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11:3 - 容赦ない追及にて

「それよりもアレックス、撃たれたヤツらって撃たれる前に何か言ってた?」


「『獲物一番』と叫んでいた」


 そして彼女は気を取り直したようにリュー軍曹に向かって状況を確認し、厚着の軍曹は手短に答えてみせる。


「なんだ、それなら別に仕方ないわよね。相手は明らかにこっちに殺意があって襲い掛かってきてたんだから。アタシでもそれは撃ち殺してるわ……だからハンドガンなんて持ったことのない日本人でも精密射撃だって出来るハズよね?」


「…………」


 うっ、フローラが急に核心へと斬り込んできた。ナイフの刃先を突然目の前に突きつけられたような気分だ。あるいは捕食者の視線が自分に向けられたかのような。



「まぁ、そうよね。“そうは問屋が卸さない”わ。だっておかしいと思わない? さっきの自己紹介のときはなんて言ってたかしら、確か『民間の日本人参加者』で『自分はヤクザとは無関係』とか言ってたわよね? 日本人は皆が皆、そんなに射撃が上手とは思えないわ。なんでそんなに正確に撃てたの?」


 追及の手が緩められることはない。蛇にでも締め付けられるようだ。


「……そっちのリュー軍曹? にも言ったんだが、日本のゲーセンで鍛えた。ゲーセンのガンシューティングって今スゲーんだよ、形状とか重さはもちろん銃器の種類とかによってのクセなんかまで細かく……」


 若干その勢いに気圧(けお)されながらも俺は本日二度目・火星で三度目のこの言い訳。


「出まかせもいい加減にしなさい、それをゲームセンターのオモチャと一緒にしないで。それとも軍人がゲーム感覚で仕事してるとでも思ってるのかしら?」


 で、もちろん通じることはなかった。俺はとっさに弁明する。


「それは拡大解釈だろ、出まかせはやめてくれ」


「思ってない? じゃあ貴方は銃器の恐ろしさを知ってて、つまり実際に銃器を使う訓練を受けてきたってことで良いのね?」


「…………」



 しまった、ドツボを踏んだ。言いがかりに近い論法だが、バラ撒かれたロープの端が手繰り寄せられてだんだんと俺の首元へと絡みついていくような錯覚を覚える。


「別に責めてはないわよー? それともそんな顔になるくらい“思うところ”があるのかしら? まぁいいわ、次の質問。というよりコッチが本題なのは理解してるわよね? ……なんでわざわざ嘘をつく必要があったの?」


「……そりゃ簡単、アンタらを信用できないからだ。会ったばっかで何もかも打ち明けるのがアメリカ流なのか?」


 マズい、さっきから反射的に言い返すことが出来なくなってきている。これでは冤罪なのに自分の主張が嘘だと言い張っているようなものだ。


「フローラ、さっきから詰め過ぎだ。その聞き方だと相手が委縮して余計にコミュニケーションが取れなくなる」


 意外なことに、ここでリュー軍曹が助け舟を出してくれた。違和感はあるが有り難いことには変わりない。



「アタシのやり方に口出ししないで頂戴。たとえ上官のアンタでもね。続きよ。信用できなかったのは理解できるわ、でも目の前にヤクザなんて日本の非合法組織が出てきてるのに今さら経歴のことについて隠す必要があるって変よね? だって民間の日本人でも銃の訓練を受けてる人はごまんといるわ。ヤクザじゃなくても猟師とかボディーガードとか、公務員なら警察とかね。でもあなたは銃の訓練歴を丸ごと嘘で覆い隠した。何故? 知られるとマズいことでもあったのかしら?」


 目上であるハズのリュー軍曹に向かってフローラはサラッと軍人とは思えないことを言い出しつつ尋問を続ける。相当ヒートアップしているらしかった。

 リュー軍曹もさすがにこれはマズいと思ったのだろう、慌ててフローラを止めようと……止めようと?


「フローラ止まれ! 明らかに委縮させるだけだ、それでは聞けるものも聞けな——


「……あー成る程、『リードテクニック』と『ジョイント・クエスチョニング』の合わせ技か、芸が細かいな」


「は? 急に何を言い出す?」


 わざとらしくリュー軍曹はしらばっくれるが、目線が一瞬左に泳いだのを俺は見逃さなかった。ビンゴだ。



「尋問を三段階・九つの決まった手順に分けて行うことで相手から情報を引き出す『リード・テクニック』、二人の尋問官が強硬役・擁護役に役割を分けて容疑者に揺さぶりをかける『共同質問ジョイント・クエスチョニング』。まぁこっちの呼び名より、アメリカ的に後者は『良い警官と悪い警官グッドコップ・バッドコップ』っつったほうが通じるか? 何にしても警察(サツ)の尋問法だしよく冤罪も生んでるヤツじゃねーか、俺って随分信用されてないんだな」


「ち、ちょっと待って! アキは何か勘違いしてるんじゃない? アタシたちはそんなこと——


 フローラも慌てたらしく、どもりながら声を掛けてきた。そういう行動が余計に自分たちに向いた疑いをさらに深めることになるワケだが、慌てた人間がそんなに賢く動けるものではないのは知っての通り。


「まぁ『最悪殺す』って言われたんだし、そういうのでプレッシャー掛けてくんのは分かるとして……でもどうする? もうタネが割れちまってる時点で自白させる(オトす)のはキツいんじゃないか? 何言ってくるかとかバレてんだもんな。ってことで、諦めて取引しようや」


 で、俺は和解案を出すことにした。


「俺はここでアンタらに詰められて自白する。ただし、大したことない事情だ、それでアンタらは満足してくれ。どうだ、相手の(フトコロ)には踏み込みすぎず、お互いフェアにいこうぜ」


「アレックス、どうする? 自白剤でも使う?」


「俺は爪剥がしでもいいが」


 だがフローラとリュー軍曹はというと提案を無視(シカト)することにしたらしい。というか物騒な手段を使って無理やりにでも吐かせたいようだ。心なしかフローラがイキイキとしているように感じる。ってことは、さっき言ってた“娯楽”って演技じゃなくてまさか。


「そりゃ手っ取り早いのは爪だろうけど、薬のませて腹でも殴った方が汚れずに——



 ジリリリリリリリリリッ



 突然、けたたましいブザーが鳴った。あー助かった、このタイミングで鳴ったってことはさっきの奴らの第二波でも来たとかだろうか。懲りないことだ、でもお陰で俺はヤバい薬とか爪剥がしとかはされずに済むかも知れない。


「ちょっとアレックス、やっぱりコイツ——


「いや待て。コイツが内通者だとしたら、それこそさっき全員を撃ち殺した辻褄が合わなくなる。依然怪しいのには変わりないが、少なくとも相手と敵対していることがハッキリしている以上はやむを得ない、コイツにも撃退を手伝わせるぞ」


 ……まぁ、そうなっても何もおかしくはないか。どうにもこうにも、身の潔白は自力で勝ち取らないといけなくなったらしい。


「行きゃ良いんだろ、ロープ(ほど)いてくれ」


 俺は腹をくくることにした。久しぶりの過重労働というヤツだ。

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