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17:4 - 切り捨ての血飛沫にて

 ムカデはゆっくり頭を引き抜いてこちらを振り向くと、恨めしそうに俺らを睨んで顎のドリルを豪快にうならせる。そしてまた頭部は撃鉄で撃ち出されたような凄まじいスピードで突っ込んで来た。もはや小型のミサイルでこちらが狙われているみたいだ、こんなホールがやたら狭苦しく感じる。


「クソッ! 組長ダレマの野郎、完全に部下オレら見捨てる気じゃねーか!」


 ヴィトのおっさんは涙目になりながら勢いよく泣き言を叫ぶ。コイツの所属はダレマファミリーという名前だったはずだから、つまり今のは自分のボスのことを言っているらしい。


「おーおー、親分に見捨てられたぐらいでンな弱気になってちゃ世話ねェな、おっさんよォ! 今ァ生き残ることが先決だろーがよ‼︎」


 対してケンゴはムカデ要塞の攻撃をなんとか回避しつつも、どこか呑気そうに言葉を返した。激しく体を動かしながら半分叫び声で返しているせいだろうか、口調も相まって、息が上がりながらも楽しそうにスポーツに興じてるみたいな声に聞こえなくもない。コイツ……やっぱ肝が太いってよりはバカなのか?




「ちょーっと不マジメかも知んねェけど、おっとォ‼︎ ……ッブねェ、取り敢えずゲーム感覚でも何でも生き残りゃーめっけモンってやつじゃねェか。なら変に深刻ぶってビクつくよか、サバゲ―みたいなもんって思い込んで気楽にやった方がまだ切り抜けられそうだろ?」


「ンだよそのお気楽理論、語るなら向こうのラッシュに聞かせてやってく……ぉわァッと! ほら見ろ、アイツ向こうで走りながら半泣きになってる」



 暴れ回るムカデ要塞の猛攻を走り回ったり飛びのいたりして避けつつ、俺はケンゴのお気楽なのか何なのかよく分からない心構えにツッコミを入れて注意をラッシュに向けさせる。顎を跳ね上げて指した先、アイツはアイツで半狂乱になりながら飛び跳ねていた。こういう時に真っ先にアイツを落ち着かせる役目を買って出るベイファンも今はそれどころじゃない。ただ実際、ラッシュはこないだのことがあってから俺もアイツの精神状態が心配ってのは何度か言及してた通りだ。だからってこんな話がアイツに効くとも思えないが、まぁ、何も心構えがないよりはマシだろう。

 ケンゴが人の群れをかき分けていくのを見送ってから、俺はカーゴパンツのポケットに手を這わせて棒状の道具を取り出す。発煙筒だ。


「オイ、狙うならこっちだデカブツ‼︎」


 俺は素早くキャップを擦り合わせて発煙筒に火をつけると、細い筒から赤い火花と煙を噴き出させながらホールの真ん中へと躍り出た。瞬く間に周りに濃い白煙が立ち込めて地面を覆い隠す。そしてムカデは即座に振り返り、ドリルを剥いてまっしぐらに俺に向かって突っ込んできた。……ビンゴ、やはり向こうは“俺を優先して狙わざるを得ない”。



 理屈は単純で、本当にこのムカデ頭の中に人間が入って操作しているなら、恐らくパイロットは視覚……つまり“計器類”と“窓からの景色”に頼って操縦しているハズだ。そして並みの計器類ならこの地下からの重力波で精度がガタ落ちているってことは、観測を諦めて実際にここに潜り込むしかなかった俺ら自身が実証している。

 つまりどれだけ高精度の計器を積んでいようと、この大ムカデのパイロット連中も近くにアイテリウム鉱脈なんて強力な重力波の発生源がある地下では窓からの景色を目で見て操縦するしかないワケで、発煙筒なんて振り回して視界を邪魔してくる俺みたいのがいたら真っ先に排除()()()()()()

 今の俺って要はヤツらにとってのゲームのお邪魔キャラみたいなモンだ。


 ムカデの凶悪な顎が鋭い軌道を描いて地面を抉る。ついでのように他のドリルやギアも回転し続けて殺傷力を上げようと躍起になっているように見えた。けどヤツらの狙いである俺はなんとか間一髪で飛びのいて、今のところ無事なまま二メートルほどズレた位置でスライディングから立ち上がってたところだ。クソッ、全力疾走なんてガラじゃないし体力的にももうキツいってのに。



「オラとっとと食い付いてみろよ! 鬼さんこちらァ‼︎」


 こんな手垢まみれのクソ安い挑発しか思い浮かばない自分のオツムの回転の遅さを呪いながら、俺はすぐ右脇に飛びのいた。ギリギリだが避け続けられている。




 しめた、コイツ思った通りデカくて速いのは良いがやっぱ小回りが利かないらしい。何度も地面に顎をぶつけてドリルを突き立て続けてて操縦者なかみがまだピンピンしてるらしいのがイマイチ謎だが、それでもコレは充分に“つけこめる”欠点だ。例えば、


「はいよっとォ‼︎」


 俺は飛び込む要領で眼前に迫るムカデの頭部に飛び掛かる、なるべく高く跳んで。変わらず直線的に突っ込んでくるに動作にしても、パイロットはちょうど地面を這う形でモップでもかけるみたいな動きで俺を狙うことにしたようだった。

 しかし生憎、とうに宙に浮いていた俺の体は突っ込んでくる要塞の眉間のあたりを踏みつけて滑って転がり、その勢いで不自然に凹みの奥にあった不自然すぎるレバーの端に背中を強打した。



「っガッ、ッてーな、ぁ……ぅオあ!」


 反射的に毒づいたところで、視界から急に消えた俺を探してムカデ要塞は頭を振り回し始めた。似合わないことにキョロキョロと周囲を見回しているらしい。

 で、上に取りついていた俺はレバーをとっさに掴むも大きく振り回されて吹っ飛び、そのまんま撒き散らされた濃い煙の中へと派手に転がった。指からすり抜けてった発煙筒の本体もどうせ向こうの方に吹っ飛ばされてるんだろう。つくづくイマイチ決まらないまま、俺は少し身を隠して息を整えることにしよう——


「ちょッ、やっと見つけた!」


 ——として煙をかき分けてムカデ要塞から距離を取ろうとしていると、同じように煙の中からベイファンがバッグを重そうに引きずりつつ俺を呼び止めた。思いもよらないタイミングに、俺も相手もうるさいのは気にせずに駆け寄った。

 確かに本当はお互い声の音量を抑えたいのはそうだが、どうせ今の大騒ぎじゃ目の前の人間以外は誰も何も聞き取れないだろうからってお構いなしだ。どうせ、そうでなくてもパイロットに外の音が聞こえてるかも分んねーしな。

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