12:1 - 一夜明けた朝食会にて
バンピーロード(bumpy road)
:平らに馴らされておらず、段差や障害物による凸凹が多い道のこと。また比喩的にも「前途多難」を意味する場合にも使われる。
さて翌日、つまり三日目の朝。
レース開始から今まで異様に濃い時間を過ごしているが、それこそたかだか丸二日と数時間しか経っていないって事実にちょっとビビる。まぁそれはともかくとして、兎にも角にもそれどころじゃない。まずは報告だ。
「へぇ……発信器が、ねぇ?」
「ンだよイヴ、エラく関心薄いな」
「なワケないでしょ、言われて色々考えてたのさ。それは誰が用意したものかとか、出どころとかね」
曰く反射的にリアクションが薄くなるほどイヴは集中して思考していたらしい。(これが真実なら)さすがの頭の回転だともいえるが、どちらかと言うと俺にはボーっとしてた言い訳に聞こえる。
「態度はどうでもいいじゃない、そんなとこツッコんでる場合? ……まぁ、実物を捨てずに持ってきたのは褒めてあげるけど」
「さすがにそりゃ、誰がどう考えてもコレは拾ってくんだろ」
ベイファンからそんなお小言を吐かれつつも、俺も軽口で受け流してトーストをかじった。まだ三日目、このクラフトには今の人数分なら一日三食食べても半年は保つ量の食料が積んである。
遅くなったがここはアリアドネ号の中のだだっ広い食堂、四人全員顔を突き合わせての朝食の時間だ。普通そんなのメンバーそれぞれで勝手テキトーに済ませるもんだと思うんだが、このメンバーが顔を突き合わせた最初期からイヴが仲間に加わった現在に至るまで、この“朝食会”はずっと変わらず続けられている。ついでに言っとくとイスルギのやつまではさすがにいないが。
この習慣の発起人はベイファンで、なんでも定期的な情報交換、それとトラブルが起きたときでも無理やり顔を突き合わせさせることによる人間関係のリセットが目的、らしい。
何にしてもそういう理由で、今こそ昨夜の発見を改めて報告するタイミングってワケだ。
「……で、ラッシュ。何かわかる?」
なお今の俺の言葉とか諸々をベイファンは無視してカット済みのリンゴを一切れをかじる。そしてその発言の通り、視線の先はこのチーム内における機械の専門家であるラッシュ。当然ではあるが、やっぱこういう扱いの差は腹立つな。
「んーとね、さすがにこの残骸見ただけじゃ何とも……分解とかして良いんならまだ分かるかもだけど」
だがさしものこの天才といえど、これほど極小サイズのクズ鉄を瞬時に解析できるほどの離れ業は無理らしい。まぁ踏み潰したときに細かい部品もグチャグチャのぐにゃぐにゃになってるし無理もないか。
ただ、今に限って言えば専門家でも何でもない俺のほうにこそ『とある確信』ってヤツがあった。
「だから言ったろ、その発信器はフチザキが口ん中に隠して使ってたやつの同系列なんだって。そりゃ丸っきり同じじゃねーかもだけど、そんな差は無いハズだ」
「そうは言ってもそれ、この中で実物見たのアナタだけでしょ? あのときラッシュはあの削岩車に乗ってて、イヴと私は現場にはいなかった。それにその実物だって、あの騒ぎで吹っ飛んでもうどこにあるかも分からないんだし。記憶違いとかだったらどうするのよ?」
「それは無い。元々記憶力には自信あるし、フチザキがアレ吐いたときのインパクトだって相当だったし。むしろここで覚え違いなんてするほうが自信ねーな」
ベイファンのツッコミも至極当然だとは思う。けど俺にだって意地みたいなもんはあるワケで。自分の記憶力に関してだけは大昔から、それこそ物心ついたときから自信があった。
理解力とかに関しては疑問が残るものの、とにかく記憶力に関しては今まで大いに助けられてきた。このレースよりも前の、それこそこれまでの人生だって……。
「その記憶力とやらも、レース前だかに“最近ちょい調子悪い気がする”とか言ってたのは何処のどなたでしたっけ。記憶力良いんなら当然覚えてんでしょ?」
う、そんなん言ったのなんか覚えてない。
「ったく……取り敢えず、ラッシュはこれ解析お願いね」
「うん、任せ——イヤちょっと待って、これミリタリースペック……?」
唐突にラッシュは眉をひそめた。ミリタリー……何だって?
「『ミリタリースペック』ってのはそのまんま軍用の機械・兵器に使われる部品の規格のことね。ホントはそんな規格自体は大昔に無くなってて、現代だと呼び名だけ非公式に残っちゃってるってパターンなんだけど……ホラ、ここに見えてる基盤とか半導体とかの素材が、って言っても伝わんないよね……と、とにかく間違いないと思う。でもって、そもそもアタシが簡単に見分けられるような規格が使われてるってことは——
「——アメリカ製か」
説明を受けて、俺はラッシュの言葉の真意に思い至る。
「さすがに細かい部品規格とかは分解しないとダメだけど、少なくとも北米大陸の“どこか”の国と関係あるのは確実だよ」
成る程、それは…………参ったな。
アメリカは大昔から現代に至るまで押しも押されぬ工業大国だ。幾らこれが軍製品で、なおかつ実際に米軍所属の一団がいるっつっても、本来広く流通してる以上はどこぞのアウトローが持ち込んでるのはおかしくない。現に俺が見かけた『類似品』は日本のヤクザであるフチザキが持っていたワケだし。そりゃ、下手な民製品よりは出どころが絞りやすそうだが……。
「まぁ、どっちにしろΠ小隊は現在協力関係にある。もちろん無関係かも知れないし、そうでなくても我々は相手を下手に刺激してヘソを曲げられないようにするしかない。内心ではどれだけ疑っててもね。さて、食べ終わったらゴチソーサマ……で良かったんだっけ?」
結局、イヴの言葉でこの場は締めるしかなくて、そのまま朝食会はお開きになった。




