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30:3 - 道化でも言わない冗談にて

「へぇ? じゃ、そこのいま息を呑んだメガネの猫ちゃんがお相手とか? ハハッ」


 対するフローラはズケズケとそんなことを尋ねてから笑い声を上げた。鼻で笑ったのだ。そういえばさっきこの女は何と言っていたか、『不公平』だったか。要するに他の人間と違って自分の性癖が受け入れられないことへの嫉妬みたいなものだろうか。でも結局俺はマイノリティでも何でもないから、間違ってもそれに共感できるなどとは言えない。とはいえ、今のフローラの口ぶりには他人ながら不快感を感じた。当然ながらアデリアが激昂する。


「てめールチまで巻き込んでんじゃねぇよ‼︎」


「あら図星かしら? ごめんな——


 そこで、小さめの風切り音が二つ。そして金属の何かが弾き飛ばされるかなりデカい音も二つ鳴った。


 行動を起こしたのは二人。さっきから振り回しているカランビットナイフを投げたアデリアと、あともう一人はルチだ。投げたのは隠し持っていたと思しき手榴弾で、勿論それが当たって爆発でもしていれば爆弾内部の鉄片が撒き散らされて、この部屋にいる全員が無事では済まなかったろう。

 ……こう言ってる時点で予測はつくだろうが、フローラは両手のハンティングナイフで双方を弾き返していた。幸い手榴弾は弧を描いて銭湯の仕切りを越えて、誰もいない浴場で爆発を起こす。こちらに被害はないワケだが、その代わり銭湯の内装は目も当てられない状態のハズだ。

 それよりも問題なのは、ルチがさっきのアデリアすら超える勢いで、それこそ自分が負傷する危険を気にも留めないくらいに怒り散らしていた。



「ア、アデリアを馬鹿にすっ、るな……!」


 どもりながらも、ルチはわなわなと手を震わせつついつもより低い声を振り絞る。フローラは何食わぬ顔ってヤツだったが。


「何だ、知らなかったとかじゃないの? じゃあ“フツー”のカップルじゃない、つまんな」


「違う‼︎‼︎‼︎ ルチは元々あーしのことくらい知ってたっての……だって相棒だもん、そうじゃなくって……‼︎」


 そしてアデリアは泣きそうな顔になりながらも即座に否定した。どうやら何としても『ルチが同性愛者なのではないか』という疑惑を振り払いたいらしい。コイツにとってはそこが重要なようだ。


「ルチは……あーしがこんなんだって知ってもずっと相棒続けてくれた子なんだよ……結局、あーしバカだから自分がおかしいのかそうじゃないのかも分かんないけど! それでも良いって言ってくれたマトモな子なんだから! 冗談でもそーゆーの許さねーから……‼︎」


「あー……別にいいから、そういうの。はいはい、じゃジョークでいいわよジョークで。何? ジョークでも本気にすんの? だっさ」



 一方のフローラはそんなものに気をかけるつもりすらサラサラ無いらしい。明らかに対面を保つだけの意図でそんなことを口にした。どうも他人の事情について配慮するのは二の次という優先順位でしかないのが透けて見える。

 自分の主張は“それ”で、他人には“これ”か。イヤまぁ犯罪者だしな。呆れさえ感じつつ、俺は()()()を出すことにした。


「……ならアレだよな、お前らがさっき言ってた性癖とか犯罪願望? あれもジョークでいいんだよな? 実際に犯罪起こして逮捕さ(パクら)れて刑務所(ムショ)送りにされて、その上でまだりたいとかいうの。ヘッ、国家の犬(ぐんじん)なのに言いつけ守れない犬以下ってか、笑えるじゃん」


「…………あ……?」


 途端に殺気がこっちに向けられる。そりゃ正直気分は良くないがまぁいい、実力的に見ても今の俺らの中で一番強いのはティートかアデリアのどちらかだ。なら相手方にはその二人以外に注意を向けててもらった方が都合がいい。もちろんそれもあった。

 ……ただそれ以上に、“つい”こいつらに自身の立場を思い出させたくなったってのがあるし。

「まぁでも実際さ、お前らってアメリカからは実際にそう扱われてんだろ? 仲間も殺したとかそれこそ動物以下じゃん。それでこんな犯罪者だらけの怪しいレースで人類未踏領域まで送り込まれて、完全にお払い箱なワケだ。……おいそんな睨むなよ、こっちもジョークで返したってだけだろ。同じ穴のムジナ同士仲良くしようぜ」


 まぁ見ての通りこれはジョークでも何でもない、ただの安い挑発だ。相手がこういうの気にしないヤツなら効果は無いし、むしろ何か必死に言い返そうとしたみたいでダサいどころの騒ぎじゃない。しかし。



「へぇ、思ってた以上に死にたいみたいね?」


「てめぇ焼き殺してやる……」



 相手方は無事食いついてきた。予想が的中していて俺は安堵する。わざわざ自分が行動する流れをブッた切ってまで『カミングアウト』に時間を使ったのだ。さっきの言葉の通り、そのあたりは向こうにとって相当重要なんだろう。こうやって目の前でバカにされたことにブチ切れる程度には。


「ンだよ、バカにされてキレるクセに他人には配慮無しってか! さすが自由の国!」


「黙れジャップが! ブッ殺してやる‼︎」


 更に煽る俺に激怒したガスマスク男が火炎放射器のノズルをこちらに向けて引鉄を引こうとする。デコイとしては成功、でもいきなりヘイト最大で焼き殺されそうにもなった。

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