12:4 - いつかの残党の襲撃にて
並んだクラフトの向こうの、だだっ広い荒野。その中の一角に昨夜の暗闇の中で見かけたあのハッチが覗いているのが見えた。つまり襲撃だ。たぶん、昨夜のあの小隊の報復か何かだろう。
言うまでもなく、そんなところにハッチがあるってことはその扉の向こうにそれなりの空間があるということ。それとこれも昨日一日でしっかり体験した通り、ここの地下には相当な空洞があって上手いこと侵入できればかなりデカいクラフトも余裕で内部に入り込めそうだということ。要するに、ここら一帯に辿り着いたレース参加者は俺らが初めてではなかったってことだ。
かなり遠くなので音自体はかなり小さいが、それでも目には金属の重そうな跳ね戸が開くのが確かに見える。そして昨日と同じように、扉の向こうから屈強そうな人影が飛び出して来るのも見えた。そりゃもう、砂埃越しでもハッキリと。
俺はいつもの二挺、火薬式とレーザーのハンドガンを両手に構える。ケンゴとタチバナも、手に手に自分の得物のハンドガンを抜いて銃口をハッチのほうに向けた。
三人の視線の先で、ここらに集結しているクラフトに向かって荒くれたちが走っていく。格好は昨日と同じ安物パワードスーツで間違いない。前は暗闇と強烈なライトの明かり、それと修羅場でよく見えていたわけではなかったものの、銃口先に浮かぶシルエットは同じだった。と、荒くれたちの内の一人が首をこっちに回してからこちらを指差しだす。言葉の詳細は分からないが、とにかく何か叫んでいるのが風音に混じって聞こえた。早い話、俺たちの存在がバレたのは確実だ。
それを見計らったかのように、砂塵を突き破ってけたたましい警報音が何重にも混じって鳴り響く。各クラフトの警報がそれぞれに、侵入者たちを察知したんだろう。
こっち陣営も負けじと中から人が飛び出してきた。しかも数で言えば、新たに加わったマダム・バタフライとΠ小隊の各メンバーのおかげでこちらの僧院の数はフチザキが暴れる前とどっこいどっこいの程度にはなっている。
「オイお前ら! 間違ってもこのクラフトに向こうのヤツら近づけんなよ⁉︎ ここじゃイスルギさんがまだ治療してんだ、死ぬ気で防衛すんぞ‼︎」
当然、俺ら三人の背後からもヤクザたちがぞろぞろと飛び出してくるワケで、ケンゴがほとんど怒鳴るように指示を飛ばした。親分に対する見上げた忠誠心と言える。
その一方でタチバナは、つまりイスルギ組とは別の組織であるアサゴ組は十三人の生き残りで額を突き合わせながら小声で何か喋っていた。内容を漏れ聞くことはできない。どうも下部組織であるイスルギ組とは交わらず、こいつらはこいつら独自の指針で動こうとしているようだ。
本当に十三人しかいないなら協力したほうが良いのは自明のハズ。なら、そうしないのは何でだ? そんなに死が怖いのか、それとも単なる意地とか自尊心とか、あるいはイスルギへの不信感とかか? ……まぁ、そう単純でもなさそうではあるが。
「…………ぉらぁぁあああ、テメーら覚悟しやがれェぇえェエ‼‼‼」
荒野の向こうから風が鳴る音に混じって、いかにも荒くれ者という感じのガラガラ声がじわじわと音量を大きくしながら聞こえてくる。
「おし、お前ら! 銃構えろ」
上司の八つ当たりに巻き込まれず済んだケンゴは不敵に口元を歪ませて、周囲のヤクザ連中全員に聞こえる程度の音量で吠えた。
「オラァ! おいヤロー共、俺ら『ダレマ』に舐めたマネしたことアイツらに後悔させ——
荒くれの一人はそう叫ぶ途中で事切れた。まぁ、遮蔽物も無い荒野のド真ん中で、ヤクザ連中から一斉射撃を喰らったら無理もない。
つーか昨日の襲撃のときも、今みたく俺らに集団で襲い掛かってきて全員返り討ちにされたって覚えてないのか? イヤ違うか、あの場で俺たちが先遣隊を全滅させたからこそ“向こうの指揮系統にも”当時の状況が伝わってなかった、ってのはあるかも知れない。
……イヤ……だとしても、そうなったんなら普通は警戒すんだろ、なに真っ正面から突っ込ませてんだ。
「おい、何か変だ。お前ら一応周り警戒しとけ、今のは囮かなんかかも知んねェ」
ケンゴも同じような疑問に行き当たったようで、即座に自身の背後へと指示を飛ばしている。上役であるタチバナはイマイチ釈然としなかったみたいだが。明らかに納得のいってない半信半疑の様子でブツクサ呟くのが聞こえてくる。
「イヤ、囮っつってもな……あの数の戦力を使い潰しといて、今さら囮もクソもねぇだろーがよ。囮ってのはちょっとの犠牲で済ますのが鉄則だ、何で相手方は自分で手持ちの戦力マイナスにしてん——
「いや待て、囮ってのは多分間違ってない! 上だ‼︎ ヤクザ連中だけじゃねー、この場にいる全員聞いてくれ! スーツのジャケットでも何でも良い、“傘”みたいなモン用意しろ! 急げ‼︎ 空から何か降ってくんぞ‼︎‼︎‼︎』
俺はその声に被せるように、防塵マスクが搭載している拡声機能を中途半端に起動させながらありったけ叫ぶ。理由は簡単、いつの間にやら俺らの頭上に明らかに怪しいモヤみたいのが浮かんでいたからだった。
……なるほど、異常は俺たちの横方向じゃなくて縦方向ってワケか。




