07:4 - 無法の説得にて
それにしても、だ。言っちゃ何だが、こう……ヤクザのクセにコイツずいぶん肝が小さいな。どうしてもイスルギの奴と比べてしまう。呆れて俺ら二人はそれぞれ言葉を返した。
「ンなもん持ってムダに焦っても仕方ねェだろーが」
「あんなモンただの方便に決まってんだろ。……あとオッサン言うな、これでも二四だ」
「二四ィ? 嘘ついてんじゃねーよ!」
ヤソジマはケンゴのほうを無視して俺に怒鳴り返した。ケンゴの方が立場は上らしいが、どうもヤソジマはそんなことを無視して振る舞っているようだ。
まぁ“ケンゴ”なんて下の名前呼びしてるくらいだし、実は割とコイツら気の置けない仲ってヤツなのかも知れない。だとするなら、一方のケンゴが頑なに苗字呼びなのが気になるっちゃ気になるが。
「ま、歳とかどうでもいい。でも待つんなら無駄話くらいしかやることねーんだし別に良いだろ、これから手持ち何もなしで夜になる。なら暗いトコを無理に動くよりはじっとして方がいい……『無駄話せずに体力温存すべき』とか言うつもりならごもっともだけどな」
俺はなるべく冷静に状況を説明したつもりだが、対するヤソジマは気色ばんだままだ。
「んじゃどうやって動くんだよ⁉︎ こっから‼︎」
コイツの妙にみみっちい主張はますますボルテージを上げていく。さっきの不平不満といい今の振る舞いといい、もっと鷹揚に構えていた方がプロのアウトローとして成功しそうな気がするのは気のせいだろうか。……何にしても、小うるさいのには変わらないので。
「朝まで待つしかねーだろ、焦って動きすぎだ。だいたい何があるかも分からん洞窟をペンライトみたいなクソ小っせー明かりだけで調べようとか何考えてんだ。しかもケンゴがさっき一人で帰ってきたってことはお前ら四人とも別行動だったんだろ? もしそれぞれ一人で行動してるときに誰か地面の裂け目に落ちでもしたらどうする気だった? そうでなくても負傷して動けなくなったら? 五人しかいねーのに余計に頭数減らすトコだったんだぞ」
俺は正論っぽいダメ出しで黙らせることにした。
「……るせェよ、カタギが指図すんじゃねェ‼︎‼︎」
当然ヤソジマは逆上し、怒りに任せてヤソジマは自前の拳銃を抜き放つ。とはいえ、ここまで予想通り。
「ヤソジマ! この程度で拳銃抜いてんじゃねェよ」
そしてこれも予想通り、ケンゴは“上司として”ヤソジマを怒鳴りつけた。ヤクザといえば地位が上か下かで決まる縦社会、こうなれば向こうは黙るしかないハズだ。そこで俺は底意地が悪いながら、少し調子に乗ることにした。いい加減イラついてたんだな、要するに。
「お前のがうるせーわ、んだよ逆ギレか? 生き残る気ねーんならとっととソイツで自分の頭撃ちゃ良いだろ」
「てンめ……」
「ヤソジマ、お前イキってんじゃねェ‼︎ てめェ死にてェのか⁉︎ アキも下手に煽んな!」
事態を見かねたらしいケンゴがまたしても声を荒げる。しかしヤソジマへは怒鳴っての厳重注意、対して俺へは一言だけ。それがヤソジマの癇に障ったらしい。
「あぁ⁉︎ おい何だそりゃ、てめーカタギの肩持つのかよ‼︎」
「そもそもソイツいねェと俺らは死ぬしかねェってのもあるし、どー見てもお前よかソイツのが頭冷えてるからな。悪ィけど今のお前は駄々こねてるガキにしか見えねェよ。いま頭冷やすかブチ抜かれるか選べ」
ケンゴは冷淡に言い放った。
「……おい、お前のが肩書き上だからって調子乗ってんじゃ……!」
銃声。
「っッッっがァッ!」
そして紫煙、というには少し火薬臭い匂いがして、そしてほぼ見えないくらいの薄い煙の帯が見えた。煙の出所はケンゴの右手の中、目を凝らすと指の隙間からは拳銃より幾らか小さな銃口が頭を覗かせている。目の前のマヌケなチンピラのハズの男の目にはさっきとは打って変わった鋭い眼光がたたえられ、手の中には一瞬の間に、イヤに重々しい色で手のひらに収まるサイズの拳銃が握られていた。
「マジで撃ちやがっ……足がぁっ‼︎」
「お前ホントうるせェ」
ヤソジマは理解が追いつかない一瞬の出来事に苦悶の表情で靴の先端を押さえる。銃弾に空けられた風穴から血が噴き出していた。撃った当人はというとそれを見下ろしながら事もなげに吐き捨てる。
そして手の内の凶器を大事そうに右の袖口の奥へと差し込むと、その奥、肘のあたりからガチリという金属的な音が響いた。……袖の下に何か銃を取り出せるカラクリでも仕込んでいたらしい。たぶん義体化か何かか。
「ハァ……これでお前らに見られちまった、もうちょい隠し玉にしときたかったのに。つーか位置的にたかが足の指一本かそこらだろ、大袈裟なんだよ」
ケンゴは残念そうにヤソジマに語りかける。どうやらこのことは仲間内にも秘密にしていたらしい。確かにこうなったからには、もし地上に帰れたとしても瞬く間にケンゴの情報は広まってしまうだろう。ただ何にしても、コイツがこんな暗殺者みたいな仕込みをしていたという事実は俺にとっても意外だった。最初に会ったときはいかにも何も考えてなさそうなチンピラだと思ったのに。
「……おいケンゴ、その銃なんだよ?」
「あ? 早撃ちくらいなんでもねェだろ。今どき射撃の腕なんざゲーセンにでも行きゃいくらでも鍛えられるし」
「…………」
だが実際、たかだかゲームセンターでこんな義体なんぞ使うわけがない。露骨にはぐらかされているのは明らかだったが、同時にここで無理につつく必要もまるでないのは明白だ。
「おらヤソジマ、ネクタイ外して足出せ。縛って止血してやっからよ」
「クソッ、舐めやがって……」
そんなこちらの疑問をコイツが知るわけもなく、ケンゴはヤソジマの革靴ごと貫かれた指先を引っ掴んで靴を剥ぎ取ると、さらに余ったネクタイの端を土踏まずの辺りにぐるぐる巻き付けて縛った。




