15:5 - 一時の気の緩みにて
ここでふとイヴが疑問を口にする。
「というかイスルギくん、今までこんな発光現象には気づいてなかったのかい?」
「さぁな。でもこのシャツ、ってか極道の着るシャツってなぁちょい特殊なんだよ。遮光カーテンみてェな素材使ってて下の刺青が透けねェようになってんのさ。そもそも光自体が弱ェし、周りが明るいトコで気づくのはさすがに無理あんじゃねェか?」
対するイスルギは肩を竦めながら答えた。
「まぁでも、これを利用すればアイテリウムを見分けるのには重宝しそうだしこれはこれで役に立ちそうだ。例えば地上でいずれアイテリウムが通貨の代わりになるのなら手渡されたものが本物かどうか見極めたりとかね。まぁ、取り敢えず気を取り直して奥に進もうか。それとここに残ってロープが外れないように見てる人はけっきょく誰になるのかな?」
そしてイヴはそんな風に話を締めると、ズボンのポケットに先ほど拾ったアイテリウム結晶入りの石ころを押し込んで、それからおっさんの提げていたもので継いだロープをぐいぐいと引っ張って強度を確かめる。
一瞬ライトの光を受けた石ころと結晶がキラリと、意味ありげに光った気がした。
……が。
「オイ、なんか臭ぇぞ。屁かぁ?」
「たぶん硫化水素の匂いか何かだ、みんな止まって。有毒だよ」
四人分のロープを繋いで繋いで、入口のあのペグからたぶん二キロ弱ほど進んだ地点。先頭を(強制されて)歩くヴィトのおっさんが突然穴の奥の地下空間に微かな匂いを感じ取り、イヴがメンバーたちを制する。
これまで何度か行き止まりにブチ当たったものの、引き返してはロープを繋ぎ続け、それでもまだ先は続いている状態だ。しかしそれでも自分たちの前に広がっているのが未知の空間であることに変わりはなくて、ともすれば進路をライトで照らしていても全く進んでいないのではないかという錯覚と不安感に襲われた。闇の先に何があるのかなんて全くわからない。それとロープの継ぎ目には小さな明かりと共に各一人ずつ見張りを置いているので、先遣隊の頭数は三人減って九人。
ちなみに減ったメンバーはイスルギ配下のあのヤンキー三馬鹿だ。どうせ現在進行形で暇してるところだろう。対する敵勢力はというと、出てきたのと同じ洞窟を探査しているハズなのに影カタチはおろか物音や気配すら無いままだった。
「リューカスイソだぁ? 何だそりゃ。さっきの屁は冗談にしても、でもこれ温泉とかの匂いだろ。腐った卵みたいなアレ」
「そう、イタリア人ならお馴染み、温泉の“硫黄の香り”ってヤツの正体だよ。でも本当の純粋な硫黄っていうのは無臭で、こっちと勘違いされがちってだけなんだよ」
「んー……やっぱり地質学とか化学は専門外だからなぁ、素人の僕が口出しするよか信用できそうだ」
おっさんとイヴが問答を繰り広げる中、確かアイザックだかヘインズだか名乗っていたあの科学者の兄ちゃんがあっさりと白旗を上げる。これだけ自信無さげなのは意外だったが専門外の分野に対する科学者なんて案外こんなモンなのかも知れない。
「ちょっとアイザック、あなたゴーディマーの名前を背負ってる自覚あるんですか? 専門外の分野に対して無関心すぎますよ。もっとこう、“自分に知らないことがあるのが許せない!”って感じにガッツいてくくらいの——
「ノエミア? なんか変なスイッチ入ってない?」
「ありゃ、また……どうもアイザック」
そうだった、もう一人の女科学者のほうはノエミアだかカヌだかだっけ。また“余計なこと”をくっちゃべってアイザックにツッコまれている。入口からずっと静かだった反動なのかイマイチ緊張感に欠けるというか、何というか。
「ね、ねぇ……ここでこんな騒いでて良いの?」
口数が少なかったメンバーたちの中で一際だんまりだったラッシュも、さすがに今の状況には思うところあったようでようやく口を開いた。口調も声色も、いつもの騒がしさとは対照的だ。
「さすがにみんな気が緩んでると思うというか、ここって先週襲ってきたヤツらの根城なんでしょ? もっと静かにしなくちゃダメなんじゃ……」
不安そうな声を出す我らがメカニックにイスルギはすかさず言葉を返す。
「でも裏を返しゃ、この一週間手出しもしてこなかったろ? それも小隊一つぶん兵士を殺られといてだ。まぁ、撃退できた以上は過剰に警戒する必要も多分ねェけど、でも相手方の意図が読めねェってんで割とみんなイラついてんだと。多めに見てやってくれ」
「オイオイ……だからってこの人数でツッコんで来てんのかよ、割としょっぺぇなオマエら」
暗がりに響いたその声は唐突だった。




