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16:3 - 光の膜の内側にて

突然の剣幕にイスルギも戸惑い気味だ。


「なぁオイ待てって、ここまで来といてここで逃げ(ケツわ)んのかよ? “恐れがある”って、あくまで可能性の話じゃねェのか」


 しかしイヴは頑として譲らない。


「確かに思い過ごしかも知れない、でもそうでなかったらどうするつもりだい? 引き返すなら最悪でも”無駄足だった”で済むけど進めば最悪犠牲者が出る! 僕は先導役としてここで誰一人死なせるワケにはいかないんだ」


「それに、そこの暗殺者を仕向けられた時点で相手はこちらを消そうとしてるのは明らかだわ。戻るべきよ」


 同じく撤退を進言していたベイファンも一言付け足してイスルギを説得している。今この場にいない部下四人の決定権も左右しかねない人物相手だからこそ説得にも力が入るんだろうか。幸いイスルギも全く聞く耳を持たないような態度ではなくしっかりと状況を見極めようとしているようだった。

 ……ん? ちょっと待て、それとは別にイヴのズボンのポケットがうっすら光っている、ように見える。光が弱くてハッキリしないが、あの光の色は……。

「わぁった、退こう。取り敢えず洞窟内の環境は分かったし、内部に敵対勢力がいるってのも間違いねェ。アイテリウム掘るよりも先にそっちを片付ーー



パンッ



 イスルギが喋っている最中、何かが弾けた音がした。イヴが慌てて自分のズボンを見る。弾けたのはさっきボンヤリと光が漏れていたあのポケットだ。中に入れていたハンカチやらがボトリと落ちる。そしてそれらの中から飛び出した、青く輝く小さな欠片。


 イヴが拾ったあのアイテリウムの金属結晶だった。


 飛び出した、というのは比喩表現だとか言葉のあやだとかそういうのではない。むしろ直接的な表現だ。それは重力に逆らってヒュンと、イヴやイスルギ、俺や技研コンビの頭の周りを羽虫みたいにくるくると飛び回り、最後にはラッシュの目の前でピタッと止まる。子供が初めて見るおもちゃの周りで跳ね回っているような、そんな動き。石ころには似つかわしくない比喩だ。まるで《《石ころが生きて自由意志を持っているのが当たり前》》みたいな。

 遠くや近く、方々でライトが放つ光を飲み込んで“薄暗い”程度になった洞穴の闇の中でも、石ころから青い光の膜が球状に伸びて俺達や周囲を包み込むのがよく見えた。



 で、異変にはすぐに気が付く。匂いが消えた。

 そりゃ嗅覚に強い亜人デミであるヴィトのおっさんやイスルギレベルと俺とじゃ比較にもならないが、そんな純人種(ネイキッド)の鼻でも嗅ぎ取れるほどに空気中の硫黄(正確にはリューカナントカ)の匂いが消え失せたワケだ。むしろ、鼻が慣れてさっきまで何も感じてなかったクセに、あまりに匂いが無くなり過ぎて『今までこれほど周囲が臭かったのか』と気が付いた。……つくづく現金な鼻だ、とは思う。


 ともかくどういうカラクリなのかは知らないが、間違いなく空気中の有害物質は光のドームの内部だと取り除かれているというのが直感的にわかる。気がする。

 ところで、だ。結局この目の前をヒョンヒョン飛び回ってる石ころは何なんだ? 言うまでもなく、いくら金属結晶の欠片が食い込んでいるとはいえ宙に浮かぶ石ころなんて、火星だろうとどこだろうと人智の及ぶ範疇はんちゅうから外れた代物なのは間違いない。それに石ころ自体のあの挙動も気になる。生きてるみたいだとは言いはしたが、子供が何も喋らずに無言でハシャぎ回っているみたいだ。早い話が、俺からすりゃ不気味なことこの上なく見えた。ただ、全員の目にそう見えているかというと割にそうでもないようで。



「何これ……妖精? じゃないよね……?」


 ラッシュが目の前で止まった石ころを見つめながらそんなことを呟く。欧米人って割りとそういうメルヘンなものに憧れてるイメージだけが何となくあるが、ご多聞たぶんに漏れずコイツも年相応にそうらしい。というかむしろ、歳から考えると若干シュミが幼すぎないか? 確かに今はたまたま石ころがそういう見た目と言えるかも知れないが。


「何にしてもコイツがガス防いでるらしいし、取り敢えず全員この石を中心にして固まって歩け。一応言っとくがなるべく静かに、大声出して敵方てきがたに場所は気取られないようにな。あとおっさん、そこのティートとかいうヤツ担いでついて来い。忘れてくんなよ? とっととケンゴたち回収して逃げ(ズラか)んぞ」

 並びとしてはごく自然に、不思議そうな顔のラッシュを中心に集まって、イスルギのそんな指示で俺たちの撤退戦は始まった。




 ケンゴ・ヤソジマ・トツカの三人がこちらに気付いて歩いて来るのを見たのは大体三〇分後、背中側にビクつきながら八〇〇メートルくらい引き返して岩場を這い上がったところだ。

 全員離れすぎないように固まっての移動となるとやはり時間はかかる。元から洞窟の天井はティートの接近にも気付けない程度には高かったが、このあたりまでくると入り口のあったあの“エントランス”にもかなり近くなって天井はさらに高くなっていた。行きの道中でライトを設置していたおかげで道には迷わないものの、洞窟の規模・全容は未だに見えてこない。つーか結局この地下空間は何なんだ?


「んぁ? イスルギさんスか、メンバーの頭数あたまかずそろってるってこたぁ結局引き返すことになったん——


「どころじゃねェよ、怪しいガスかなんか投入された。もう下の方は充満してきてる、らしい」


 事情も分からないケンゴにイスルギが手早く説明する。が、説明されても付け加えられた単語一つのせいで事態の急変をいまいち信用できないらしい。まぁ、そりゃそうだが。

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