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14:2 - ぶら下がる人参の下にて

 教師役を買って出た俺たちとイスルギ(便宜上『教師チーム』と呼ぶことにする)だが、生徒である組員たちについて一つ誤算があった。案外勉強にアレルギーを持ってるヤツがいなかったのである。というより、勉強アレルギーの拒否反応よりもイスルギへの忠誠心の方が大きいヤツが多かったというべきか。

 そりゃそもそもイスルギが将来持つ予定だった自分の組の構成員が集まってるとか、そうでなくても母体となるアサゴ組の若頭補佐(ナンバー3)だったとかは聞いているが。


 さらに付け足しておくと、全ての始まりであるイスルギの失敗(ポカ)そのものが仕組まれたものだったことも判明している。内部抗争を起こすだけ起こしてくたばったあの若頭のフチザキが意図的に情報操作してイスルギを失敗するように追い込み、それで失脚させた上で排除するように画策していたらしい。そのためヤクザ連中にとってのイスルギは『調子に乗ってバカをやった“アホ幹部”』から『上司の奸計(かんけい)に掛かってしまったものの、何とか体勢を立て直した“尊敬すべき兄貴分”』へと返り咲いていたことも大きいのだろう。

 ……にしたってアツすぎやしないかコイツの人望、なんか腹立つな。コイツらとしては敬愛する兄貴分からの指示に諸手を挙げて従っただけという状態なワケだが。



「でだ、実を言うとこれだけが目的ってワケじゃない。本来ならこれはレース参加者に課せられてるサブミッションだから俺らには無関係なんだけどな、俺らも遠慮せずに手を出すことにした。なにせこれはカネになる」


 とはいえ。さすがにそんな兄貴分の言葉といえども、組員自身の命が懸かった場でこんな風に思わぬ方向へと話が転がればヤクザだろうと怪訝(けげん)な顔になる。



「え、は? ここでカネなんスか?」とイガラシ。


「俺らに関係ないんなら無駄足なんじゃ……?」とヤソジマ。


「生き死に懸かってんのにそこかよ……」とトツカ。



「イヤまぁ、お前らがそこで面食らっちまうのは分かる。でもな、今回上手く立ち回りゃそんなん四の五の言ってんのすらどうでも良くなるレベルのカネが転がり込んで来んだよ」


 一方でイガラシはめげない。バカにも分かりやすく伝えるために言葉を必死にたぐり寄せている。


「まぁ、今の俺にはカネがいるってのも皆知っての通りだ。組長(オヤジ)に詫び金持ってかなきゃなんねェ。だからお前らから見たら巻き込まれたみたいにしか見えねェとは思う……んだが、これはそういう話じゃねェってのは理解してくれ。詫び金なんて端金(ハギン)にすらなんねェレベルだ」


「いやいやなんスかそれ、結局アンタのやりたいことにオレらこき使おうって話なんじゃないんスか?」


 三人だけでなく他の組員からも刺すように鋭い声が上がる。マズい、これじゃ二日目にあったあのイザコザの焼き直しじゃねーか。


「だから待てって、あんま騒いで(イキって)んじゃねェよ。これはそうじゃないしこれはお前らのためにもなる、一回落ち着いてハナシ聞いてくんねェか」


 しかしイスルギは余裕の笑みを浮かべながら静かに組員たちを制した。焦るどころかイヤに得意げにすら見える兄貴分の反応に、ヤクザ連中は半信半疑ながらも矛を収める。



「まずそのサブミッションの内容なんだが、それはある金属資源の採掘だ。それもかなりまとまった量がいる。……ところで二日目のイザコザのときに俺がチラッと言いかけてた言葉覚えてる奴いるか?」


「……クラフトに使われてる金属がどうとか、でしたっけ?」


 イスルギの問いかけにタチバナが返答した。声の感じからして渋々答えたように見えるとは思う。安心してくれ、実際見事なまでに渋々という感じだった。周りの組員たちからあまりに返事がなかったので助け舟を出したのだろう。まぁ、元々コイツらの記憶力には俺らも期待してなかったけどな。


「そうだタチバナ、ナイスパス。クラフトが飛ぶとき、いっつも青っぽく光ってる金属パーツあんだろ? あれの原材料こそがその金属資源だ。火星でしか見つかってない青い金属、アイテリウムって呼ばれてる。まぁアルミみたいなモンだ、うん」


 さすがのイスルギもコレではマズいと察したのだろう。話題は基本的なことのおさらいから入った。


「はぁ、で、それが何スか?」


 反発する声がまだまだ尽きないが、それでもイスルギの懇切丁寧な説明は続く。


「だから焦んなって。そのアイテリウムってヤツは火星でしか採れないってのに、ここエリア・ニュクスの外では採り尽くされつつある……っつったらどうなると思う?」


「価格高騰、とか?」


 ナイス、単にぼーっと話を聞いているだけに見えていたケンゴが打てば響くような返事を返してくれた。やっぱコイツ、思ってた以上に勘がいい。“野生児の勘”とかいうヤツかも知れないが。


「ケンゴ大正解、つまり今の世の中でもクソ重要で誰もが欲しがるようなブツなのに、今じゃもうほぼ未開の地である“ここ”でしか採れない。だから俺らがここいらのアイテリウムを掘り出して売っ払う。すると下手したら小国の国家予算並みのカネが手元で生まれちまうってワケだ」


 やっと話が核心に近づいてきてイスルギは嬉しそうだ。見ると、ヤクザ連中のなかでも眉毛がピクっと持ち上がったヤツがちらほら居るのが見える。

 とはいえ、さすがに利益だけでは動かないヤツも多そうなのでもう一押し。


「おっと、伝えることはそれだけじゃねェぞ? そこに建ってるビルは分かるな? ……娼館マダム・バタフライ、最高級なんて言葉でも足んねェような東南アジア屈指レベルの“嬢”が()()りみどりって話だ。……で、そもそも何でそんなヤツらが火星にいると思う? 答えは簡単、アイテリウムをカネの代わりに取引して商売おっ始めようってんだよ。あそこのボスの婆さんから直接聞いたんだ、間違いない。採掘なんて自分らでやらずに、男どもからカネせしめるみたいにアイテリウム稼ごうって魂胆なんだとよ。酷ェ話だよなぁ、客が掘り出したお宝を商売を通じて奪っちまおうだとか。真似する余所の女とか男娼ジゴロも出てくるかもな。そうなりゃきっと、そこの市場とか集まりの中でもアイテリウムが通貨の代わりになっちまうんだろうなぁ……後ぁ何が言いたいか、わかるよな?」


 ややゲスい笑みを浮かべつつイスルギはいう。理解してザワつき出した組員もいればキョトンとした組員もいてなかなかカオスな状況になっているが。


「ヘッ、察し悪ぃな。初心(うぶ)ばっかかよ……あのな、エリア・ニュクス(ここ)から脱出するにしても諦めるにしてもどっちみちその前に生きて行かなきゃなんねェワケだし、そのためにはカネがいる。ここでもな。ただしそのカネは国が発行するようなモンじゃなくて、これから俺らの手でいくらでも掘り出して作り出すことができるとしたら? カネが欲しけりゃ掘りゃあ良い。これからこの“街”で生きて行きてェんなら自力で幾らでも稼ぎゃ良いってワケだ。それさえできりゃあの娼館だろうと遊び放題! な? 悪くねェだろ?」


 結局、イスルギが直接的に真意を説明して話を締める。組員全員がようやく話の意味を理解して、そんでにわかに沸き立った。

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