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10:3 - 互いの事情説明にて

 少尉はやや驚いたように眉を上げてこちらを見た。


「成る程、さっきのそのお嬢さんの物言いもそうだが、ただ単にゴロツキが集まっているってワケでもないらしい」


 そして少尉たちは手前にあったデカいテーブルの端に移動する。


「わかった、お互い座って腰を落ち着けてから話をしよう、早いとこ話を終わらせないとな」


 そんなことを言って俺たちはテーブルを挟むことになった。楕円の豪奢なテーブルの対面というには向かい側からくる視線はやっぱり妙に鋭い。交渉事というのはやはりこれくらいの緊張感をもって挑むのが普通なのだろう。

 ホステスが持ってきた水の注がれたグラスの中の、水に浮かぶゴツい氷がやや溶けてカランと小気味よい音を立てる。




 相変わらずシャンデリアのけばけばしい光が照り続けるホールで、男の告白は始まった。


「まぁ平たく言や俺は、というか“俺も”犯罪者だ」


 どうやらタヴァナー少尉も立派な“ならず者”というヤツらしい。が、それ自体は特に問題ではないように思う。そのあたりは予想していたし今に始まったことでもないし。


「それも殺しをやっちまった身だ。敵兵とかでなく民間人のな……とりあえず細かい事情とかはさすがに伏せさせてくれ。いわゆる“ノッピキナラナイ”事情ってヤツがあったのさ」


 ……民間人相手の殺人だったか。確かに、軍人ということを抜きにしてもマイナスにしかならない事情だ。場合によっては俺たちにも危険が及びかねない。及びかねないが……。


「だがこの二つは言わせてくれ。まず俺のやったことと部下は関係ない。だからこいつらをそういう目で見るのは遠慮してくれ。『連帯責任』っつって俺の“シマナガシ”に付いてきてくれた奴らだ、コイツらが差別されるいわれは何もねぇ。次に、こう言ってる俺自身ももう誰かに危害を加える気はねぇ、つまりアンタらは取りあえず安心ってワケだ。そりゃ俺は殴られたら殴り返しちまうようなバカではある。あるが、俺にだって道徳心とかそういうのはある。だから今から俺たちがアンタらを攻撃する事ァないってのだけは理解してくれ。そりゃ、すぐに信用しろってなぁ無理だろうがな」


「それが本当だとして、そんな殊勝なこと言う奴が火星に流されてくる理由って何だよ?」


「アキ!」



 俺は少々意地の悪い質問を返した。周りからもあまり見栄えが良くは見えなかったのだろう、ラッシュが険しい顔で諫めてくる。


「おい、“細かい事情は伏せさせてくれ”って言ったばっかだろ? 殴りかかってくるんなら相手に……」


「あ、いや、そうじゃない。犯罪を犯したとはいえ更生の意思のあるヤツを使ってまで、アメリカの、しかも火星とはマジで無関係の陸軍が兵士を送り込んでくる理由って何なんだ? って意味だ。……紛らわしい聞き方しちまったのは謝る。スマン」


 一応丁寧に言い直しはしたが、さっきの返事はいわゆる牽制ってヤツだ。今ので多少は敵意を感じてもらえればいい。悪いなラッシュ、俺は数少ないアリアドネ号のクルーのためにもこいつらを簡単に信用してはいけないという責任がある。ヤクザのほうは知らん。


「成る程そのことか。こっちもすぐケンカしようとすんのはクセみたいなもんだ、悪い。火星に俺らが来たのは……そうだな、『シマナガシにちょうどいい隊がたまたまウチのとこしかなかった』ってのと『アメリカ(ステイツ)のお偉方が火星での利権・影響力を強くしようとしてる』ってトコだ。ここで俺らを活躍させて、少しでも多く火星にアメリカ合衆国の威光を届けたいのさ」


 ただし少尉の反応はそう受け取ったかどうかはわからなかった。うーむ、また変に無駄な努力しちまったかも。


本国(ステイツ)の影響力が国際社会でもだんだん無くなってきてるってのは知ってるだろ? 未だに“大国の代表”みたいな顔しちゃいるが実際のとこ構成人種はバラバラで、だからこそ国民にゃイデオロギーもまとまりもない。『自由の国』って謳いすぎたツケが回ってきたのさ。で、お偉方は俺らの活躍を通して“理想の国から生み出された理想のヒーロー軍団”を作りたがってんだよ」


 少尉はそんな言葉で自分たちに絡む思惑の説明を締めくくる。さすが小隊の長を任せられるような男だ、豪胆さに加えて自身が置かれている状況を察知する明晰さ・相手に教える言葉を瞬時に選ぶ判断力の持ち主なのは疑いようもない。しかしだからこそ、今ここで信用してしまうのは何となく危ない気もした。



「で、次はこっちが聞く番。さっきそこのおっさんが自分で言ってたみたいに、確かにそっちは雑多な集まりだ。どういう経緯で集まったのか、ってのは興味あるな。なんだってゴロツキとヤクザとパブとかいうよく分からん組み合わせがこんなレースに参加してんのか、さすがに俺だって気になる」


 そりゃそうか、こっちだって情報開示しないとな。


「成る程、じゃあ人数の多いマダム・バタフライから……」


「あら、私が選んでいいならまずアキ自身の紹介から始めるべきだと思うけど?」


「あ?」


 即座にベイファンからのツッコミが入る。いやいや待て、何で俺の情報からなんだ。



「それ謙遜のつもり? ……呆れた、自覚を持つのは大事でしょ。今この場にいる人間の中での中心は間違いなくあなたよ」


「違ぇねぇわな、俺にも明らかにアンタがチームの要ってヤツに見えるぜ」


 ベイファンに同調して少尉も声を上げた。そう言われても、俺からすりゃ大して言うことはない。というか正確にはあんま言いたくないことというか、そういう部分も勿論ある。とはいえだ。



「アンタらなんて守秘義務とか破ってまで教えてくれたんだもんな……っつっても、あんま言うこと自体そもそも無いんだが……」


 こうして俺はアッサリ折れることにした。

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