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12:2 - ヤクザへの報告にて

 確かにトップが不在とは言え、結局ヤクザ側の反応も似たようなもんだ。

 朝食会の後、一応報告しとこうとイスルギの見舞いがてら訪ねた黒塗りヤクザクラフト前。そこで改めて俺はそんなことを思い知って、屋外でお馴染みの防塵マスクの下の頭皮を直接掻きむしりたくなった。なんたって、構成員の中ではまだ真面目な方だと(俺が勝手に)見込んでいたタチバナですら、


「発信機だぁ? もうツブしたんだろ? 壊したんならもう放っとけっての。こんなとこでンなもんの出どころなんざ突き止めても意味ねぇよ。そも、周りにウヨウヨいんのはどいつもこいつも同業(アウトロー)なんだろ?」


 ……この言い草だ。今や俺がただの外部の人間でないのは分かりきってるハズだが、にしてもこの対応かよ。


「つーかだいたい、昨日あんだけ爆撃喰らってんだぞ。ならフツーに考えて、その内のどれかでイタズラされてたとかで決まりだ、ならそれ以上は今さら気にしても無駄だしキリ無ぇよ。それとも何か? お前、探偵ごっこでもやりてぇのか」



 まぁ、実際言いたいことは分からんでもない。そりゃ、今エリア・ニュクス(このへん)には悪意に満ち満ちたヤツらがそこらにゴロゴロしているワケで。でも、だからって気にしないで良いとはならないだろ、と俺は正直な感想を述べる。いやまぁ、実際にはもうちょい苛立ちも込めた言葉で。


「オイオイ、ヤクザのクセに報復とかそういうの考えねーんだな。お前意外と聖人君子ってヤツなのか……“復讐は何も生みません”とか言い出しそうだ」


「お前こそ、ンなこと言って俺ら焚きつけたいのかも知んねぇけど五月蝿(っせ)ぇんだよ。……あんなぁ、こっちに言わせりゃそんなん知るかっての! フザケやがって、クソ疫病神(ヤクネタ)の分際で……!」


 ただタチバナとしては梃子(てこ)でも動く気は無いらしい。

 普通に考えれば、ヤクザにとって“報復”というのは敵だけでなく味方にもアピールしなければならない行為だ。ちょっと前のイスルギみたく逃げ腰・弱気だと部下は不満が溜まるだろう。暴力の世界でそれは命取りってヤツじゃないのか?


「タダでさえイスルギ組から出た死人は今んとこ三人ぽっちかそこらだ、つまりイスルギ組構成員はまだ二四人いる! けどアサゴ組のほうは俺含めて生き残りが十三人しかいねぇんだよ‼︎ このままだと俺ら(アサゴ)が喰われかねねぇ、幾ら組ではイスルギさんが兄貴分だからってこんな状況で喜んでられっかっての……それとも、今からテメぇがイスルギ組を皆殺しにでもしてくれんのか‼︎⁉︎ なぁ⁉︎」



 ……成る程、飼い犬にいつ噛まれるか戦々恐々としてるってワケな。確かにそんな状態で下手に臨戦態勢になるのは周りから疑われかねない。具体的にどうするつもりかは知らないが、こいつら今は取り敢えず“機をうかがって潰す”ってことにしたようだった。要はなりふり構っていられない、ってヤツ。


「……おい、外部の人間とはいえ俺にンなこと言って大丈夫か?」


「は、問題なんざあるワケねぇだろ。自惚(うぬぼ)れんのも大概にしやがれ‼︎‼︎‼︎ 大体テメぇ、今さら疫病神(ヤクネタ)扱いされてんの知らねぇとは言わせねぇぞ。何言おうと俺らの誰がテメぇ信用するかってんだよ、何ならここで今すぐ俺に撃ち殺さ(ハジか)れてぇってか、ンの野郎‼︎」


 さすがに連中からは相当恨まれてるらしい。が、一方でイスルギの命令だかがまだ効いているのか、この場で俺を殺すことも出来ないみたいだ。取り敢えず向こうから手を出されるとかいうようなことは無さそうだった。



 ただし、タチバナのさっきまでの面倒臭そうな表情がいつの間にやら“(うら)骨髄(こつずい)”とでも言いたげな顔つきに変わっている。鰐人種(クロコダイル)特有の、タテに伸びる切れ込みみたいな瞳孔と鋭い歯が俺に威嚇していた。どうも俺は軽口を叩くうちにコイツの“外面(メッキ)”を剥がしてしまったようで、今じゃその下にある怒りと嫌悪が剥き出しだ。


「……うわ、これじゃイスルギの見舞いどころじゃなさそうだ」


 さっきに続いて、またもや正直な感想がそっくりそのまま俺の口を突いて出る。


「は? テメぇ(ツラ)の皮どうなってんだよ気持ち悪ぃな、ガチで()られ——


「あの、ちょ、オジキ大丈夫スか。声エラい響いてっスよ? イヤまぁ、なに言ってたかまでは分かんなかったスけど……今のは確実にブチ切れてたじゃないスか」


 タチバナの声音(こわね)が明らかに低くなって殺気が滲んだところで、いきなり会話に割り込んできたのはケンゴだった。いや、コイツもコイツでこういう流れ多過ぎないか? タチバナが立ってる背後の扉、黒塗りクラフトの出入り口からヒョコっと顔を出す。というか今の“オジキ”って、ヤクザ連中の呼び名ってどうなってんだ? 部外者にはなかなか謎だ。

 まぁ何にせよ、今のタチバナの叫びを詳細に聞かれてたらトラブルになりかねなかったろうが、ケンゴの反応を見るにクラフトの外壁とかに阻まれてその心配はどうやら無用らしい。危なかった。



「ってオイ、会話の相手ってアキかよ。お前、昨日『俺ら(ヤクザ)からは目の敵にされてる』っつってやったばっかだろ、よくもまぁノコノコと……で? 危険承知で何しに来たんだよ?」


「おぉ、ケンゴな。ついでにお前にも言っときたい。報告なんだが、昨日の夜遅くに攻撃されたろ? マダム・バタフライにいたときさ。あのドサクサの後、外で発信器見つけたんだわ。しかもフチザキが使ってたヤツとかなり近い型の。現物は無くなっちまったけど俺は覚えてる。んで元々はたぶん、撃ち込まれたミサイルか何かにくっつけられてたっぽくて……だー細かい説明めんどくせーな。とにかく怪しい発信器が現場にあった、って話」


 まぁちょうどいいか、とばかりに俺はケンゴにかいつまんで説明する。タチバナも一応ケンゴにも聞かせといたほうが良いと判断したのか、ムスッとしながらも黙って俺に喋るのを許していた。

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