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10:2 - 荒事の後の話し合いの場にて

 クラフトから出てきたΠ(パイ)小隊とやらの代表者は三人。

 黒人でやたらデカくて顔に幾つもの傷痕を持っているといういかにもな見た目のイカついオッサン、その右隣にはたぶん白人と東洋人のハーフっぽいゴツいロングコートを羽織った男、左隣には対照的に心配になるくらいに褐色系の肌を露わにしたエラく薄着の女。

 三人とも服の形は大きく違えどカーキ色の軍服で身を固めている。何というか、いかにも“『人種のサラダボウル』出身です”とでもいうような人種構成だと思った。



「二回目の自己紹介になっちまうが、まぁ聞いてくれ。俺たちは米国陸軍所属のΠ(パイ)小隊という。で、俺は小隊長のトラヴィス・タヴァナー、少尉だ」

 真ん中の黒人のオッサンは左頬の傷跡が歪むのも気にせず笑いかけながら言った。剥き出しになった白い歯がクッキリとしたコントラストを作る。


「……アレクサンダー・リュー。この小隊の小隊軍曹、つまり参謀兼小隊長補佐と言えば伝わるか? ともかくそういう職位だ、階級は兵曹長」


「フローラ・アビガイル・ルシエンテス・ガルシア二等曹長、今はこの小隊の女性代表ってとこかしら? アタシしかいないけどね。どうかしら、後でそちらの女性陣に紹介してもらえない?」


 続けて右隣の中華系っぽい男がぶっきらぼうに、そして左隣に控えている女がどこか妖艶な感じの笑みを浮かべながら名乗って相手方の自己紹介は終了。俺たちのほうもまた代表者らがそれぞれ簡単に名乗って返す。



 こっちの自己紹介を眺める小隊のヤツらの目はガラスのように、高い天井からのシャンデリアの光を受けて輝いているようにも無感情なようにも見えた。そうして今度はミセスが口火を切る。


「それで、そちらの小隊の正式な所属はいったいどちらかしら? なぜ自ら名乗らないで陸軍所属としか言わなかったのです?」


「正式な所属に関しては上から秘匿させられちまってるからな、ってこういう物言いも軍人的には良くねぇんだった。まぁ誰も聞いてねぇし、別にいいか……米国陸軍特殊(U S A )作戦コマンド( S O C)の所属だ、それだけ言っとく」


 トラヴィス・タヴァナー少尉と名乗ったリーダーの男はそこだけをアッサリ白状した。ミセスは眉をひそめる。


「特殊部隊? 規律の厳しい特殊部隊の長ともあろうお方が、上からの意向を無視するんですのね?」


「アー、別に火星(ここ)でそんなモン気にしても意味ねぇって踏んだのさ。それに全部は言ってないだろ? 確かに、言ってももここじゃ真実なのか調べようも無い上にあくまで最低限でしかない、だが俺たちの立場が分かる程度には身分を明かした。それがこっちから出来る最大限の譲歩、ってことにしちゃくんねぇか」


 少尉は明らかに疑ってかかってくるミセスに頭を下げるかのように言った。部下の二人はというと眉一つ動かさない。どうやらこの話をすることはこいつらの中でもある程度決められていたようだ。ミセスはというと未だに納得のいかなさそうな顔をしてはいたが。



 左の女、ナントカカントカ・ガルシア軍曹は嬉しそうな顔をして言う。


「あら良いわぁ、女の子多くて! うちの小隊みたいにヤロー共の中に女一人なんてやってるとどうしても気が荒んじゃうんだけど、こういうことがあるとやっぱり心が潤ってくみたい!」


 どうにも、この女は相当男所帯にウンザリしているらしかった。確かに女性比率が高くなったとはいえ軍内部はいまだに男社会から抜け切れてないらしい。増して紅一点ともなれば、そういう苦労話も多いのだろう。


「フローラ、あんまりハシャぎ過ぎないでくれよ? 俺らだって相当“溜まって”んだからな、軍曹のお前があんまベタベタすると下の奴らに示しつかなくなっちまう」


「サーイェッサー! 申し訳ありません」


 フランクな口調ではあったが、タヴァナー少尉がたしなめるとガルシア軍曹は大声で上官の言葉に反応を返した。どうやら外と内とで態度を使い分けているらしい。少尉も、軍曹も。



 するとその様子を見ていたベイファンが声を上げる。


「……正直、そういう態度とられるとこっちも仲良くして良いのか分からなくなるわね。何? 私たちは空気清浄機とでも言いたいの?」


「ち、ちょっと待って! 謝るわ、後生(ごしょう)だから‼︎」


 即座にガルシア軍曹が取り繕おうとするが、眼鏡の奥の黒い瞳は冷ややかだ。


「まぁまぁ、ここはお互いに鞘を納めるということでどうか一つ。……さて、それで名前以外のことについて話すべきだと思うのですがいかがでしょう? 名前以上にお互いがどういう存在なのか、双方で把握せねばならないと思いますが」


 場をとりなすようにイヴが提案した。そしてここで声を低くして、早速話題の核心へと斬り込んでいく。



「もっとも我々は見ての通り、ゴロツキに日本のギャング、つまりヤクザに怪しいキャバレー……というような、成り行きで雑多な集団が集まった寄せ集めに過ぎません。ですがまぁ、こんな大会ならこうなることもある程度はわかりきったことでしょう。むしろ貴方がたのほうがよく分かりません。なぜ米国陸軍のような勢力がこんなレースに参加しているのです? しかも米国といえば宇宙軍などというものまで持っているのに出てきたのは『陸軍』。そして聞いたこともないような名前の小隊。一体どういうことなのかお聞かせ願いたい」

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