11:6 - 爆弾魔の立つ暗闇にて
しかし荒くれたちの苦難はまだまだ終わらない。
彼らが逃げようとした方向はというと、北側の自分たちが来た方向だ。だがその目指す方向にはヒョロっとした厚着の男が男たちを待っている。
「………………」
リュー軍曹がこのとき実際になにか独り言のようなものを呟いていたのかはさすがに俺の耳じゃわからない。でも何か呟くのならたぶんこのタイミングだったんじゃないかと俺は思っている。荒くれたちが駆け寄ってきていた途中で、同時に軍曹は動き出す直前だったからだ。男たちは構わず直進を続け、目の前に立ち塞がるヒョロっこい男も早々にレーザーで撃ち抜こうと走りながらライフルを構えた。対するリュー軍曹はというとスッと手を上げて手の中の何かを握り込む。
と、荒くれたちが今いる荒れ地に転がる石ころの幾つかが急に赤い光を放ち、それぞれが周囲の人影を巻き込んで爆発を起こした。三メートルほどの土煙が十数本、狼煙みたいに上がる。石ころに混ぜて爆弾が地表に撒かれていたのだ。爆発の一瞬前、風に乗ってとても高い電子音のような音が聞こえた気がした。
さっき軍曹が握り込んだ何かの正体が爆弾のリモコンだとすると、爆弾の方の正体は地雷か何からしい。しかもあんな至近距離で爆発してもリュー軍曹自身は平然としていることを考えると、爆発の方向に指向性があるタイプのハイテク地雷である可能性が高い。……そんなものいつの間に、しかもあんだけ仕掛けたんだ?
一方、半狂乱になったのは荒くれたちのほうだ。そりゃそう、逃げ出したその先で待っていたのが爆音・爆音・爆音、である。敵小隊は完全にパニック状態に陥っていた。蜘蛛の子を散らすようにとでも言えばいいのか、男たちは思い思いの方向へと一目散に走り出す。それを見ていたリュー軍曹の口元が遠目で微かに歪んだように見えた。
軍曹による二回目の手元の握り込み。
再び地面に散らばった赤い小さな光が灯る。星空のように、とでも言えば聞こえはいいかもしれないが、実際問題それらは“爆発する”という点では絶望でしかない。しかもそれらは最初のときより広範囲に分布していて、小さな赤い星々は逃げ出した荒くれたちの足がついている地点よりもずっと先まで輝きを放っていた。それらが荒くれたちに牙を向くまで、約二秒。ここまででヤツらの四分の三ほどが戦闘不能に陥っている。
残りの荒くれたちはようやく思い当たった。この爆発を操っているのはあの厚着の男で間違いない。ならまず自分たちが潰すべきはアイツではないのか? 男たちは慌てて振り向いてライフルを構え、先ほどとは真逆にリュー軍曹のもとへと殺到しようと駆け出した。
一方狙われた軍曹はというと、クルッと振り返って全速力で駆け出す。荒くれたちは逃げていく背を追ってレーザーライフルをぶっ放すも、軍曹自身の足が速いことに加えて、標的が足元の何かを避けるように左右に揺れる動きのせいで射撃は当たらない。
で、俺は気がつく。そうか、アイツがいま逃げている地点の地面には恐らく……。
三十メートルほど駆け抜けたところでリュー軍曹は左手を真横に突きだして、都合三回目の手元の握り込みを背後にアピールした。駆け抜けてきた地表で小さな赤い光が一斉に灯って、爆発まで約二秒。
荒くれたちはそのまま、即席地雷原の業火の渦に呑み込まれていく。
こうして、俺たち三人だけの防衛戦は割とアッサリ外敵を一掃した。そりゃ俺だってそもそも自信はあったし、二人の軍曹もそれなりの実力はあると思ってたぞ? そもそも幹部なワケだしな。……しかし、いざ目の当たりにしてみると空恐ろしいまでの暴威だ。彼らが味方であることに感謝したい。
そんなことを考えながらマダム・バタフライに向かって歩き出した直後、俺は砂地に転がった小さく光る何かを見つける。今さら拾い上げるまでもない、俺が看板に張り付いているのを見つけて、その直後の爆発で行方知れずになっていた極小のあの発信機だ。樹脂の欠片もついているから間違いない、こんなとこにあったのか。そして光を放っているだけあってまだ辛うじて作動中らしい。
なかなか整理がつかない思考だとかイヤな予感とかごと、俺はソイツを踏み潰す。ちっせー断末魔が上がるみたいに、まだ暗い夜に火花が散った。




