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18:2 - 窮状で働く直感にて

「なぁ、頼みがある。なるべく高く飛んでこのムカデの気を引いといてくんねーか、出来れば天井のあの穴の近く! あのムカデを操縦してるヤツ、ウサギのおっさんに夢中でたぶんまだ俺らに気付いてねー! 頭にその手榴弾使うなりなんなりすりゃイケるだろ」


「いきなり何? おにーさ……いや、オッサン……? あんた歳よく分かんないけど、なんかエラい急じゃん?」


 いぶかしむアデリアに、そういやコイツのことは俺が一方的に知っているだけだったことをうっすら思い出しながら、


「ここの切り抜け方、思いついた」


 俺は言葉を返した。




 にしても右のかかとが痛い。

 どうやら飛んでくる最中だかに盛大にひねるか何かしてしまったようで、しかも興奮状態で痛みを感じるタイミングがこんなにも遅くなっているというオマケつきだ。でもそんな状態なら動かすぶんには問題ないだろう。汗なのか血なのかもわからない何かの感触を感じつつ、俺は右足ではなくアデリアの顔を見やる。


 対する始末屋女はというと、俺の言葉にまだ怪訝けげんな顔をしていた。


「は? あんなのオッサン一人でどうすんの? どうにか出来るんならとっくにあーしがやってるし!」


「まぁ聞けって! 俺一人にはもちろん無理だしアンタ一人でも無理なんだろ? なら協力するしかねーよな?」


「なにその言い方、ムカつく」


 とはいえ当然いまは言い争ってる暇なんてない。そんな状況が味方してくれたのか、トゲトゲしい言葉を吐きながらもアデリアはこっちの話を聞く気でいてくれているらしかった。


「とにかく、あのムカデの目の前を飛び回るなりなんなりして注意を引いてくれりゃいい! あと出来れば頭が動き回らないような位置で頼む‼︎」


「簡単そーに言っちゃってさぁ……!」



 不満そうではあったがアデリアは翼を広げ、瞬時に要塞の胴体から飛び降りてヒラリと滑空体勢で飛び去る。ついでに俺も後ずさって、そのまま慌てて後ろに駆け出す。ムカデ要塞がさっきの手榴弾爆撃のタイミングでやっと背中にいる俺たちに気付いたからだ。ムカデのドリルは真っすぐ俺に向かってきて、さっきまで立っていた位置の煙幕を突き破って砂だらけの地面に突き刺さった。地面が撒き上げた砂粒と土煙のおかげであたりは余計に前が見づらい。

 要塞は平たい形の頭部を鎌首にもたげ、しつこいまでに俺に向かってくる。こんなのに生身の人間が速度で勝てるワケがない。万事休——


「あーもー! 人遣い荒すぎんでしょ‼︎」


 と、ここで絶叫しながらアデリアがムカデの巨大な頭部を蹴りつけた。蝙蝠人種バットというかコウモリは脚力というか骨自体それほど強くないハズだが、そんなことどこ吹く風とでも言いたげだ。よっぽど訓練してんのか? ともかくアデリアはムカデの眉間を力強く踏みつけ、そして腕を広げて皮膜でムカデのまどを覆い隠す。衝突音と共に視界を塞がれたムカデ要塞は“異物”を取り除こうとして頭を激しく振り回した。

 鳴き声なんて持たないハズのムカデから、金属の部品やギア同士が激しく噛み合って錆が擦れあう耳障りな金属音と猛烈な火花がバラ撒かれる。どうやら要塞のパイロットは塞がれた視界を取り戻そうと躍起やっきになっているらしい。アデリアもアデリアで特に目立った抵抗はせずにすぐに飛び去った。しかし、


「じっとしてろっつーの!」


 飛び去ったということは、当然また飛んで戻ってくることも出来るワケで。宙に弧を描いてとんぼ返りを果たしたアデリアはまたムカデの眉間に張り付いた。ダムッ、という靴裏の甲高い衝突音があたりに響く。




 で、そんな上の様子を眺めながら、俺はムカデ要塞の頭に向けて右腕を突き出していた。鎖付きフックを撃ち出そうとしているのはムカデの頭頂の、つまり……あーチクショ―、要塞がまだ頭を激しくゆすってアデリアを振りほどこうとしているせいで狙いが上手く定まらない。


「オイ、俺はどうすりゃいいって⁉︎」


 俺の足下の、ムカデの胴体をよじ登りながらイスルギが気でもたかぶっているように声を上げた。アデリアが暴れていてこっちに気を払われていない間に俺が呼んでおいたのだ。とはいえ、こんな至近距離で犬人種ドッグに全力で叫ば(ほえら)れるのはさすがに耳に来る。


「うっ、るせ……声の音量落とせ! 張っ倒すぞ」


「悪ィ。で、俺に何しろってんだ、用もないのに呼びゃしねェだろ」


「いや、今んとこまだねーな、もーちょい後だ」


「ンだよそりゃ」



 俺はイスルギとそんな短い会話を済ませてから今度はイヴを探す。幸い、アイツのほうも俺たちを見つけたところだったようで目が合ってたった数秒、まさに目にもとまらぬ速さで駆け寄って来た。で、なんとか地面からムカデの巨体をよじ登っていたイスルギとは違って、イヴは自慢の跳躍力で宙を舞って目の前に着地。やはり大した脚力だ。


「今度は僕かい?」


 イヴはしれっと聞いてくる。


「なぁ、ここからあのムカデの頭の上まで登れるか?」


「さすがに無理だね。頭をあんな高く上げてたんじゃ頭の位置までにどうしても“反り”ができるよね? ロープも他の道具も無しにそんなとこ登れないよ、どうにも出来ない」


「……じゃあアデリア、いま飛んでるあの亜人デミ女に信号かなんか送るにはどうすりゃいいと思う?」


 無理を承知でイヴに知恵を絞るように要請してみる、つっても当然、


「へ⁉︎ それは出来ないでしょ、さすがに。というかさっきあの子と会話してたのってアキ自身なんだから、僕なんかよりそっちの方がよっぽどあれこれ言えたと思うけどなぁ」


「だよなぁ……悪い、忘れてく…………あ」


 こんな感じで会話は続かない。イヴの指摘は至極ごもっともというヤツで、さしもの俺でも何も言い返しようがなかった。……あ、イヤ待て、もしかして。


「……ちょっと待って、アキひょっとして何か思いついた?」


 このタヌキ(実際はウサギ)オヤジは勘も鋭いようだった。

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