06:3 - 供述調書の記載にて
地面に突き刺さった石ころはフチザキの最後の悪あがきによるものだ。着弾点の周りの地面が不自然に波打ち盛り上がっていることを考えると、俺たちは本当に危ない橋を渡っていたのだろう。あの三、二、一のカウントする土壇場で石を地面に投げつけるくらい、仮にどんなボンクラだったとしても出来る。
フチザキは人だかりの中心で跪いてうなだれていた。命中弾は数発、その内の三発が胴体を貫き、二発は腹に、一発は右の胸。いくら拳銃の命中率でも、定点からしっかり狙われた状態で数十発撃たれれば当然それだけ当たる。
「……クソが……腹が、熱い……」
フチザキが苦しそうに呻いた。
肺か腹部を銃撃されるのは、いずれも即死はしないがその分だけ地獄の苦しみだと聞いたことがある。まぁ、それが本当なのか本人に確かめる気にはさすがにならないし、そもそも確かめるとか以前にソイツの頭に銃口が突きつけられている状況なら尚更だ。血塗れで穴だらけになったフチザキのシャツの下からは青い燐光が漏れていた。
「……で、何で俺らを撃ったんです? 今更しらばっくれんのはナシですよ。ヤクザの『質問』が“どういう意味を持つか”くらい、忘れてませんよね?」
最中の拳銃の銃口を押し当てながら、重傷で手当てを受けているイスルギの代わりに元上司に詰め寄っているのは、最初にイスルギに突っかかっていったあの若い鰐人種の男、タチバナだ。
イスルギと同じく左腕が布で縛られているところを見るに被弾しているらしい。
「…………食料……」
フチザキが短く答えた。
「は?」
「……俺らが持ってきた……食料……あれぽっちで、足りると思うか? だけじゃ、ねー……俺らは何も持ってねーし……何もかも…………足りない。……これァ間引きだ、一五〇人なんて……生き残るもクソ、もッ、ゴフ、ゴホッ!」
フチザキは気管へとなだれ込む自分の血でむせて咳き込む。夥しい量の鮮血が口から漏れ、高そうなスーツや黒いシャツに飛び散った。
どうもフチザキの行動の真意は“部下を切り捨てることで自身の生き残りを図った”ということらしい。こういうときに冷徹な手段を取れるのがヤクザならではの選択なのかも知れないが、一歩間違えば自らを滅しかねないというのもまたヤクザらしいということだろうか。……いや、これはどこでも一緒か。
「……なるほど、ならこうやって報復されても文句はないワケだ。じゃ、次です。そのシャツから漏れてる青い光はなんです? 喋れるうちに答えろ。こっちもオッサンの臭い足の爪なんて剥がしたかない」
「……俺を撃って…………とっとと解体すりゃ良い……だろ?」
「答えろ‼︎‼︎」
タチバナは凄まじい剣幕で返答を促す。
「ただ、の…………身体改造だ……アイテリウムを…………人工臓器、やら……神経回路ごと…………体に、埋め込ん……でんだよ」
途切れ途切れになりながらもフチザキは観念したように続けた。
「アイテリウム、の……重力、制御は……ゴホッ……電気信号と…………相性が、良い……。コレ、は……神経伝達……の……電気信号で、重力を……操ってた」
「そんな大規模な手術、いつから?」
「三、年前…………イスルギ……が、アメリカから日本に戻っ……てきた…………らへんから、少し、づつ……。小規模な……手術を、繰り返してた…………簡、単な……整形みたいな、もん……だ…………一回……数時間で……ゲはっ、がハッ……事足りる」
「散々俺らに投げてきてたあの石ころは何だよ?」
俺も思わず口を挟んだ。
この男についてはまだ腑に落ちないことがある。
「……何で、アンタにまで……」
「答えろ」
若干不満げなフチザキに、タチバナは容赦無く拳銃を鳴らしてせっつく。
「…………人間に出来ねー……ことが…………急に、出来るように……なっても、いきなり…………使いこなせる、ワケない、っ……よな? …………テキトーな物、を……重力を発生、させる……『核』に、すんだよ……。…………何でもいい、俺にモノをッ、引き寄せ、りゃあ……磁石に、釘……近づけっ…………ごブッ……時、みたいに……“重力”、を……ソイツに込め、て……『核』にでっ、ゲホッ、がっ、カハッ!!」
周波数の合わないラジオみたいに途切れ途切れになりながら、そこまで言ったフチザキは再び喀血して派手に鮮血を撒き散らした。死に体の人間にこれ以上喋らせるのは流石に酷だろうか。とはいえ、コイツらがそれで沈黙を許すような連中には到底見えないが。
フチザキが再三に渡って銃弾を寄せ付けなかった原理は思いのほか単純だった。
銃弾にだって当然重さはある。つまり重力の影響を大なり小なり受けるということだから、削岩車を動かすほどの巨大な重力を使えば銃弾ですら止められるということなのだろう。
仮にコイツの言う通り、近付く物を重力の影響下におけるという能力があるなら撃ち込まれた銃弾が失速して落ちていった説明はつく。ある一点を除いて、だが。




