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18:1 - 牽引する鎖の下にて

プレナムチャンバー(plenum chamber)

:エンジン燃焼に使用される空気を一時的に溜めておくための空間。走行中の空気には勢いがあるため、一旦広い空間で気流を整えることで、エンジン部へ均等に行き渡るようにする働きがある。サージタンク(surge tank)とも。

 さて、出てきたは良いがどうしようか。大ムカデがまだこちらに気が付いていないのをいいことに俺はちょっと思案する。


 フック付きの敵の装置を手渡されたはいいが肝心の使い方が分からない。イヴは何か考えててもおかしくないが、今のところはとりあえず遊んでいるようにしか見えない。でもって、手持ちにある発煙筒はイヴに片方取られてもう一本しかない。色々とないない尽くしだ、割と深刻にマズいかもしれない。

 ……ま、いい加減マズいマズい言い過ぎてもはや今さらだとは思うが。


「穴あったあああああ‼︎‼︎‼︎」


 しかし、ここでこのホール状の穴の頂点、つまり天井に空いている大穴に何か影が見えた。……影? その“人”影は躊躇ちゅうちょもせず穴から飛び込んできて身を躍らせる。

 昨日一瞬見かけた、たぶん蝙蝠人種バットか何かのキャバ嬢だった。

 なんだっけ、名前は確かアデリアとかいったっけか。それ以外は苗字も何もわからないが、クラフトの機銃掃射でヤクザ連中の虐殺を行って逃亡し、その後マダム・バタフライと接触したらなぜかそこの営倉(?)から出てきたあの始末屋女だ。特徴的な喋り方と声ですぐに俺とケンゴに気付かれたアイツ。さすがにドレス姿ではないが、それでもオーバーサイズ気味のゴツいズボン(確かサルエルとかいう股下が異常に短いビロビロダルダルのズボンだ)で野外に出ようという発想はよく分からない。そもそもマダム・バタフライにいたのも謎だったが今はそれよりも謎な状況だ。何であのキャバレーからこんなとこに?



「うーわ何コレ……ムカデぇ⁉︎ もー、こんなんデカさ的にもナイフじゃどーにもなんないじゃん!」


 素っ頓狂かつ、相変わらず場違いなまでに能天気な声でキャバ嬢は叫び、ソイツ……イヤ名前で呼ぼう、アデリアは巨大なコウモリの翼をせわしなく動かして空中をホバリングしつつ足をバタつかせる。膝を素早く折り曲げたり伸ばしたり、さらに右足でボタン入力でもするみたいな動きで細かく足を擦り合わせた。何をしている?

 と、ぶかぶか(に見える)のズボンが“変形を”始めた。CGか魔法でも見てるみたいにズボンの布は形を変えて重なって組み合わさり、そして甲冑武者の下半身みたいな形状になる。まさに鎧の腰回りとかについてる”たれ”の部分(残念ながら、ここを他の名前でなんて呼べばいいのか俺には分からない)としか言いようのないスカート部分には黒くて丸い何かがいくつもぶら下がっていた。

 小振りで丸い、ガンメタ色のパイナップルみたいな。……手榴弾だ。

 どうも今の動きは、というかあのズボンは機械制御の変形鎧のようなものらしい。ナノマシンとかを織り込んだ繊維を使えばいくらでも実現できるハズだっつーか、よくあんな重そうなモン履いて飛べるな……。

 変形が数秒で終わるとアデリアは急降下の姿勢を取った。そしてアイツは矢か弾丸のようにムカデの背まで高度を下げるとゴロゴロと手榴弾を落としてそのまま飛び去る。数秒置いて、三回の起爆。瞬く間に背部装甲に焦げたような煤の跡が残った。


「っとと! 危ないな、キミもうちょっと優しく攻撃できないか⁉︎ 僕が巻き込まれる!」


「あーおじさんゴメーン‼︎ まぁ当たんなかったしダイジョブじゃね?」


 素早く飛び回ってムカデの顎を避けながら、アデリアは悲鳴をあげるイヴにこれまた軽ーく言い返した。反応が()()()()。やっぱ何かが変だ、コイツ。危機感とかそういうのが感じられないというか……まぁいいや、気にするのはやっぱ今じゃない。



 そこまで考えて結論を出したところで、俺は取り敢えず走り出した。

 足を動かしつつ、まず俺は何も分からないなりに腕に装着した機械をガチャガチャとイジり倒す。といっても、どんな機械だってそもそも“使われるために”作られたもの、そうややこしい使い方ではないハズだ。例えばここのレバーを下げると……。


ガシュッ


 あまり意図していないタイミングで、そして凄まじい速度で取り付けられていたフックが撃ち出される。目の前のムカデの装甲に食い込む。フックには長い鎖がついていて、前腕の機械とそれを繋いでいた。要するにコレって機能としては銃と鎖を合わせたものってことで良いようだ。便利そうだが扱うのはそれなりに慣れが必要だろう。なんせ皮膚には凄まじい反動で痺れる感触、目には火花の光、そして耳には鉄板を突き破る衝突音、とそれから金属が擦れあうイヤな音まで聞こえたからな。でもとにかく操作はこれで合っていたらしい。

 一連の機能を見てなんとなく残りの機能を察した俺はさっきのレバーの隣のレバーを引く。すると鎖は高速で巻き取られて俺の体ごとこれまた凄まじい速度で本体を引きずった。


「っがアッ! ッてー……ッぶねぇなオイ……」



 最初こそ勢いで地面にすりおろされそうになったが、前もって覚悟していたからだろう。俺はコケることなく地面の上を滑って何とか姿勢を保てた。ジェットスキーとかああいうやつの要領だが、もし足元が砂地でなければすぐに大根おろしみたいになってたハズだ。

 危ねーついでに、俺はムカデの胴体にぶつかる前に足に力を入れて軽くジャンプする。で、そのままムカデの背中に衝突して無様に不時着。“ついで”のほうが危なかった、歯ぁ折れるかと思った。


「ははっ、ダッサ!」


「笑ってる場合かよ、それより手伝ってくれ‼︎」


 すぐに俺のとこまで飛んできたアデリアに笑われたが、ンなモンの対処は後だ。

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