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17:2 - 偽物の星空の下にて

 まだ動けた残りの兵士たちも軒並み諦めて投降した後、例のムカデ型要塞を脇目に俺たち先遣隊はまだ“風探し”を続けている。


「なー、ノエミアだっけアンタ。横穴探しってもう意味ないんだろ? 一旦もう入口まで戻った方が良いんじゃねーのか」


 まず前提として、どうも敵方の戦力としては先週とさっきの突撃してきた構成員ソルジャーが主たるもので、使い捨て出来るようなチンピラはもはや在庫切れだという。つまり後は中核メンバーしか残ってないらしい。先週のあれでも半数、そりゃこの一週間も沈黙してたワケだ。

 まぁ、これは飽くまでヴィトをはじめとする相手の『脱落者』のタレコミによると、という前提を信用するならばの話でしかないが。


「不満は分かりますが意味はありますよ。どっちに進もうと残党がいる可能性はあるから特にリスク差はないですし。それに脱出してもこの洞窟に二度と入らないワケではないので、それなら今のうちに内部を探索したほうが良いと思います。毒ガスもけっきょく防げてるみたいですし、把握してる出入口が二々所あるならそれに越したことはないですからね」


 ともかくヴィトが自己紹介の時に言っていた“シチリアマフィア”という自供は虚偽ではなかったようだ。ただおっさんは今まで捕虜になってもそれ以上の情報を吐かなかったが、ここにきて忠義心の薄そうな捕虜が大量に投降してきたことで情報が大量に集まってその情報確度はみるみるうちに増していった。

 それによると、チームとしてのこいつらの名前は『ダレマファミリー』。上には二~三百年の歴史があるとかいうかなりデカい組織もいたりするようなガチガチのマフィア(の末席みたいな小さな一派)なのだという。

 そんなバックボーンがあるということで、いくら末席を自称しようとまだティートみたいな鉄砲玉がもういないとは言い切れないと俺は思っているが。


「だって探すも何も、相手方のメンバーこんだけいるんだぞ。こいつらに聞くか案内させりゃ済む話だろ」


 だがなんにせよ向こうには人員がなく、こちらには装備がない、となるとたどり着くのは膠着こうちゃく状態のみだ。と、ここでようやく話がさっきの段落冒頭へと返ってくる。相手の情報が入ってきて、しかもお互いが手を出せない状態であるとわかった以上、“開き直ってやることをやっといたほうが良い”というさっきとは真逆の結論が先遣隊メンバーの最終的な総意みたいだった。

 まぁ、そういうわけで俺たちはファミリーのお偉方が籠城しているとかいうムカデ要塞の頭部を目指すついでに捕虜の武装を剥がして、さらに固まって歩いている先遣隊の周りを囲むように歩かせることで寝首をかれないよう注意しつつ洞窟を進んでいる。




「やー、実を言っちゃうと俺らもよく知らねぇんスわ。ほら、アンタらの言うところの“ムカデ要塞”? うわダっせぇ……アレが洞窟の壁掘ってってどっかに潜ってったヤツだって、聞かれても誰も『頭』の場所答えらんなかったでしょ? そも、ここの地形情報を持ってるのって上の連中だけで、俺らは指示だけ聞いてりゃいいってんでなんも教えられてねぇんスよ」


「おいミケーレ、ウチの内部のことあんまくっちゃべってんじゃねーよ」


 歩きながらだらだらと続けていた俺とノエミアの会話に割り込む形で、捕虜の一人であるチンピラとそれを諫めるヴィトに声を掛けられた。チンピラはミケーレというらしい。何にしてもすぐに忘れそうだが。


「えー何でスかぁ、アニキだって一週間捕まってる間に散々ダレマ(オレら)のこと話したんでしょ? 今さらなんてことねっスよ」


「シチリアマフィアだってことしか話しちゃいねぇよ! これでも最低限黙秘はしてんだ、それをお前ら揃いも揃ってファミリーのことバカ正直にベラベラと……」


「それは俺だけじゃないじゃあないっスか」


「お前もその一人のクセしてガタガタ抜かしてんじゃねぇ‼︎」


 ……なんというか、いかにも軽薄そうな会話という印象だった。特にミケーレとかいうヤツに関してはそれこそイガラシとかトツカとかよりももっと軽そーな感じというか。ケンゴあたりともカブりそうな口調ではあるが、それが何か分からなくても致命的な要素において圧倒的にコイツの方が何か足りていない気がする。言語化するのが難しいがそんな感じの男に見えた。それとも、コイツがさっきから絶やさないヘラヘラ笑いを取り除きさえすれば幾分かマシになるのだろうか。



「ったくよぉ……でもウチのお偉方ってヤツはその横穴のことホントに知ってんのかね? そんなモン空いてたんじゃ毒だろーと何だろーとガスなんて効果ねーじゃねぇかよ」


 ヴィトは背中のティートに遠慮することなく、大声でまたブー垂れる。


「なモン俺らが知るかっての。でも穴が空いてたからって洞窟の中が一瞬で換気されるワケじゃねーんだし、単に俺らを仕留めるか足止めするためだけの仕掛けなんだろうさ」


「だからってそんなん実行されると俺ら下っ端まで困るんだって」


 俺のやる気ない返事にもおっさんのブー垂れ具合は緩む気配がなかった。が、ここで急にそれを制したのがイヴだ。


「ヴィトくん、静かに。皆も止まってくれないか。それとイスルギくん、いまシャツの下の発光が強くなってないかい? 一旦ライトを消してみて欲しい」


 敵兵に襲われて以降はずっとダンマリだったイヴが急にそれなりの音量で声を張ったおかげなのか、一同は一気に黙りこくる。このイヤに冷静な指示出しに各々が従ってライトを消すと成る程、イスルギのシャツの下、地肌の方からあの青い仄かな光が漏れていた。確かにさっきはシャツを脱がないと光っていることが分からなかったハズで、つまり順当に考えれば先ほどと比べて大量のアイテリウムが近くにあるということだろうか。

 ……だが待て。刺青がアイテリウムが近くにあれば青く光るというなら、なぜ今まで、もっと言えば地球にいるときからこの性質にイスルギは気付いていなかったんだろうか。火星に来るときも、コイツはアイテリウムが大量に使われているクラフトにわざわざ乗ってきたのに? そんな疑問が頭を一瞬かすめて、すぐ消える。



 疑問をすぐ忘れてしまった理由は簡単で、それはイスルギに注目したあとに視線を外して、そして周りの驚くべきものを見つけたからだった。

 今まではライトが明るすぎて少なくとも俺は気が付いていなかったが、明かりが消えた今は違う。明らかに違っている。というのも暗闇の向こう、洞窟自体もまた青く光っていた。俺たちがいる地点の、正確にはあの浮かぶ石ころが張っているたぶん球状の見えないバリアと地面の境目。今まで見えなかったハズの境界線の『円』を周囲の青い光が強調しているかのように、そこの線から暗闇に向けてグラデーションを描くように、洞窟の岩肌の上におびただしい量の光の粒が散らされていたのだ。

 それは満天の星空みたいにも見えたし、見通せもしない深海まで続く闇の淵を水面から見下ろしているような感覚にも似ていた。

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