15:4 - 暗中の薄明かりにて
イスルギはちょっと意外そうな顔をしながらその感想を述べた。
「夢だぁ? 極道に偏見まみれだったテメェの口から出る言葉たぁ思えねェな、しかも夢見るどころか近寄ろうとも思わんかったクセしやがって。とにかく、今のヤクザはこんなもんなんだよ。仁義・任侠なんざ死語もいいとこだ。昔のヤクザと今のとで共通点って言や、世間から睨まれるような金の稼ぎ方してるってことと背中のモンモ……いや、刺青くらいしか残ってねェわな」
「やっぱお前も入れてんのか、ヤクザによくある感じのデカいタトゥー。あんなん目立つのに」
「タトゥーじゃねェよ、刺青だ。極道は紋々っつーけど。確かに目立つけど、あれは別だ。覚悟の表れなんだよ。和彫りっつってな、施術の針を深くまで刺すから複雑で鮮やかに柄が彫れる。それも肌のかなり広い範囲を針で刺すしな。タトゥーみたいに平べったい模様を浅くワンポイントしか入れないみてぇな女々しいのとはワケが違う。……っつっても、彫り師の裁量によって変わるからせいぜい誤差レベ——
「ち、ちょっと待ってもらってもいいかな?」
唐突にイヴが話を遮る。そうだった、今はそんなこと話し込んでる場合じゃなかった……とかでもない、イヴは食い入るようにイスルギの顔を見つめていた。もっと正確にいうと顔より少し下、シャツの襟のあたり。
「イスルギくん、悪いんだけどシャツを脱いでくれるかな?」
「あ? いきなり何だよ、言っとくが俺はンなシュミ無ェぞ」
「そういう話じゃないから早くしてくれるかな」
明らかに声の調子が低くなり妙な迫力が醸し出すイヴに、イスルギは肩をすくめてからシャツのボタンを外してインナーごと脱いでみせた。薄暗い中で露わになったその背中にはなるほど、肩口に掛からないようなデザインに細かく調整されてはいるものの、恐ろしい形相の荒々しい仏(たしか明王といったか)の姿がかなり大きく彫られている。牛にまたがった明王の六本もの丸太のように太い腕には手に手に剣やらゴツい輪っかやらが握られていて、こういうのを見慣れていない人間でもわかるような見事なデザインだった。
そして、それだけではなかった。
「何これ……うっすら光ってる?」
ラッシュが不可思議なものを見たときみたいな声を上げる。というかこんな薄暗いのに図柄がこんなに細かく見れているのがそもそもおかしい。だがそれもそのはず、ところどころが刺青はボンヤリと仄かに、しかし確かに青く光っていた。今まで分厚い生地のインナーとシャツで隠れていて誰も気づかなかったが、まばらなボディペイントのようにくっきりと紋様がイスルギの皮膚に刻まれている。
「袖口からやっと漏れるくらい弱くだけどやっぱり光ってるな……イスルギくん、いま何も感じないかい?」
「光ってる場所が熱いとかかゆいとかは特にねェな。でも何だコレ? 蛍光塗料みたいなチャラい刺青なんざ入れた覚えはねェぞ」
訝しむイスルギにベイファンが反応した。
「紫外線《U V》ライトも無いのにこの光り方、蛍光どころか夜光塗料とかそういうヤツよ。でも夜光塗料にはリンとかの有毒成分が含まれてるから刺青には使われないわ。……つまり、こんな光り方するハズないってことね」
じゃあこの青い光は何だ? 話を聞いた誰もがその疑問にぶち当たり数秒ほど沈黙が流れて、不意にケンゴが口を開く。
「いや、しっかしアレだな。“青く光る”なんてアレみたいだよな、えーとアイテリウムだっけ、例の金属。クラフトが飛ぶときに光ってるあの部品の原料なんだろ? なんかイスルギさんも前に、刺青ってデントー的? には岩を削ったヤツで色つけてるとか言ってたじゃねェスか。変な電波っぽいの出してる金属となんかの岩とか、いかにも光りそーってか関係あんじゃね?」
先遣隊メンバーが一斉にケンゴの顔を見た。ケンゴ当人はそんなリアクションを受けるつもりは全くなかったようで、突然の周囲の反応に面白いように身をたじろかせている。いやビク付き過ぎだろ。
しかし一方で、ケンゴの話も説得力自体はあるような気もする。入れ墨に使われる塗料だか顔料だかには詳しくないが、もし実際に“岩絵の具”と呼ばれるような鉱物素材が使われている代物ならば、使っている物によってはもしかしたらアイテリウムが発する重力波を受けて光るような成分が含まれているのかも知れない。そんで、それ以外に自然界で発生する重力波といえば、アイテリウムが発生させるものとは比較にならないような、それこそ原子レベルの小さな世界に作用する程度のエネルギーしかない。
つまり重力操作技術が多く出回るようになったとはいえその影響は未知数というワケだ。ってことは未発見の反応が起きる鉱物なんてものがあっても不思議ではない……のかも知れない。ま、素人の俺じゃ何ともいえないが。




