11:5 - すぐ隣に広がる戦場にて
と、俺はここでかぶりを振る。相手した人数は全員足しても一〇人だけだ。どう考えても足りない、残りの大部分はどうした?
「久々とはいえ、なぁ……もうちょい周り見て立ち回んねーと……」
反省の弁を独り言でブツブツ述べつつ、俺は半狂乱野郎(仮)に突きつけた銃口を押し当てて威嚇してから周りを見渡す。“残り”は案外すぐに見つかった。俺たちから少し離れたところに人だかりを作っている。
……いや、人だかりなんて穏やかな集団じゃない。明らかに乱闘の真っ最中だった。そして誰もこっちに向かってくる様子はない。
「おいアンタ、まだ気絶してねーよな?」
取りあえず話し相手が欲しくなったので、たったいま組み伏せた男に声を掛けてみる。
「っつ……オマエこんなときに俺に向かってよく話しかけてこれるな……」
兵士は息も絶え絶えではあったがなんとか会話はできるらしい。まぁ、足しか撃ってないから当たり前ではあるんだが。
「いや、なんか予想以上に切羽詰まってないってか何てーか……まぁいいや、アレなんだと思う?」
「ッザケんなよクソ……まぁ乱闘に見えるが」
「だよな……でもアレ、お前んとこの兵士だよな? 何でこのタイミングで味方同士喧嘩してんだよ」
不機嫌そうな男は悪態をつきながらも向こうのほうを見ている。知らないヤツらばっかりでどれが誰だか俺にはサッパリだが、少なくとも明かりに照らされている乱闘中のヤツらはみんな同じ服装・同じ装備に見える。着てるモンが揃っているってことは味方同士ってことに違いはないはずだが。すると半狂乱兵士(仮)は驚いたように目を見開いた。
「……マジかよ、ありゃ同士討ちとかじゃねぇ……ウチの隊と“誰か一人”とで白兵戦やってやがる」
そう言われて俺はハッとした。なるほど、人だかりの中心で誰かが暴れていて、小隊の総員がそれを止めようとしているのか。しかし密集しすぎている上にそもそも相手が一人だけ、そのうえ俊敏すぎてどいつもこいつも手をこまねいているようだ。
小隊クラスの人数規模はさっき言った通り二五~五〇人程度。練度がイマイチとはいえ、その人数相手にこんな大立ち回り出来るってどんなバケモンだ?
ちょうど暴れまわっている“例の一人”が一瞬見えた。思いのほか小さい。大柄の荒くれに飛び掛かって顔面に足裏を叩き込み、身をひるがえして両手のナイフで別のヤツの喉を掻き切って、そしてそいつの巨体を足場にナイフを引き抜いて、その勢いそのまま宙に身を躍らせる妙に薄着の女。フローラだった。
「何だありゃ、ワイヤーアクションかなんかか」
スタントマンとか曲芸師でも見ているかのような、重力すらも感じさせないあまりに常人離れした動きに俺は表情を作るのも忘れてごくごく普通の感想を呟く。見たまんまの無感動・無感情だったわけではなく、このときの俺は視線の先の光景に圧倒されて脳ミソが機能停止してたと言ったほうが正しい。そりゃ、本営の目は届かないようなこんな場所とはいえアメリカ陸軍所属であんな肌出しまくりの薄着ってのはおかしいと思っていた。しかし、だからって何もこんな人間離れしたブッチ切りの技能を持たなくてもいいだろうに。
フローラの両手のナイフと相手を殺す動作へのためらいの無さはヤツらの目にも恐ろしく映るらしく、周りの荒くれたちは飛びかかろうとしては手を引っ込め、銃を構えようとしては手を引っ込めを繰り返している。ちょっと滑稽な動きにも見えなくはないが、目の前で仲間が次々にナイフの餌食になっていく状況ではそうなるのも無理はないだろう。レーザーの誤射を防ぐためにも銃器は使えず、人数で組み伏せようにも動きが速すぎて追いつけない。しかもヤツらの装備にはナイフの一本も用意されていないようだ。
あ、いま荒くれの一人がレーザーライフルを振りかぶって殴りかかった。が、動きが大振りすぎてあっさり[[rb:躱 > かわ]]された挙げ句、胸ぐらを掴まれて殴りかかった勢いそのままにあらぬ方向へと体ごと突っ込まされる。結果そいつは目の前の別の兵士三人に頭から衝突、ありゃ痛い。
フローラは抜け目なく倒れた四人のそれぞれの喉元もナイフで撫ぜてゆくと、右手の得物を右斜め前にいた荒くれの頭部へと投げつけた。首から派手に血飛沫を散らしながら倒れ込む。さすがに尋常じゃない勢いの出血を見て目を覚めたのか、荒くれたちはそれぞれ、ほうほうの体で逃げ出した。




