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02:2 - トチ狂った空中銃撃戦にて

「ぅおわっ! 誰だ撃ったの⁉︎」



 いわゆる直感でしかないが間違いじゃないだろう、今のは狙撃だ。一瞬思考が真っ白になったが、無理やり意識を手繰り寄せ、俺はさっきと同じように操縦席の計器類に目を走らせる。


 どの船から狙われたのかは分からないが、撃たれたのは間違いなくウチのクラフト。被害箇所によっては命取りになりかねない。何より、こんなクラフトの密集空間で爆発が起きるのはさっきヤクザに絡まれていた状況よりも数倍マズい。こんなことになったら次にどうなるかは目に見えている。地獄だ。

 ——墜落開始から四〇秒経過、地面まであと約三〇秒程度。


 爆発から数秒おいて、衝撃が走った方向とはまるで違う方向から狙撃音が聞こえてきた。その次は間髪入れずに、また違う方向から爆発音。ついでに通信機の向こうからもトリガーを引くガチャリという音が聞こえたのと同時に狙撃音。爆発音、狙撃音、爆発音。重機関銃の捲し立てるような怒号も聞こえる。



『おい! いま撃ったやつ誰だ‼︎ 落とし前つけ——


「やめとけ、今更そんなん言ってもどうにもなんねーだろ! こうなったら周りの三百隻みんな撃ってくんぞ‼︎」



 マイクにそう怒鳴ったところで、ちょうど窓越しに機銃掃射で右翼の中程を抉られるのが見えた。右手前方には早くも撃墜されたらしい、黒煙を吹き上げている他チームのクラフトも見える。左手の後方でまた爆発。エンジンの一部だったと思しき燐光を帯びたアイテリウムの欠片が、余韻のような重力波を漂わせながら所在なさげに空中に滞留している。最初の狙撃でみた赤い光は黒煙で滲むように輪郭がぼやけ、出所を確認するなんて到底不可能だった。


 初撃から一〇秒と経たず、もう一割近くのクラフトが火星の渇いた暴風にかき消されるように沈んでしまっている。今や砲撃の各一発が一つにつながって聞こえるほど激しく鳴り響いていた。しかし、犠牲者をいくら出そうがこの銃撃戦は止まない。止むわけがない。”撃たなきゃやられる”以上、俺らにこの状況は止められない。


 耳元の通信機からは船内無線で半狂乱という感じの先程の女の声が聞こえてくる。……船体下部の銃座からだ。嫌な予感がする。



『ちょっと! ヤバいよ、最初の狙撃で右舷メインキャノンに穴空いてる‼︎』


「はぁ⁉︎ まだ使えるやつは?」


『わかんない! でも左舷のメイン・サブもいま撃たれちゃったから……』


「要するに下は丸ごとダメなんじゃねーか、クソッ‼︎」



 予感的中、最悪の報告だ。アリアドネ号史上最も間の悪いタイミングの故障であることは明白だった。そんなことを語れる程この船とは長くはないが、かといってこれほど壊れて欲しくないタイミングで壊れることはそうはあるまい。実質的な死の宣告に等しい。


 俺は頭を掻き毟りながら、さっき見捨てると決めたハズの七機のクラフトへとアンカーを再度撃ち込むと、すかさずブースターのキーを捻った。

 一瞬体が強烈に上へと引っ張られる感覚がして、遅れて船体が上昇を開始する。と言っても、当然ながらクラフト一機分のブースターの出力では限界があるが、地面との衝突はある程度遅らせられるハズだ。焼け石に水ともいうが、少なくとも水の量だけ温度は下げられると思わなくてはやっていけない。

 ——墜落開始から五〇秒経過、地面まであと約二〇秒程度。


 そうこうするうちにも砲撃戦は熾烈さを増していく。いかにも、死ぬにはおあつらえ向きだ。

 ブースターの重力波発生機関が悲鳴を上げるように、重力安定板にヒビが入り始めたのが窓の向こうで見えた。無理もない、いま引っ張り上げているクラフト七隻分の総重量は推定数十トン、対してこの機体のブースターは経年劣化で白っぽく変色しつつある状態だ。これで無理が出ないという方が無理がある。

 無理ついでに、俺は無理くり引っ張り上げている七隻分のヤクザたちが無理してエンジンを動かし自力でクラフトを浮かすことをまだ期待していたが、そもそも落下スピードを打ち消し切れていない以上、向こうの船内は相変わらずのシェイク状態らしかった。結局「動かすなんてどだい無理」ってオチかよ、笑えねー。


 そんな俺たちを余所に、他の参加者たちは思い思いに実弾やらビーム砲やらを撃ち込んでくる。上から下から、今やアリアドネ号は蜂の巣だ。射的場の的でももう少しは……。




 ……イヤ待て、『下から』……?

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