18:3 - 長く伸びる鈍色の背にて
三分後、俺らはホールの天井に向かってハンドガンを乱射していた。銃口を上の方へと向けて何発も何発も。これなら銃声も相当響くし、アデリアのほうも自分が今に撃たれかねない状況なことに気が付いたらしい。
「●□※▲◇‼︎‼︎‼︎」
声は遠くてイマイチ聞き取れないがどうやら悪態を叫んでいるようだった。まぁ、そりゃそうなるか。
当然アデリアは弾丸を避けるために危険じゃない位置へ移動する。具体的に言うと天井の穴だ。誘導するように撃ってたってのもあるし、そもそもアデリアはこのホールの出入口が地面にもあることに気付くヒマもなかっただろう。なぜ撃たれているかを理解できないアデリアは出口を求めた。いくら口調は軽くても始末屋なんて出来る程度には冷静に、そのまま彼女はホールの真ん中へと、それこそ明かりに誘われる虫のように弧を描きつつ近寄っていく。
で当然、ムカデ要塞の頭は獲物を追いかけていくワケで。だが要塞クラスともなれば機関砲みたいな飛び道具は使えないハズだ。うっかり洞窟を破壊したら自分らの身が危ない。つまり要塞がアデリアを追っていけば、俺らの真の狙いでもある頭部も引きずられるように天井の穴へと向かうことになる。増して、目の前を飛び回るお邪魔キャラを追って穴の向こうにまで顔を出そうとするなら……。
「掛かった!」
狙い通りに穴に頭を通すタイミングの少し手前、俺は右腕の鎖付きフックを射出した。金属片が擦れあう派手な音と共に、鉤爪は緩やかな放物線を描いて要塞の頭の狙った位置にぶつかる。人間の頭で言うところの後頭部……つまりさっき俺が飛び越えて上を転がった部分をなぞり、そしてさっき俺が背中をしこたまぶつけた、若干下がった位置の凹みの奥のあの謎のレバーに割としっかり引っかかった。
謎とは言っていたが、あんな位置にあるレバーなんて用途は一つしかない。つまり要塞のコックピットの出入口。しかも外部から中に直接乗り込めるヤツと見て間違いないだろう。緊急脱出用か平時用かは知らないが、こんなものを外に取り付けた時点で悪用してくれと言っているようなものだ。ありがたく使わせてもらおう。
「おいイスルギ! 出番だ‼︎」
「やっとかよ! ムダに拳銃使わしやがって!」
狙撃音やらエンジン音やら、デカい物音に負けないように声を張って、隣で天井撃ちに駆り出されていたイスルギに声を掛ける。あっちもあっちでお待ちかねのようだ。
「で、どうすんだこっから⁉︎」
「ムカデの頭にフック引っかかったの見えんだろ? あそこまで駆け上がる! 俺に掴まれ!」
そう言うが早いか、俺は後ろ手にイスルギの首根っこを掴みながら右腕の装置のレバーを口で引く。
たわんでいた鎖はみるみるうちに巻き取られて、凄まじい勢いで俺たちをムカデ要塞の長い胴体に引き回そうとした。どうも口の中を派手に切ったらしく鉄臭い血の味がメチャクチャするし、イスルギもイスルギで背広を引っ張られながらも足をせわしなく動かしている。だがそんな状態なのも知ったこっちゃないとばかりに鎖は俺たちを引っ張った。
先ほど俊足を披露したばかりのイヴもかくや、というか目じゃないほどの猛スピードで大ムカデの背を迂回し、飛び越え、駆け上がっていく。すぐに頭上の穴を潜り抜けて、俺たち二人は地上の暗闇の中に顔を出した。暗いには暗いが、外は思ってたよりも火星の月の光で明るい。
穴から外に飛び出した要塞はというと、先に出たアデリアを未だに追って今度こそ牙を突き立てようと躍起になっているようだった。外部空間に逃げられてしまっては今さら襲う目的も何も無くなってしまっているのには気がつかないらしい。そんな間にもずるずると胴体はあの穴から外に這い出てきている。
「クッソ、マスクなしで外に出るのキツいな、ちゃんと被ってからここまで来るんだった!」
「ンな余裕ぶってる場合かよ! とっとと俺が何すりゃいいか言えや‼︎」
目標を探して空中で頭を振り回す要塞に激しく揺さぶられながらも、相変わらずの大声でイスルギは吠えた。当然うるささもそのままだが今はそんなこと気にしてられない。
「お前の左腕っていま義手なんだよな⁉︎ しかも電子制御で人も殴れるくらい頑丈なヤツ! その義手でこのハッチ引っ剝がせるか⁉︎」
「こんな状況で俺に今さら拒否権ねェだろ! やったらぁ‼︎」
イスルギはそう言うと機械の義手をレバーの奥のドア掴みのようなくぼみに突っ込み、両足を凹みにかけ全身を使ってハッチを引き剥がしにかかった。俺も微力ながら手伝おうとするが、そもそも人力で引っ張って加勢できているのかも怪しい。だが、それでも引っ張る。
メギギッ
金属がひしゃげる不快な音と共に金属製の跳ね戸が歪み始める。イスルギは穴の奥に左手を突っ込んで更に内側からハッチをこじ開けようとしていた。
ギギギギッ
しかし、問題は義手自体の耐久力というよりもイスルギ自身の耐久力だ。なんたって義手を付けてからまだ数日しか経っていない。いくらコイツが頑丈でも限度というものがある。
ギギギギギッ、ガゴッ
イスルギの手首からはおびただしい量の血が噴き出す中、扉は諦めたかのように開いた。義手と肉体を繋ぐ傷口が開いたのだろう。だがそもそも手首から先を自ら消し飛ばしたのに比べればなんてことはないのかも知れない。割と元気そうなイスルギと俺は要塞のコックピットへと飛び込んだ。




