17:3 - 鋼鉄の頭との対峙にて
「わぁ……」
「オイ何だこりゃあ」
目の前の光景に圧倒されたのだろうラッシュとトツカが立ち止まって感嘆の声を漏らした。……まぁ、確かにこの景色に感じ入るのは理解できなくもないが、俺からしたら目の前の派手さとかより未だに見えてこない横穴の存在の方が気になってそれどころじゃない。それにどうせ、いくらアイテリウムを見つけようと今は採掘できるような装備なんて持ってきてねーし。
「あのねぇ、感動するのもいいけど今は目的を優先しなさい。呑気に立ち止まってられるような状況じゃないでしょ。……まぁ、綺麗なのは確かにそうだけど」
科学者兼医師という肩書きのせいだろうか、俺と似たようなことを考えていたのはベイファンも同じだったようで、アイツは立ち止まった二人の背中を手で軽く小突いて先を急かす。というか先遣隊で足を止めたのは結局この二人だけだ。その周りを歩かされている捕虜たちはそうでもないようだが、イスルギやケンゴといった血の気の多いメンバーに容赦無く後ろから軽く蹴られて慌てて足を動かしていた。
洞窟の回廊を抜けた先にあったのは入り口にあったような天井に穴の空いたホールみたいな空間だ。先ほどと違って青い光は殆どなくて、先ほどの光景が星空なら今の光景は夜空というような感じだった。つまりさっきの光はやはり、外じゃ希少なアイテリウムの鉱脈か何かによるものってことか? 踏み入れると同時に今までの隙間風がそよ風並み、ビル風並みへと大きくなって砂粒が混じり始める。吹き込む風がホール内を渦巻いているらしい。
間違いない、ここが目的地みたいだ。
ホールの天窓の向こうの景色はもうとっくに夜だった。そりゃまぁ、穴に入る時点で既に夕陽が差していたから当たり前っちゃ当たり前なんだが。相変わらず砂を巻き上げて濁っている夜空では星なんて一欠片も見えない。地球でいうところの月の代わりであるほうの衛星が出ていたとしても見えていたかは怪しい。
「入口とそっくりなのは気にならないこともないけど……でも穴があるってことは通信できるかもね。とはいえまだ地下だからムリかも知れないけど、念のため持ってきた通信機あるハズだから一回地上のΠ小隊と通信してみてよ」
イヴが指示を飛ばす。強力な重力波で通信機は使えないという前提があったにも関わらず、前もってそんなものを持ち込んでいるのはさすがにどうなんだろうか、今回は役に立ったかもしれないがそうでなければ余計な荷物になって終わってたのではないだろうか。まぁ、もうそう思っても口には出さないが。
そうして背中の大荷物の中から通信機を探している途中、俺はホールの奥の方から物音を聞いた気がして手を止め顔を上げる。あったのは大岩が一つ、それがぐらりと動く。
ミシリとあくびのような軋み声を上げて、大岩は数メートルほど進み出る。そしてそのまま装甲表面の偽装を解いたムカデ型要塞の頭部が鎌首をもたげた。
「みんな避けろ!」
イヴがとっさに叫んで、ムカデというよりは鎌首をもたげた蛇みたいな動作で要塞の“頭部”はロケットのように突っ込んでくる。頭部のサイズは胴体の太さより一回りかそこら大きいくらいだが、いくら見慣れていたつもりでも実際そんなデカいものが高速で突き進んできたらそりゃ焦りもするワケで。だだっ広い地下のホールはすぐに先遣隊や捕虜の悲鳴で溢れかえった。
「きゃああああああ‼︎‼︎‼︎」
「があッ⁉︎ あ、足が! 足がァ‼︎」
「くっそ、ドメニコの野郎まで……!」
轟音を上げて要塞の大アゴは岩肌を削りとって盛大に土砂を撒き散らし、俺の思考が一瞬ショートしかける。ムカデの顎にあたる部分、削岩機にくっついてるような鋭いツメのついたギアやらドリルやらが大量に回転しながら猛獣のよだれのように砕いた土砂を吐き出していたからだ。暗くて色自体はわからないが、明らかに何らかの液体が混ざった泥だった。
そしてこれも当然っちゃ当然だが、そのおびただしい量の土砂は洞穴の闇の黒やら壁に僅かに含まれていたアイテリウムのうっすら光る青やらも混ざって全体的に形容しがたい色をしていた。
「ひでーな……無茶苦茶しやがる……」
で、俺はというとドサクサ紛れで捕虜を描き分けて壁際まで退避して事なきを得た状態で、巻き込まれた捕虜の無残な姿を見下ろしながら呟いた。そりゃ、俺だって何も感じないワケじゃない。今でこそ俺らに降参して捕虜になっているヤツらだが、仮にもこいつらは要塞の頭部でこの大ムカデを動かしてる連中の部下だったハズだ。それをこうも粗末に扱えるとは、あの要塞の中にいるマフィアのお偉方もなかなかに人の心というヤツを失っているらしい。
というか、それにしても。
「オイ、お前ら早く散れ‼︎ 固まってたらさっきの一回みたいに突っ込んでこられるだけで全滅しちまう! それと、ファミリーの上層部のヤツらはこの頭んとこに集まってるってさっき誰か言ってたろ、けどあれ中に人が何人もいられるような動きじゃねェよ‼︎」
俺と同じような疑問に行き当たったらしいイスルギが部下たちに指示を飛ばしながらその疑問を吐き出した。正直俺も理解しきれずに頭が混乱気味だ。
しかし、そうこうするうちにもムカデ要塞は岩壁にめり込んだ頭部をヨソにそのクソ長い胴体を更に穴から引きずり出してホール内での占有面積を広げつつある。大量に備えられたムカデの脚がギシギシガチガチと軋み声を上げながら、錆びて摩耗してもなお鋭く頑強なツメを壁や地面に食い込ませていた。
——ひとまず、疑問の解決は後だ。




