16:5 - 説教中に湧いたアイディアにて
「こんな状況じゃなけりゃ殺してたぞ、刺されたくねェんなら知恵絞れ。俺らが地上に無事戻るためにはどうすりゃいい? それとも泣き寝入りか?」
問いかけるように、抑揚のない喋り方でイスルギは声を掛ける。口ぶりに妙な余裕を感じるというか、どういう立場なんだお前は。それとも自分ではなんとなく当たりがついてるとかか? ……ん?
「なぁオイ、取り込み中に悪ィんだが」
不意に俺は会話に割り込んで話の腰を折ってみる。つーのもアレだ、無言で自信なさげだが研究者コンビの片割れのリス女が小さく手を上げていたからだ。
「ぁ、あの……こ、この会話に入っていっていいのかは分からないですけど……私どこ探せばいいか分かったかも知れません」
ガリガリと、リス女ことノエミアは地面の砂地に今いる洞窟の模式図を描いていく。といっても内部の正確な全体図なんてこの場にいる誰も知る由もないのもあって図は細い試験管みたいな簡単なものだったが、本人的にはこれでも充分らしい。
「えっとその、まずこっちの端が丸いところが入り口部分でここの試験管の口みたいな部分が私たちの到達最深部だとします。まだあそこよりも先がありましたから、“まだ先がわからない”という意味で。それでこの試験管の中のこことこことここ。この三つの点が三人さんの見張っていた部分ですね」
ノエミアはそういって線で囲んだ中に点を三つ打った。そして真ん中の点に上から罰点を書き込む。と、ここまできたところでノエミアは急に自信を無くしたように小さくなった。ただでさえ小柄なのになんだかしぼんだように見える。
「い、言っときますけど理屈は単純ですよ? 大したことないですからね⁉︎ ……まず前提として、この両端の見張り地点から周辺は当然相手はいない考えられるじゃないですか? となると、敵およびイガラシさんの居場所って真ん中のこの点のあたりまで範囲が絞られるのは皆さんお気づきかと思います」
「あーダメだ、お気づきじゃ無かったわ」
今度はケンゴが話の腰を折った。コイツところどころ勘のいい男ではあるが、こういう“いかにも”な頭脳労働に取り組むのはどうもやる気が湧かないらしい。というかそもそも気づこうともしていないように見える。
たぶん馬鹿ではなくても脳筋というヤツなんだろう。
一方ノエミアのほうは気にせず話を続けた。
「で、ここからなんですが……。以前の襲撃のときに、カジロさんは入り口の穴の奥からハッチが出現してそこから兵士が出てきたって仰ってましたよね? 人が出てくるようなハッチがあったということは、当たり前ですがその奥には人が何人も入り込めるくらいのかなり大きな『本体』がいるワケです。ならそんな大きなもの、どうやってこの地下空間に入れたんでしょう? 少なくとも三、四メートル程度の穴じゃ潜り抜けられないと思うんです」
ここで話について来れているかを確認するかのように区切られる。
「……いいですか? つまり、この洞窟には最低でもクラフト一台が侵入できるくらい大きな『別の入り口』があるハズなんです。そしてそんな穴があるとするならまだ私たちが踏み込んでいない場所にあって、しかも拉致された人・されてない人の位置関係から考えても必ずこの近くにある。それなら……」
そう言ってノエミアはまた話を区切ると、自分の指をぺろりと舐めて宙にかざす。
「こうやれば、空気の流れが体感で分かります。風が来てるってことは、ある程度風が通るあとは風が来るくらいのサイズの穴が空いてるってことですからね。だからこの方向をたどって進んでいけば怪しい方向に進んでいけると思うワケです。……ご、ご清聴ありがとうございましたっ、あ、やっぱり空気流れてますよ! 風はこっちから来てます」
「ノエミア、さすがに緊張し過ぎじゃない?」
「ありゃ、どうもアイザック。複数人の前で発表するの緊張するんですよ……」
ほとんど相方ポジションのアイザックから声をかけられ、ノエミアはようやく胸を撫で下ろしたようだった。
研究員という立場であることから考えると、本当に人前に出て喋るのは慣れていないのかも知れない。世の中には一対一は大丈夫でも多人数相手になると途端に喋れなくなる人間なんてのもいたハズだ。別に珍しいことでもないか。
ともかく、俺たちは相変わらず光りながら宙に浮く謎の石ころを中心に固まって、リス女が指す方向へと進んでみることにした。言われてみれば確かに窓辺の隙間風程度のそよ風を肌に感じる、気がする。ってことは、さっきベイファンとイヴが騒いでた“正体不明のガス”ってのもそれこそ杞憂ってヤツかも知れない。イヤ、
因みにこの時の石ころはというと、相変わらずフヨフヨと浮かびながらラッシュの頭上で小刻みに揺れるだけだった。しげしげと、まるでこっちを観察しているみたいに。
「き、気になるんならアキの頭の上にコレ浮かべとく?」
負けずにしげしげと石ころを見つめ返す俺に、ラッシュは明るく声をかけた……つもりなんだろうが、どうにも声の中に妙にうわずったような響きを感じるというか、拭いきれない戸惑いと怯えの色が見えた気がする。
無理矢理明るく振る舞おうとしているのは明らかだった。
「……いや、それはお前が持ってな。いや、“持つ”っていうか……とにかく浮かべとくと良い。そういうのってお前の役目っぽいし」
でもこれまで何度か言ってきたみたいに、俺はこういうときどうやって傷付いている人間に声を掛けてやればいいのかよく分からない。というより、普段の俺の立ち振る舞いから考えて、むしろそういう気遣いを見せた方が怖がられたり警戒されるのは至極当然だと思う、“思ってしまう”。……いわゆる『キャラじゃない』ってヤツ。
結局、いつものつっけんどんな口調での言葉しかかけられない。我ながら難儀な性格だ、つくづく。
そんな折。突如、洞窟の天井が動いた。
ライトの明かりに照らされた岩肌がゆっくり横にスライドして、その下からぼうっと光が漏れてくる。装甲表面の擬装が解かれ、太さ三~四メートル・全長不明の、天井に張り付いた巨大かつ異様に太いムカデみたいな威容が姿を現した。
あぁそうか、と俺はようやく悟る。上から襲い掛かってきたティートの接近に気付けなかったくらい……つまり天井づたいの移動の物音にも気付けないくらいに、ここは天井の高い洞窟だと思っていた。が、実際はもっと単純。天井が高いというのは確かだが“そう”ではない、そもそも洞窟の天井部分丸ごとが岩肌に偽装された敵方の要塞だったのだ。アイツは単にその中を移動していたに過ぎないのだろう。
そういえば、世の中にはタコの皮膚を研究して、表面の素材を擬態する厄介な装甲が生み出されているとか聞いたことがある。ミリオタならよだれでも垂らしそうな、まさに夢物語みたいな話ではあるが、目の前に実在している時点でそれは夢ではないのは明白だった。要するに俺らからしたら悪夢というヤツだ。
そして鋼鉄のムカデの装甲がバカッと割れて、また新たな敵兵たちが小隊単位の数で姿を現し、地面へと降下した。




