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02:4 - 呼び止められた退路にて

 誰もいないはずの地上からなぜビームが飛んでくるのか?

 俺は窓の外をもう一度見下ろす。


 閃光の出どころは、正確には眼下に広がっているデカい渓谷の谷底から。火星にこんな険しい谷があるの自体そもそも聞いたことがない。それだけではなく“ビーム”の弾道もカクカクと折れ曲がっていた気がするし、もちろんそんな軌道を描くような砲撃やレーザーもあるハズがない。多分、銃座を撃たれたのは全くの偶然だったのだろう、下から撃たれた場所が"()()()()()()()()()()”。

 しかし、そもそも狙撃者は何でわざわざ俺らみたいな見るからに武力を備えた一団を狙う真似をした? 俺たちは『何に』攻撃されている?


 他の参加者たちも、とうとうヤクザまでもが事態の異常さにやっと気付き始めたのか、銃撃は次第に止んでいった。辺りが静けさを取り戻そうとしていたその時。

 鋭い音と共に谷底から伸びた、一条の“青白い”光線が視界を焦がす。



 また狙撃だ。だが今度はさっきと違って弾道が間違いなく直線だった上に、着弾の音量がまるで違う。始末の悪いことに今度は一撃でクラフトを複数撃墜できる程度の強さはあるらしく、下方で餌食になったクラフトが数機ほど爆音と共に激しい火柱を吹き上げ、瞬く間に消し炭と化して谷底へと落ちていった。

 ……明らかに先ほどまでの狙撃とは別物で、見るからに先ほどまでとは比べ物にならない。



 俺は八本のワイヤーをまた素早く巻き取ると、今度は船体を反転させて真っ先に逃げ出す。いわゆる「尻尾巻いて逃げ出した」状況と考えれば、上手くオチはついたといえるかも知れない。







『オイ、いい加減待てや』



 その通信に呼び止められたのは先ほどの逃亡から五、六キロは離れた地点。さっきの無礼男(仮)の船からだ。後ろを見ると、後方五〇〇メートルあたりにあの一団が追って来ていた。ヤバいヤツに好かれてしまった気がする。


「あ?」


『だから待てって! 何ソッコーでケツ割ってんだよ』


「……ケツ、あー……えーと、“逃げた”って意味か? 戦略的撤退だ」


『はぁ⁉︎』


「だから不利だと思ったんだよ。周りの戦力だって何もわかんねーんだ、あそこは退いたほうが得策って踏んだ」


 俺はまた頭を掻きながら自分の考えを述べた。ふと手を見やると爪の間に白い髪が挟まっている。また抜け毛だ、クソっ。そうやって苛立つ俺をよそに無礼男(仮)は止まらず(まく)し立てる。



『ンな理由でイモ引いたってのか』


「……その極道用語? ってヤツやめてくれ。俺はそっちの人間じゃないから話がわからん」



 ったく、自分が普段から使ってる言葉がそのまま万民に通じると本気で思ってるんだろうか。



『……“そんな理由で怖気付いたのか?”って言った』


 一応飲み込みは早いようだ。交渉役ともなればそりゃそうか。



「そりゃそうだろ。もし、あの場にいた三〇〇隻全部が訓練済みの軍艦とかなら何とかできたかも知んねーけど。でもあの場にいたのは自分の目的のためにこんなレースに参加してる連中だぞ。ドサクサ紛れでいつ撃たれるか……」


『で、逃げたと……』


「あの混乱状態で何隻撃墜されてたと思ってんだ、もう関わるだけリスクにしかならんだろ」



 と、ここまで続けたところで無礼男(仮)が何か考え込んでいるらしいことに気がついた。なんだ?



『……なぁ』


 数秒の沈黙の後。


『俺らとお前とで組まないか?


「やめとく」


『喰い気味に答えてんじゃねェよ』


「何処にそんな義理あんだよ。お前らはレースの参加者じゃねーし、そんなのの面倒見てられるか。断る」



 できる限りの正論でもって断る。だが相手も俺を丸め込もうと必死らしい。気を取り直したみたいな雰囲気でめげずに言葉を続けてきた。



『見たところ、他の参加者ってのは血の気が多いヤツだらけだよな? 用心棒みたいな腕力要員が必要なんじゃないか?』


「うわでたよ、“用心棒”。お前らヤクザが強請(ユス)るときの常套手段じゃねーか。勝手にナワバリ扱いして勝手に警備してカネせびって来てよ」


『あ? ミカジメのことか? んなもんとらねェよ』


「ミカ……? わからん」


『要するに“用心棒の見返りにせびるカネ”のこと、でも今カネだけあっても意味ねェだろ? そもそも法的にもそういうの要求したら違法だしな』


「ヤクザ自体違法だろ」


『法律とかのグレーゾーンを突いてくのが今のヤクザだ』


「そんなん堂々いうヤツ信用できるか」


『目的は知らねェけど、ヤバい連中の群れに飛び込んでるヤツが使う言葉たぁ思えねェな。むしろこういうレースに参加すんだ、そういうのに慣れてるやつが必要だろ? やるなら徹底的に行こうぜ』



 ……何だコイツ、ヤクザってのは口喧嘩(レスバ)の強さまで必要なのか? 何言っても瞬時に言い返してくる。いやいや待て、コイツらはレースの目的自体を全く把握していない。“生き残るために俺らと組もうとしてるだけ”だ。利害が一致していない以上、デメリットの方が大きい。



「……頭冷やして考えても良いか?」


 かといって即決してしまうのも怖い。ここはもっともらしく保留しといて後で断ろう。



『ヘェ? 相談相手でもいるってのか』


「俺独りでクラフトなんか動かせるワケねーだろ、チームは少人数だけどな」


「そーだよ、でもアタシらがいるって考えてもなかったでしょ。会話中、ずっと“お前ら”じゃなくて“お前”ってコイツ一人に話しかけてたし」



 あまりに不意に、背後からさっきまで船内無線越しに聞こえてきた女の声が聞こえた。

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