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15:2 - 突入前の報告遅れにて

「ともあれ、アキが名前を把握してなさそうなのはこの三人か。あとのメンバーはいいかい? それとも今さら“もう一度名前を教えてくれ”って土下座でもする?」


「しねーよ」


「はぁ……ンなモンどっちでもいいわ、アキは一息付けたんだよな? とっとと動こうぜ」


 一言だけ返した俺に、ずっとダンマリだったケンゴがもう限界と言わんばかりのため息をカブせつつ言った。




 さっきまでの騒ぎでよく周りを見れていなかったが、降り立った地面で周りを見回してみると、ちょうどここはエントランスホールのようにだだっ広くて天上の高くなっている空間のようだった。今いるのはゆるめのすり鉢状になっている地面のちょうど中心。壁から天上まではドーム状になっていて、空間はやたらデカくて出来の悪い卵みたいな形の広がりを見せている。そしてホールの横には、それほど高くはないもののそれでも七~八メートルほどの巨大な回廊みたいな下り坂の横穴が伸びていた。今のところ足場がちょっと悪い以外は直線の経路のみが見えている。……正直、楽観は出来ない。


 理由はごくごく単純で、天井のあの穴から飛び出していたハッチの向こう側がこんな大きいということは、それだけ敵勢力のクラフトだか何だかもデカいということになるからだ。どうもここの地下に潜んでいるらしい謎の勢力はこの地下空間にどうやってか入り込んで、それからそんなサイズの要塞を運用できるまでに成長していたらしい。たぶん大会開始二日目の時点で。

 要するに展開速度があまりにも早すぎる。

 上の穴の他にも、しかももっと巨大な穴がこの地下空間と地上とをつないでいるんだろうか。どの道、ここからさらに穴の奥へと分け入って行かなきゃならない。幸い、一時間かけて機材を運び込んだおかげで強力なライトなんかの機材は大量にある。また命綱となった巻き取り式ロープもまだ伸ばせる長さは充分残っている。なら簡単、あとは進むだけだ。

 起点のペグからの命綱の長さ:十五メートル。



「で、何で俺が先頭なんだよ?」


 ヴィトのおっさんが背後からせっつかれつつ疑問を口にした。で、せっついてる当人であるイヴが何てことないような声色で答える。


「君、イノシシ系亜人(デミ)って言ってたろう? イノシシは鼻が良いからね。洞窟の内部はガスが発生してることも多いから、何かあったときにニオイで違和感に真っ先に気づける」


「あぁ⁉︎ ンだそりゃ、結局ただのイケニエじゃねぇかよ‼︎」


「ま、生け贄のヤギ(スケープゴート)って言うよりは炭鉱のカナリア(けいほうそうち)かな、イノシシだけど」


「意味わかんねーことホザいてんじゃねぇ! 理解できるように言えや‼︎」


 おっさんがキレ気味に答えつつもイヴは順番をどうこう入れ替えるつもりは無いらしい。そりゃそうか。イヴの手からはおっさんに、いつかのアリアドネ号各クルーが持たされていたあの拳銃の一挺がしっかり突きつけられている。



「でもなんで先頭なんて大事な役割をヴィトさんに? 動物の生態については専門外なんですが、嗅覚の鋭さで言えば犬人種(ドッグ)のイスルギさんが良かったのでは?」


 今度は褐色のリス女、カヌが岩場を登りつつイヴに疑問を投げかける。疑いというようなものではなく純粋な疑問という感じだった。研究職というのは疑問を見つけたら質問せずにはいられない性質(タチ)なのかも知れない、勝手なイメージだが。そして、対するイヴも屈託なく答える。


「実際のところ、少なくとも原種のイヌとイノシシってほぼ同程度に鼻が利くらしいんだよ。だったらリーダー格のメンバーと捕虜一人、どっちを危険な役目に付けるか? って話になる。テラフォーミングで問題なく地殻運動も“運用”されている以上、洞窟で発生するようなガスには有毒なものも多いしね」


「おいフザケんなよ、なんだって本人の前でそういう命に係わる話ししてんだよ……しかもそんな状態で俺ぁ銃突きつけられてんだぞ、情け深くって涙出てくらぁな、え?」

 あまりにも事もなげに言い放つイヴにヴィトのおっさんも不満気だ。突き出た鼻をヒクつかせてまさしく“ブー垂れて”いる。イノシシだけに。

 起点のペグからの命綱の長さ:二九メートル。




「あとイヴよぉ、こうやって実地調査に来る意味ってあったのか?」


 俺もまだ話す余裕があるときに疑問をイヴにぶつけておくことにした。


「来る意味?」


「重力波なり別のソナーなり、クラフトからこの穴の奥を見る機械だとかなんだとかっていくらでもあんじゃねーのか。応急処置レベルでも掘削機はとっくに修理したろ、なんでわざわざ俺らが先遣隊に?」


 イヴは不思議そうに俺を見て、それからはたと気が付いたように一瞬顔が曇った。


「そうだ言ってなかった、申し訳ない。ここの地下のアイテリウム鉱脈、僕らの想定してたよりもかなり巨大らしいんだよ。それで地下から発生してる重力波の乱れが大きすぎて計器類の精度がだいぶ落ちてる。安モノ魚群探知機レベルの不鮮明さしかなくてね。当然洞窟の内部構造なんてよく分からないし地上とも通信できない、そういう意味で『複雑』って言ったのさ」


 ……そんなこと初耳だ。一週間前はビミョーに勿体ぶって隠してたくせしてよく言うわ、マジで。


「は? おい待て、何で俺にその報告が上がってないんだよ。一応リーダーは俺なんじゃねーのか」


「まぁ落ち着いてよ、アキもこの一週間はグループの代表としてずっと忙しかったでしょ? 言う機会無くしちゃってね」


 まぁ、確かにそうではある。でもここでそれを認めてしまうと、イヴ相手だとそこから勢いだけでなし崩し的に“説得”されそうになることを俺は知っていた。

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