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07:2 - 然るべきイザコザにて

「まぁ、まずはフチザキ(コイツ)運ぶんだろ? どこに運ぶか知んねぇけどとっととやろう」


 そういって俺は立ちくらみが走る頭を揺り起こして岩から飛び降りた。いくら重いといっても血はとっくに抜け切ってるはずだ。そりゃアウトローを地でいくこいつら自身よりは圧倒的に見慣れてないだろうが、たかがオッサンの死体一つ、どうせ話半分に盛ってるだけで大したこと——



「あ……?」


 重い。

 亡骸の左腕を無造作に掴んで持ち上げただけでもわかる程度には重い。片腕だけで二〇キロはあるだろうか。いくらフチザキの体格が恵まれていようと、さすがに肩から先だけで二〇キロ近くあるような怪物には到底見えない。どうもコイツはケンゴの言うように自分の体を相当イジくり倒してるようだった。


「だーかーら、重くて運べねェっつったろーがよ、人間一人の力じゃフチザキを動かすなんて出来やしねェ」


 こちらの心中を察したらしいケンゴがやれやれとでも言いたげに言う。だが、俺に言わせれば。


「……人間一人どころか俺ら二人がかりでも無理だわこんなん」


「は? カタギだからって非力にも程があんだろてめェ」


「あのな、片腕の重量ってのは全体重の約六%だ。つまり腕だけでこの重さってことはコイツ三〇〇キロ以上はある計算になんだよ。単純に二で割っても一人の負担が最低百数十キロ、俺もお前も生身でしかもこっちはそれこそカタギだぞ? そうでなくともパワー系アスリート用か工業用の義体(サイバネ)でも積んでねー限り動かせるかっての」


「は、はぁ⁉︎」


「要するに人力だけで動かすのは相当キツい、っつー話。そもそもこんなトコ誰も来ねぇし運ぶ必要ねーだろうよ、もう放置しとこうぜ」


 俺は目標を潔く諦めると地面に腰を落とす。できない以上立ってるのも無駄だし、また体力の温存も考えるべき項目の一つだ。何にせよ、これを動かすには残りのチンピラたちが戻ってくるまで待つしかない。

 ケンゴは訝しげにこちらを睨んでくる。


「何で腕引っ張っただけでそこまでわかんだよ」


「……わざわざ聞くな、ンなこと」


 唾でも吐くみたいに、ため息ごとそう吐き出しといた。




 戻ってきた若いチンピラの一人がえらく冷めた目をしながら吐き捨てた。


「で、カタギがわざわざ出張(でば)ってきて何の用だよ?」


 探索を終えて戻ってきたチンピラたち三人は目を覚ました俺を見て、その中のリーダーっぽいヤツがこちらを睨みながらいかにも不満そうな態度を示してきたワケだ。

 数十メートル頭上の穴から覗く、青く濁った空からの日差しはただでさえ弱々しいのに余計に頼りないことこの上ない。今やチンピラ各人が持つペンライトの小さな明かりだけが頼りだ。単に気が滅入るってだけでなく、これからくる恐ろしく暗い火星の夜で灯りになりそうなものは他に持っていないとくれば思考回路まで暗くなる。

 そんな状態で争いを起こさず無事でいられる保障は全くない。……にも関わらずコレだ。取り敢えず落ち着いて欲しい。


「お前らいきなりケンカ腰かよ」


「てめーは何だよ、ケンゴ。知り合い同士仲良しってか、あぁ?」


「いや状況見てみろ、こんだけ切羽詰まっといて意地張ってる場合じゃねェ。いつまで悪ガキ(はんグレ)時代引きずってんだ」


「挑発は困ります……我々がやりたいことは貴方がたへのサポートです。苛立つのもごもっともではありますが、今はとりあえず鞘に収めて……」


 なお、この異常にかしこまったセリフを吐いてるのは俺だ。さすがに言葉も態度も選ばないと殺される。



「はぁ? オレらがこんな状況に巻き込まれてんのはそもそもお前らが原因だろ。それを今さら“サポートします”って、舐めクサんのも大概にしろよ」


 至極もっともだ。自分でも、今くっちゃべってるセリフの一言一句が胡散臭いことこの上ない。……とはいえ、である。


「だからこそ、です。巻き込まれた貴方達を今ここで死なせないためにサポートすると我々は申し上げているのです。ご理解いただきたい」


 ここで互いにやいのやいの言って話が平行線のままでは共倒れになるのも時間の問題だ。いくら向こうが納得しているように思えなくても、これは厳然たる事実……なら答えは簡単、こちらが折れてなだめすかすしか——


「へっ、自分のケツも拭けねーオッサンが生意気(ナマ)ほざいてんじゃねーよ。で、どうするつもりだよ? またニッチもサッチも行かなくなって高飛びか?」


「飛ぶって天国にですか? ま、そのときは貴方達も道連れですし、あの世で酒盛りでもしましょうか」



 ……前言撤回、ちょっと気に障った。どうもヤクザという生き物には挑発的に取り合って相手をイラつかせる習性でもあるらしい。それに受けて立つ俺も俺だが、ならば負けじと敬語のままワザとらしく煽ってみる。


 当たり前だが、チンピラたちはその場でキレた。

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