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11:1 - 迎撃戦で芽生えた疑念にて

ニトロ・フェール(nitro fuel)

:モータースポーツ上において燃料として扱われる可燃性化合物。単に「ニトロ」「フェール」と呼ばれることが多い。主に使用されるのはニトロメタン(CH3NO2)と呼ばれるニトロ化合物などの物質で、これらは分子構造内に酸素原子を含んでいることから燃焼時に少ない酸素で爆発的な反応を起こす。

 爆音のおかげで呆けた状態から目を覚ました俺はというと、二人の軍曹の後を追ってマダム・バタフライの出入口へと駆け出していた。


 まぁ、この時点でも疑問はある。火星に来てから似たようなパターンが多すぎるとかそのへん言い出したらキリがないが、今の状況でそんなことにこだわってる暇はないのも明らかだった。どんなに違和感があろうと襲撃は襲撃だ。

 エントランスホールから飛び出して俺が見たものは、ヤクザの黒塗りクラフト一隻と小隊の軍用クラフト一隻が周りの地面ごと火の海になっているという悪夢のような光景と、そんな中でも壁に焦げ跡が一つついた以外には全く変わった様子なく平然と立っているマダム・バタフライのビルだった。もはや頑丈過ぎて笑えてくる。



「お前も外に出てきたのか」


 声のした方向を見ると、一足先に出ていった軍曹たちのうちの中華系の厚着男の方が駆け寄ってくるところだった。たしかリューといったか。こっちの名前は覚えやすかったから覚えている。


「今はそこのビル内部に留まっておけ、どうやら遠隔から砲撃して来たらしい。素人がこんなところにいても邪魔なだけだ」


「悪ぃけど素人じゃねーよ、これでも修羅場には慣れてんだ」


「現役の米国軍人よりもか?」


 リュー軍曹だか兵曹長だかはエラそうな態度を崩さず、無表情のままこっちを睨みつけた。そういえば無表情というのは人間が一番恐怖を感じる表情だとか聞いたことがある。人間、ヘタに凄まれるよりも冷たい目で見られる方がキツいらしい。ということは今のコイツ、やたら睨んでケンカ売ってくるチンピラみたいなもんか。そう思うと急に軍曹の背が小さく見えた気がした。



「とにかく、今は事情が事情だろ。いま襲われてんのは俺たちで、その俺たちの中にアンタら小隊も含まれてる、たぶんな。少なくとも俺はそういう認識だ。関係あるって判断できるかは知らんが、その分だけでもこっちは協力させてもらうぜ」


 頭でそんな風に思ったおかげなのか、俺は気圧されることなく冷淡なリュー軍曹に率直な意見を述べる。一方の軍曹はというと見るからにイライラだ。そりゃ相手がおとなしく引き下がらないんだから当たり前っちゃそうなんだが。

 軍曹はいかにもウンザリという感じの表情で目を細める。


「お前、さっきから何言ってる。ここから先は我々の軍事機密だ、一般人の介入を許すわけがないだろうが。だいたいこんな緊急事態にこんな押し問答なんッ……ッグあ、クソっ!」


 何が起きたかというと、次の爆発が現在燃えている黒塗りクラフトでもう一度あった。威力と場所から考えて、再び放たれた砲弾が目標に命中したらしい。強烈な衝撃波と爆風で俺たちは思わずよろけ、(おど)る火柱から押し寄せる熱波が額に叩きつけられるような感触で目が冴える。熱い。



「今ここで無駄口たたいてる暇はないだろうが! いいから早く失せろ‼︎」


 軍曹が俺に吠えた、が。


「オラオラオラァ! 獲物いちバァン‼︎」


 やたら威勢のいい(とき)の声と共にパワードスーツを着込んだ兵士がこちらをめがけて突進してくる。兵士の向こうを見ると、地下の空洞とやらに入り込んでいたらしい輸送用クラフトのハッチが地上に顔を覗かせており、そこから次々に飛び出してくるところだった。

 また最初の兵士だけじゃなく出てきた兵士全員がまさに“絵に描いたような無法者のチンピラ兵士”とでもいえばいいだろうか。砂除けの防塵マスクで顔は見えないものの、もはや動きと声だけでもどんな表情をしているかわかる。


 俺はずっと腰にさしたままだった護身用の実弾拳銃を抜くと焦らずに狙いを定めた。相手方には悪いがナイスタイミングだ、遠慮なく俺を売り込むための材料にさせてもらおう。




 パァンという乾いた破裂音とともに、手持ちのレーザーライフルを撃とうとしていた兵士がちょうど後ろに吹っ飛ぶ。慌てて外に飛び出してきたからマスクをしていない状況だが、どうやら問題なく目標に命中したらしい。南無。


 頭の中では気休めみたいな念仏を唱えつつも、結局のところ俺は特に気にも留めずに処理を続ける。

 最初の兵士から右手後方に二人目、狙撃、処理済。

 二人目から左手約五メートルに三人目、狙撃、処理済。

 三人目のすぐ後方に四人目、狙撃、処理済。

 工場の生産ラインのロボットのように無感情に、俺はただただトリガーを引き続けた。なんとか全弾命中という結果でハッチから出てきた兵士たちの死体がその場に転がる。地下から出現していたハッチはというと観念したかのようにすごすごと地下に戻っていった。

 なんだ、体術と同じくこっちも思ったより腕は衰えてない。オッサンくさい言い方になるが“めっけもん”とかヤツだろうか。



「お前……その銃であの兵士たちを撃ったのか?」


 リュー軍曹が俺に何か言いたげな声を掛けてくる。


「あ? 別に文句ねーだろ。獲物とか言ってたし、俺が撃たないとあのまま……」


「そうじゃない、あの射撃の腕はなんだ? お前たしか日本人だろう。銃は取引が制限されているハズだ。加えてそこの娼館の中にいるようなヤクザでもない。なのに何故、反動の大きいハンドガン射撃で、しかもパワードスーツを着込んだ兵士の弱点を全員ほぼ一発で撃ち抜けた? しかも赤色灯で照らされているとはいえこの暗闇の中だぞ、我々アメリカ人がガンショップの試射場にいくのとはワケが違うだろう」


 さらに目を細めながら軍曹は詰め寄ってきた。もはや目にも見えそうなくらいの敵意と疑念が自分に向いているのを感じる。マズい。

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