09:6 - あまりに唐突な加勢にて
「ウチの組員殺してんだぞ⁉︎ それも一人二人とかじゃねェ、何十人とだ‼︎ テメェ責任……」
「あぁ、そのこと? でもアレ依頼人からの依頼に従っただけだし、あのままだったら絶対会うこともなかったし、あんときはあんときだし。でも、さっきは敵同士でも今は味方みたいだしさー? 仲良くしとこーよー、えと何だっけ、“過去のことは水に流して”とかって言うじゃん?」
捲し立てるチンピラの剣幕なんて眼中どころか足の裏にも無いとばかりに、あっけらかんとアデリアは足蹴にする。まるで殺人なんて子供がするイタズラと同レベルとか言い出しかねないような場違い甚だしい“女子高生感丸出しな”口調だ。
で当然、そんな言葉を返されたケンゴはヒートアップする一方だった。
「はぁ⁉︎ テメェいま自分が何言ってんのかわかってんのか‼︎ だいたいコッチは殺人まで散々やられて、次はそれやった張本人と仲良くしろだぁ⁉︎ ヤクザってなぁメンツで生きてんだ、オレらでテメェを殺り返しでもしねェ限り丸く収まるワケねェだろうが‼︎」
「は? 何それダッサ。こんな生きるか死ぬかってときにそんなの気にして生きてるとか死ぬの確定じゃん。アンタだけ今から外に出て生身でロケランにでも撃たれてきたら?」
「アデリア! こんなときにまで頭痛の種を増やさないで頂戴……ごめんなさいねぇ、うちの子のしつけがなってなくって!」
変わらない調子で煽り始めたアデリアをミセスは低い声でたしなめた。さすがにこの二人を放ったままではラチが明かないと判断したようだ。
「でも、アデリアの言ったことも正しくはあります。わかるでしょう? いくら“武士は食わねど高楊枝”と言っても、今の貴方たちは地球に帰らなければなりません。体面を保つことだけに腐心しているあの大雑把な大会運営に一泡吹かせるためにもね。他にも色々と陰謀めいたものも関わっているみたいですし」
そう静かに言うミセスは顔にこそ薄い微笑を浮かべつつもどこか冷たい印象を与える。少なくとも目は全く笑っていない。
「そ、そりゃそうだけどよ……」
その彼女の冷たい笑みに気圧されてケンゴの語勢が弱々しくなる中、イヴが場を取り持つかのように言う。
「ミセスもこの大会の『キナ臭さ』にお気づきのようですね。……えぇそうです、今は協力しなければ生き延びることはかなわない。誰が相手であろうと、ね。この彼……ケンゴ君には私からしっかり言い聞かせておきます。今は争っている場合じゃないと」
一見穏やかに、しかし有無を言わせないような口ぶりでイヴが言ったとき。
ノイズ。
突如入った無線通信が司令室に水でも被せたみたいな静寂を運んできた。……この非常事態に無線通信? 一体どこの誰から?
ノイズの向こうからは荒々しい印象を受ける男の声が聞こえてくる。
『ハローハロー、お困りのようだな。こちら米国陸軍所属、泣く子も黙るΠ小隊とでも言っとこうか。お相手は知ってるヤツらか? まぁどう見ても追い剥ぎに遭ってるみたいなんで、アンタらの救助に入ることにした。アー……日本風にはなんつーんだっけか、クロサワ映画じゃ確か……そう、“スケダチ”ってやつだ。オーヴァー?』
いかにもお調子者っぽい物言いで通信相手はそう言って、一方的に通信は切られた。
「……あ? オイなんだ今の」
先ほどの調子外れにも程がある陽気な声に、俺はボソッと呟いた。
「米国陸軍……? Π小隊なんて聞いたこともないですし、大元の部隊所属も言わないなんてホラでも吹かしてるんじゃなくて?」
「アメリカ軍人の名乗り方とか知るワケねェだろーがよ……そーいうの任せるわ」
ミセスも困惑気味に疑ってるし、ケンゴに至ってはモロに興味無さそうだ。まぁ、日本でヤクザをやってればそんなものと関わり合うことがないワケで、こういう反応も“当然っちゃ当然”というヤツなのだろうが。
ただ確かに、今の名乗りには俺の目から見ても確かに違和感があったのも事実ではある。いきなり所属もあやふやな部隊名だけ名乗って『スケダチする』だぁ?
初対面相手に正式な所属元を名乗るのは軍人にとっての身分証みたいなものだ、そこすら出来ていない時点で怪しい存在であることこの上ない。……とはいえ。
「いくら怪しさ全開でもコイツら無視できねーんじゃねーかなぁ、こんな土壇場だと」
若干の諦めすらも滲ませながら俺は言う。
「だろうねぇ……むしろこんな機会をずっと窺ってたのかもね? 無理矢理にでも助けて恩でも売る気とか?」
あまりの展開にさすがのイヴも思考停止せざるを得ないとかそういう状態なのか、あからさまに背中を丸くするほどに脱力しながら後に続いて同意した。




