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08:4 - 商売上のよくある取り決めにて

 と、ここで意外にもケンゴがちょっと気色ばんだように声を上げる。


「安心って……気にすんのそこかよ、ンな無責任な。お前ラッシュちゃんとかあの眼鏡のねーちゃんとか、そこのオッサンは違うんだっけ? 何にしても二人は部下いんじゃねェかよ。巻き込んどいてそれは色々と酷いんじゃねェの?」


 なんだ、そんなことか。


「言っちゃ悪りぃけど、ここまで付いてきといてそれは通んねーだろ。さすがに無法者だらけなのは今知ったけど、こんな過酷なレースに参加するのなんざ、それこそイカれてなきゃやろうと思わんって。今までに幾らでも引き返せたし、何回も本当に参加する気なのか意思確認もしてる。でも結局火星くんだりまで喜んでついてきてんだ、あの二人はここでこんなん知ったからって今さらギャーギャー騒ぎゃしねーよ。そりゃ最低限の安全やら何やらは上司として保証すっけど、それ以上についてはそれ以前の問題だ」


「アキくんって結構肝が据わってるんだねぇ……若いのに珍しい。老け顔ではあるけど」


「っせーな、ったく……」


 聞いていたイヴがしみじみと呟いた。ただ、こんなオッサンにそんな褒め方されても嬉しくも何ともないのはわざわざ言わなくても伝わるかも知れない。

 毒づきつつ俺はミセス・ラトナに切り出す。



「で、ミセス、話戻してもいいですか? ここ人類未踏領域(エリア・ニュクス)がマジもんの無法地帯で、そんで俺らっつーかコイツらがアンタらの護衛をするとして……そんで、その報酬が何でしょうか? ビジネスモデルのプレゼンってやつをしてお願いしたいんですが」


「そうね、その辺りは説明しませんとね。まずこのレースの完走以外にも条件として“採掘しなければいけないものがある”というのはあなた方の間で共有されていらっしゃる?」


「あー、アイテリウムとかいう金属だろ? 火星でしか見つかってないとかいうあの青いアルミみてぇなの」


 俺ではなくケンゴが話は聞いているとばかりに反応した。

 良かった、どうやらイスルギあたりからその辺りの事情に関しては聞いているらしい。といってもこれがどの程度までヤクザ連中全体に共有されているかまでは分からないが。



「ええ、その通りですわ。ここから脱出する以外にアイテリウムなんて希少金属を一トンも採掘しろだなんて、運営は何を考えていらっしゃるのかしらねぇ。……でもルールには穴がある、というより穴を“作ってある”と言った方が良いかも知れないわね。つまり『自らの手で掘ったアイテリウムでなければならない』とはどこにも書かれていませんの……と、ここでようやく本題」


「あぁなるほど、そういうことですか」



 ここまで話を聞いていたイヴが得心(とくしん)のいったように頷いた。俺もなんとなく先が読めたような気がする。


「待ってくれ……つまりアレか? (カネ)の代わりに他のやつが採掘したアイテリウムをせしめてここを運営しようって魂胆かよ?」


 少し遅れたタイミングで理解したらしいケンゴが言った。


「そう、それで用心棒をあなた方の組にお願いしたいんですの。もちろん我々も採掘・脱出方法の研究だとかはするつもりですわ、でもそれだけじゃなく私たちはビジネスチャンスをも見出しておりますのよ。それにレース参加者は殿方が多い。というより殿方しかいないチームも数多くいらっしゃるようね、“見込みの通り”」


「それでオレら用心棒(ケツもち)にしてキャバクラやろうってワケかよ……商魂たくましいってか何てェか……」


 やっと事態を把握できたらしいケンゴは唖然としている。



「そういやイヴ、ラッシュとベイファンはどした? アイツらも一応アドバイザーってヤツ扱いなんだろ?」


「ラッシュちゃんは『メカニックの自分には出る幕がないから』、ベイファンちゃんも『損得のやりとりには疎いから』って欠席したよ。同じ女性ってことで、二人には先に娼館の中を見て回って貰ってる……組の男が見て回るよりは良さそうだしね」


「あんだけ言ってたアリアドネ号の留守番はどーしたよ?」


「さすがに協力関係を結んだ相手をずっと警戒するワケにいかないでしょ」


 イヴは何食わぬ顔で言う。だが俺は知っている、今までの付き合いだけで考えても、この男がこんな簡単に人を信用することはたぶん無い。つーか俺でさえ未だにどっか信用されてない感じしかしねーしな。余所余所しいっつーか。

 多分この態度は“表向きの言い分”というヤツで、裏ではアレコレ出し抜かれないように何重にも策を巡らせているのだろう。



「じゃ、とっとと合流しよう。ここで勝手に決めたらそれこそギャーギャー言うだろアイツら。……案内お願いしてもいいですか?」


 ミセスのカエルみたいな太った顔を見据えて、俺はワザとあまり表情を作らずに尋ねた。

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