあるが問題ないらしい。ティートとかいったあの改造チンピラの電撃を喰らったラッシュも、イザコザの終息後すぐにベイファンの診察を受けて“軽い火傷と若干のPTSD”という診断を下された。結果的には敵味方含めて俺が名前を知っている人間は全員死んでいないことになるのか。妙な因果だ。


 そのラッシュとベイファンは明日以降に採掘作業に入るからということで、技術者要員と科学者要員としてあの削岩車の修理・整備で忙しそうに、そして妙に嬉しそうに取り掛かっていた。イヴは曰く『ちょっと調べもので』部屋にこもり、イスルギは事後報告とか部下への指導とか何とかで忙しいらしかった。

 それと、ヴィトのおっさんの背中でだいぶ遅れて目を覚ましたティートはというと、ファミリー壊滅の知らせを聞いてどことなく嬉しそうだった。



「おーおー結局殺せた人間タマはダレマの連中だけかよ、皮肉なモンだなぁ」


「あ? 何でそんな嬉しそうなんだよ」


「別にィ? 単純に“あの”上層部はキライだったってだけだ。俺を勝手に改造したあの相談役コンシリエーレも、言いなりだった親父カポもな。まぁ、ンな話はどうでもいい。アンタの右足どーなってんだよ? ギプスみたいのめてさ」


「みたいのも何も普通のギプスだっての、かかとらへんが微小骨折なんだってよ」


「ギプスいるって相当なんじゃねーのかよ……大丈夫か?」


「いっちょ前に気にすんな。……昔っから傷の治りが遅い体質なんだとよ」


「へー、そりゃ面倒そうだな」



 で、俺はこの後の採掘開始までの間にできたこの時間で、暇つぶしにこの捕虜になったティートの相手をしているというワケだ。コイツ、思ったよりも話というか俺とウマが合う性格らしく、取り調べと称しただけのこの雑談タイムは割と退屈しなかった。



「それこそどーでもいい話だろ。それよりどうだ、何か思い出せたか?」


「だからナンもなかったって。そいつらが地下に撃ち落されたのって一週間くらい前なんだろ? でもそんな時期にそんなヤツらが乗った四角いクラフトも中身の連中なんかも見てねーよ。そりゃ俺が見てねーだけかも知んねーけど、少なくともそんなん見たら絶対覚えてる」


「わぁったわぁった。しっかし、残骸も死体も見てないとなるとあの洞窟どんだけ広いんだよコレ……そもそもあの要塞レベルでも余裕あるとかどんだけ——




「ちょっと、アキ‼︎‼︎‼︎」




 一人ため息をついている最中に聞き覚えがある声が割り込んでくる。ベイファンだ。妙に気色ばんでいる、というかタイミングから考えると足、ってか骨のことだろうか……まさか。


「あなたコレどういうこと⁉︎ 説明して!」


「あ? 何だよアンタ急に割り込んできてよ……」


「アキ! 答えなさい‼︎」


 困惑気味のティートには目もくれず、ベイファンは怒ったように……どことなく真剣な様子で怒鳴り続ける。手にはカルテらしきもの、状況的に俺のだろう。



「あなたの足、具体的に言うとアキレス腱が石灰化し始めてる。しかも“他”の組織石灰化とは明らかに違うわ! この骨の、炎みたいになってるレントゲン写真……あなたウェルナー症なんでしょう、しかも多分、今まで全て分かったうえで私たちに隠してた! 違う⁉︎」


「あ? ウェル……?」


 ベイファンはヒステリックな叫びを上げつつカルテとレントゲン写真を机に叩きつけた。ティートは更に困惑しているらしい。まぁ、確かに聞き慣れない病名ではある、『普通』は。



「……そうだよ。ウェルナー症候群、もっと簡単に言うと“早老症”。二十歳ぐらいから老化現象が早くなって、治療法も何もないうちに他人よりも早くジジイになって死んじまう、まだ二四だから見た目には老け顔程度で済んでるかもだけどな。髪の白染めも白髪隠しだ。……不治の病ってヤツ」


 俺は観念することにした。

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