03:3 - 脳内麻薬覚醒中にて
「……お呼びみてぇだぞ、えーと、イスルギさん?」
イスルギと名乗ったヤクザに話を振ることで、俺は話を誤魔化す。向こうを見やると、ヤクザのクラフトから使いっ走りと思しき若い犬人種のチンピラが飛び込んできたところだった。いかにもゴロツキっぽい、黒スーツを着崩した出で立ち。いかにも“不良高校生が背伸びしてスーツ着てみました”という感じだ。世の中、誰が仏になるかわかったもんじゃない。
「イスルギさん、大変っス‼︎」
「ケンゴてめェ交渉中だから出てくんなっつったろうが、あと敬語!」
「ダメ元で通信機使ってみたら本部と回線開けたんスけど、組長がブチ切れで動画送ってきてます! 早くこちらへ‼︎‼︎」
「は? どうせビデオメッセージなのに急ぐも何もねェだろが…………すぐに行くって伝えろ」
上司の力ない返事にも「はい!」と元気よく反応して踵を返した部下らしいチンピラを見送りながら、イスルギは申し訳なさそうに断りを入れてきた。
「申し訳ないんだが、ちょっと内々で問題が発生しちまったらしい。さすがに船外には出さんけどちょっと外して貰えるか」
「待てよ。交渉相手に茶も出さず待たせることも出来ねーって本気か? そのままクラフトに帰るぜ?」
背後の三人がギョッとするのが気配でわかる。
俺だって本物のヤクザにこんな啖呵切るのはかなり怖い。だが、今の若い奴があれだけ急いで上司を連れ戻しに来たってことは何か緊急の用件が発生したワケで、こういうときにこそ強く出とかないとナメられるかも知れない。これは言わば俺たち自身のためなのだ。
「……わかった、用事まず片すからここで待ってろ」
いや、本当に怖い。生まれて初めてナマで会ったヤクザ相手に強気に出るとか正気の沙汰じゃない。まして今から乗り込むのは相手の本陣だ。先程の銃撃戦で自分の気が変になっているとしか思えなかった。
で、五分後。手持ち無沙汰に自分の防塵マスク眺めていたところで、先程“ケンゴ”と呼ばれていたチンピラ犬人種がお茶を運んでくる。
「緑茶しかねェけど良、じゃねェや……“お飲み物は緑茶で構いませんか?”」
覚えたての敬語を暗唱する様は明らかに不慣れで、スーツを着崩したその風体も相まって古典的な不良マンガの登場人物みたいだ。まぁ、間違ってスーツを着ようもんなら十歳年上に見られた元高校生とかよりは多分マシだが。
「あー敬語はいい、俺なんて二四になったばっかだ」
「は⁉︎ お前同い年かよ、エラい老けてんな!」
「ぶッハ、良いねその態度の変わり方! でもそこの二人とかは見たまんま歳上だ、口の利き方には気ぃつけろよ」
背後の歳上二人……イヴとベイファンが軽く引きつった笑みを浮かべながら軽く手を上げる。向こうから見れば、ヤクザに啖呵切ったと思ったら何食わぬ顔で雑談してたりして内心ヒヤヒヤなんだろう。許してくれ、今の俺は脳内麻薬か何かで変なことになってるんだ。
「つーかおめェもおめェで馴れ馴れしすぎんだろうがよ、舐めてんのかコラ」
「兄貴分だかが出てきた後にただのチンピラが出てきたらそりゃ怖さも半減するわ」
「……そりゃそーか、イスルギさんにゃ敵わねェ」
どういう論理なのかは知らないがこのケンゴとかいうチンピラは納得したらしい。何だろうか……何となくだが、こいつバカの匂いがする。
とか言ってる最中に、凄まじい怒号が部屋の壁を破って聞こえてきた。
『馬鹿野郎‼︎‼︎‼︎ テメェどのツラ下げてこんなん送らせてんだ、あぁん⁉︎ フザケんのも大概にしろ、この××××‼︎ 何でミカジメの回収に行ったら火星くんだりで遭難することになんだよ‼︎‼︎ しかもよりによってエリア・ニュクスの中からとか何の冗談だ‼︎‼︎‼︎ いいか、お前は破門だ。傘下にも破門回状だしとくからな! あと指はいらねェから勝手に詰めて送ってくんなよ? お前にゃ目ェかけてやったし今までよく働いてたから黒字破門にしといてやるが、これ以降はもう贔屓無しだからな。詫び金で端金もってきたら叩っ殺すぞ。あとわかってるたぁ思うが! 本当ならっつか今みたいなご時世じゃなけりゃ即刻指詰めだからな⁉︎ よりにもよってそんなとこじゃロクな医者も無ェだろうから......』
……ここが火星で地球とのラグがとんでもないので通話ではなくビデオメッセージを再生しているらしい。何はともあれ、詰める詰めないだかの話は無しと聞いてホッとした。たった一度とはいえ会話した相手がそんなことになるのは精神的にキツい。
「ホント、アンタら何なんだよ」
不意にケンゴがこぼす。いかにも“ウンザリしてます”とか言いたげだ。
「何がだよ?」
「方々のヤミ金から同時に限度額までカネ借りてソッコーで夜逃げ、しかもカネは早々に違法スレスレ改造済クラフトを買ってさらにイカれた改造するのに全額使ってて、そっから怪しい火星探査レースで更に一山あてるつもり……とか根本からイカれてなきゃ思いつかねェ。挙句俺らまで巻き込んで、あのイスルギ・シンジに大恥かかせて……」
「アイツそんな有名なのか?」
「オイ知らねェのかよ、ってこいつらカタギなんだった。……あのな、アサゴ組のイスルギ・シンジっていやぁこっちの界隈じゃ有名人なんだよ、有名すぎて今度組分けしちまうけどな。素人はそれだけ覚えとけ。で、カタギ相手に悪さ自慢なんてダセェ真似したヤツはあの人にシメられちまうから、これを俺が言ってたっつーのは黙っててくれ」
ケンゴが楽しそうに語る。上司の悪さ自慢がしたくて堪らないって感じだ。
「わぁったわぁった、分かりやすいテンプレ解説ありがとよ」
お返しに俺は軽口で流しておいた。




