13:2 - 辛辣な救援にて
あとこれもごくごく当たり前なことながら、そんなものが頭部にぶつかって無事で済む人間というのもそういない。ただ頭でも真横とか後ろからではなく、比較的衝撃に強いらしい頭頂部にそれが当たったのはまだ幸運だったんだろう。たぶん。
でもまぁ、そんなこと気にしてる場合ではなかった。
「ッッッ痛——っっっ……‼︎‼︎‼︎」
とんでもない痛みにもんどり打ちながらも、俺は頭にぶつかって地面に転がった“それ”の正体を確かめようと目を凝らす。夥しい爆熱蜘蛛ロボットに覆われた地面に落ちたもの、正体は——
「あー、それ“EMP手榴弾”っつってな。聞いたことあるか? 電磁パルスっつー……えェと何だ、なんか電波の亜種? みたいのを高出力で発生させて何やかんやで機械の中に電流流すんだと。そしたら流されたその機械が中っかわからブッ壊れちまうんだとさ。要は電子機器ブッ壊す専用の手榴弾、今の世の中便利なモンあるよな」
俺がそれの正体を確かめるよりも前に、背後からの声にネタバラしされた。……いや、そんなことよりこの声の主って……。
「んで、そろそろ起爆だ」
そんなお知らせとともに、例の手榴弾からけたたましい電子音が流れ出す。今の解説を信用するのなら、手榴弾が電磁パルスとやらを発生させているのを分かりやすくしているとかそんなんだろう。効果は足下の手榴弾から半径数メートルほどの範囲で面白いほど急速に表れた。
標本のピンを刺されでもでもしたみたいに、機械の蜘蛛たちはピクリとも動かなくなる。肌に張り付いていた金属部品から静電気のようなものを一瞬感じた気がするが、感電できるほどの電気が漏れ出てこなかった。そして熱のエネルギーも急速に息を潜め、肌で感じられた焼け付くような熱さが皮膚感覚ごと空中へと逃げていくように感じられる。
で、背後からの解説の声の主であるイスルギがノコノコと呑気に現れた。
悪夢から覚めたような部下たちの顔を見渡しながら、バツが悪そうに頭を掻いている。コイツらの醜態に呆れているらしい。イスルギの格好はというと見慣れたいつものネイビースーツに、右手には何やら見慣れないアタッシュケースを提げていた。
「え、い、イスルギさん……⁉︎」
「腕……ってか体調とか諸々、大丈夫なんスか⁉︎ 怪我は‼︎⁉︎」
「イヤ、だって左腕切断っスよ⁉︎ そんなんで無理したら……」
部下たちは口々に心配を口にするものの、対する親分はというとどこ吹く風とでも言いたげだ。
「ンなモン、何とかなったから出て来てるに決まってんだろ。左手は義体ってか義手仕込んでる、もう痛みも何も感じやしねェよ……それに機械になっちまったら痛いワケねェしな」
そう言ってイスルギは左手を目の前でひらひらと振ってみせる。その動作に連動するように、金属製のゴツめの左手からはモーターの微かな駆動音が聞こえてきた。
……つかコイツ、昨日やられてから一日経たずに前線復帰とか、体の方もそうだがどんな精神構造してんだ?
「とにかく無駄話は後だ、それこそアキの半径数メートルしか効いてねェだろ? 暴発したときの事故防止で一発一発の射程自体は短ェんだよコレ。お前らとっとと持ってけ、これ数だけはあるからそこらのガラクタども黙らしてこい」
そう指示を飛ばしてからイスルギは右手のスーツケースの中からEMP手榴弾を次々に取り出し、俺や部下たちに投げて寄越した。俺はバケツリレーの要領でさらにヤクザたちへ手榴弾を手渡していく。んで、受け取った部下たちは手に手に持ってほうぼうへ散ってゆく。
でもってすぐにそこらじゅうから、さっきも聞こえたあの耳障りな電子音が何重にも聞こえ始めた。
「…………ってェな、クソ」
「あ? 結局痛いんじゃねーか」
アイツらが散っていったのを見届けたイスルギが何か呟く。俺はなぜか雰囲気に呑まれて、連中に聞こえないよう声を潜めながら小声でツッコんだ。
呟きだった上に発音も曖昧だった気もするが、言葉の内容はたぶん間違えてはないだろう。大方“部下に弱みを見せないように”とかそういう理由で耐えてたんだろうが……巻き込まれるこっちの身にもなれっての。
「今の聞こえたんかよ。悪ィ、鎮痛剤やら鎮静剤やら、取り敢えずしこたま飲んできたんだがなぁ……」
「イヤお前な……たかだか一日療養した程度でどうにか出来るワケねーだろ、そんなもん」
「このゴタゴタんときにゆっくり寝てられっ——痛つ。……何にしても、薬飲みさえすりゃ何とかなんだ、なら現場の責任者みたいな立場の人間がノンビリしてらんねェだろ」
やれやれとでも言いたげに、小声のイスルギは仏頂面で頭を振った。イヤ待て待て、やれやれ言いたいのはこっちだっつの。責任感を持つのはまぁ良いとして、だからってコイツみたいに抜糸どころか傷が塞ぎきる以前の状態で無理やり現場に出てくるのは問題だろう。やっぱアレか、“暴力の世界ではこういう脳筋のがウケる”とかそういうヤツか?
それに疑問はまだある。
「てか何でそんな便利道具担いでんだよ、しかもケースに一揃いでよ。仲間のピンチに颯爽、駆け付けました‼︎ とかクセーこと言い出さねーよな?」
「……お前な、前々から思ってたがその“達観した風”なクチ聞くのやめとけ。前にも言ったろ、『ガキがシャシャんな』って。事あるごとに相手煽ってカッコつけてるつもりか? 悪ガキの背伸びにしか見えねェぞ……それと、手榴弾に関しちゃ組のクラフトから持ち出してきたんだよ。見ての通り、手榴弾サイズならこのケース一個で一式収まるしな。それにあのモヤ、ってかクモ? あれ、お前らは気付いてなかったけどな、クラフトくらい離れたとこからだと遠目にも丸見えなんだよ。つーかそもそもクラフトはレーダーだってあんだぞ、それで気付いて武器庫から引っ掴んできたっつーハナシだ」
イスルギは面倒クサそうに言い返してきた。いちいち丁寧に解説してくれるのは有難いが、俺はというと自分のポカを細かく指摘されてとんでもなく気分が悪い。どの口が言ってんだ、ったく。




