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07:5 - 硝煙の烟るアイディアにて

「…………これで良し、と。とりあえず地面に寝転んで、撃たれた方の足は胸より上に挙げとけ。で、コレで俺らは怪我人が増えてさらにドツボにハマっちまった。やっちまったのは謝っけど……けどどうする?」


「なんか地上に俺らが生きてることをアピール出来りゃいいんだけどな、クラフトもあることだし救助くらいなんとか出来るたぁ思うんだが」


 途方に暮れながらも俺はケンゴに言葉を返す……正直、万事休すというヤツだ。ただこんなことになっても、ヤソジマはまだ話を掘り返したりないらしい。


「お前らムカつくわ……ケンゴはともかくそこのカタギまで、人を撃っといてンな呑気に……」


 まぁ確かに、最初の印象の通りヤクザとして駆け出しだというならまだ人を銃で撃つのもショッキングなことなのはわかる、とはいえ。


「あ?」


「……すまん」


 ケンゴが若干横柄に応じただけでヤソジマはすぐに謝った。というかこんな訳のわからないレースに参加している人間を捕まえて『カタギ』というのはさすがに無理があるというのもそうだが、そもそもこっちのほうが立場が上で手の出しようがないのだ。場が少々険悪になったのを眺めながら、俺は気を取り直して冗談混じりに提案してみる。


「どうしたもんかね、大声でも出すか?」


「こっから地上まで何メートルあんだよ、声届くワケねェだろ」


「だよな……」


 提案はあっけなくケンゴに却下され、それに俺はため息で返した。


「そもそもこの時間まで上の穴の周りを誰かうろついてるとも思えねェしな、聞こえねェんなら意味ねェよ。さっきの銃声とかが聞こえてくれてりゃ話は早いんだが……」


「ヤマビコみたく谷じゅうに反響したとしても元の音量が小っせーわな」


 やっぱり俺たち二人の力ない会話で時間を潰すくらいしか思い浮かばない。



「あ……な、なぁ」



 が、ここで不満たらたらだったヤソジマが何かに気づいたように声を上げた。


「ンだよヤソジマ、まだ文句か?」


「さすがにもうねーよ……それより、俺らが生きてるって地上に伝えられりゃ良いんだよな? だったら、だったら煙とかならどうだ?」


「は?」


 何かのアイディアがコイツから出るというのは正直意外だ。だが意外だろうと何だろうと使うものは使わないと俺たちは間違いなく死ぬ。当たり前だった。


「け、ケンゴの(ハジキ)の硝煙で思いついたんだけどよ、上へのアピールに煙使うとかどうよ。えーと、なんつったっけ、ノロシ? みたいの。煙なら上に向かってくしな。確かに音だけじゃ聞こえるかもわからんしすぐに消えるけど、煙なら見た目でもその場に残り続けるだろ?」


「あのな、地上の風のキツさで煙なんか残るワケねェだろ」


 ……いや、どちらかというと役立つかわからん素人のアイディアな気がする。やっぱ素人意見(つっても俺も似たようなもんだが)に頼るのが間違いだろうか? だがヤソジマはなぜか諦めない。


「そんだけじゃねーよ、肝心なのは煙の匂いだ」


「にお……? っあ」


「イスルギさんとかお前以外にも、俺らヤクザに犬人種(ドッグ)は元々わんさといる。つまりウチの組のヤツらの大半は“鼻が効く”ってことだ。風向きなんかはたぶん運任せだと思うけどよ、犬の鼻なら純人(ネイキッド)よりは万倍マシだろ? もちろんモノホンの犬に比べりゃレベルは落ちるが可能性はゼロじゃねーわな」


 成る程、確かに犬人種(ドッグ)の嗅覚なら勘づいてくれるかもしれない。アサゴ組の構成員から考えるという観点は完全に盲点だった。何となく希望が見えてきたような気がする。そこで俺は作戦の穴の部分を埋めていくことにした。



「……おい待て、匂いっつってもそんなモンどうやってさせんだよ? 拳銃の火薬の硝煙とか薄すぎてほとんど無臭みてーなモンだろーが」


「燃やしたら臭そうなモンならそこにあんだろ、フチザキの死体(ロク)とその革靴」


 ヤソジマは即座に切り返してくる。コイツ、割と使えるかもしれない。そんな俺の期待をよそに、呑気に話を聞いていたケンゴも乗り気で話に加わってきた。


死体(ロク)は改造で耐久力も上がってるだろうし燃えにくそうだから燃やすなら靴だな。ぜってェ臭ェもん。あと火はどうやって起こす?」


「タバコとか吸うんならライター持ってるだろ」


「あーそうだった、じゃあ吸うのはそこで寝てるイガラシとトツカだな」


「あ? ヤクザって全員ヘビースモーカーかと思ってたが」



 と、ここまで口走ったところで、これもまた何度となく繰り返してきた自分の失敗に気が付く。またヤクザの時代遅れなイメージだけでアレコレ喋ってんじゃねーか。つくづく学習しない。


「……あんなぁ、こんだけ煙が嫌がられる時代にンなもん吸うわけ……あー、もうツッコむのもメンドくせェや。とにかくとっとと『借り』ちまおうぜ、キンキュー時の上司ケンゲンってヤツ」


 案の定呆れ返りながら、でもあっけらかんとケンゴは言った。

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