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14:1 - おさらいの授業にて

オブザーベーションポスト(obsevation post)

:コース脇などに点在している監視塔のことで、ここに公式スタッフ(マーシャル)が待機している。

管制からの指示で各種の合図や旗振り、ボードの提示といったレース全体の進行を務める。

 その翌朝からの、つまりエリア・ニュクス生活四日目からの一週間は怒涛のように過ぎていった。初日からアレだけ濃い三日間を過ごしたのにも関わらず、無我夢中だったのか時間が異様に早く流れ去っていくように思える。

 もしかしたらエリア・ニュクスの赤茶けた荒野とこのレース自体に若干慣れてしまったことも関係があるのかもしれないが。


 そんな状態にまでなって一体何をやってたんだって話だが、簡単に言うと『町長業務』だ。……悪ぃ、簡単に言い過ぎてワケ分かんねーよな、説明するわ。





 マダム・バタフライでの自己紹介のときに言われた通り、俺はどうもこの寄せ集め集団の中で重要な人物ってことになっているらしい。そりゃ確かに、アリアドネ号オーナーの名義こそ俺の名前になってたハズだが、だからってこんなところに引っ張り出されるのは俺当人的に違和感がぬぐい切れない。たぶん“面倒ごとは押しつけてしまえ”の精神でこんなことになってるんだろう、そんな気しかしなかった。

 ともあれそんなことになってしまうと、俺は様々なことがあるたびにしょっちゅう声を掛けられ、でもって決断を迫られるようになる。例えばここの立地はどうなっているのか、今まで以上に詳細な調査が必要なことに始まり、更にはここに留まっていて安全でいられるのか・知り合ったΠ《パイ》小隊はけっきょく仲間として迎え入れるのか・というかそもそも生き残ったヤクザたちの処遇はどうすればいいのか・これ以上の襲撃者に備えるのならば俺たちはどうすべきか、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ……。

 でもって、人間というのは決断するごとに結構な量のエネルギーを使っちまうワケで、要するに俺はこの一週間常に気を張りっぱなしでいなければならなかったってワケだ。つまり平たく言うとすっげー疲れた。


 またウチの陣営そのものにもそれなりに変化があった。何がどうなってたかってーと、Π《パイ》小隊とか以外にもウチの陣営に加わりたいって物好きが出て来だしたのだ。

 まぁ今になって考えてみりゃ、それこそ今までずっとそうだったと言えるのかも知れない。アリアドネ号に乗るたった四人ぽっちのチームに、たまたま居合わせたヤクザの取り立て集団に某国のスパイもやってたヤバめのキャバレー、さらにはワケアリ特殊部隊まで加わって……と雪だるま式に規模が膨れ上がってきた。今現在のレース参加チームの中でこんな風に集まってるヤツらがどれくらいいるのかは知らないが、どの陣営から見てもウチは無視できない規模の勢力になりつつある。

 さっき物好きとは言ったが、生き残るためにはこうするのもやむなしと判断するのも理解できなくはない。まぁ、そんなこともためらう怪しい集団にしか見えないような気もするが。


 そんでもって、そうやって集まってきた加入希望者たちのクラフトをどこに停めるかというと、そりゃマダム・バタフライのビルの周りしかないワケで。あっという間に雑多なクラフトで形成された集落の完成である。中には自分たちの食料を売買するための市場(マーケット)開設に乗り出すヤツやら、チーム間で協定を結んで隣のチームのクラフト同士の間に物干し竿やらロープを掛けて有効活用しようとするヤツらまで出てきて、集落はみるみるうちに“街”というに相応しい外見になっていった。……いや、どっちかってと“寄せ集め村”って感じか?

 ともかく、さっき言ってた『町長』ってのはこのことな。


 それとアリアドネ号のメンバーは相変わらずだ。ラッシュも『アタシはもう大丈夫!』と豪語している。あの血生臭い抗争を見てしまったトラウマからそれなりに回復しているように“見えた”。つまり「実際は大して大丈夫じゃなさそうだ」というのが俺の見立てだ。こういうときのトラウマのしつこさは俺もよく知ってる。その証拠にアイツ、昼間は騒がしいながらも視界の端にヤクザ連中がうつると未だに一瞬固まるし、なにより夜間は自室に閉じこもって出てこないというのも俺は知っていた。

 でもこういうヤツを立ち直らせる治療行為なんて俺に出来るハズもないのもまた事実で、結局そのことについては触れられないままでいる。


 あと一週間であったことといえば……あぁ、そうだ。

 イスルギはあのまんま復活してピンピンしている……まぁ、まだ薬で痛みを抑えてるハズだが。内部抗争の果てに左手の手首から先を潰して無くしちまったアイツだが、一命はあっさり取り留めて失った部分を機械の義手にして舞い戻ってきたってワケだ。

 ケンゴはじめ少なくない部下たちからの男泣きで迎えられても涼しい顔のアイツだったが、自分の不在の間の話を一通り聞いてからはその部下たちに怒鳴り散らしては早速こき使っている。気合と根性でもってリハビリを三日で終わらせたとかいうから、俺からすりゃ相変わらず得体が知れないことこの上なかった。

 それで今後の予定はというと、こっちもこっちでやることは特に変わらない。すなわちヤクザ連中の教師役だ。といっても、肝心の教師役には色々あったラッシュではなく主にイスルギ自身がおさまる形で進行していた。今日もこれから授業である。





 場所は練習時と同じく、アリアドネ号の貨物庫の壁にホワイトボードを立てかけたその前だ。


「おし、今日も始めんぞ。いま火星がどうなってるかとか、俺らがどういうレースに巻き込まれてんのかとかはこれまでに説明してるよな? えーと、んじゃトツカ。俺たちはここ『エリア・ニュクス』で何をしなきゃなんねェんだった?」


「えーと、何が何だかワケわかんねぇエリア・ニュクス(ここ)がどういう場所なのかを突き止めて……あーそうだ、そんでから脱出して地球に帰る!」


「よし正解だ、取り敢えずの俺らの目的はそういうことになる。こんなフザケたレース、企画した大会運営にも俺ら(スジモン)なりに報復(カエシ)いれなきゃなんねェしな」


 教師役のイスルギの問いかけに、俺とあの大穴に落ちていたチンピラの一人であるトツカが答える。よしよし、アイツが答えられるのなら大体の組員も答えられそうだ(よく知らないままトツカを一方的にバカ扱いしているワケだが)。

 ただ、バカはバカでもやる気があるだけコイツはかなり見所がある。気がする。

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