30:2 - 怒りと意地の告白にて
「聞く用意はできたかしら? ……改めまして“初めまして”。フローラ・アビガイル・ルシエンテス・ガルシア二等曹長、純人で加虐嗜好者、病的性向は『血液性愛』。つまり流血させたり血を見るのが大好きってトコかしらね? だからこそアタシは銃なんて無粋なモノじゃなくナイフしか使わないってワケ。犯してきた本来の罪状は複数の同僚兵士・捕虜への障害行為及び殺人」
誇らしげにそこまで語られたところで、頭ではやはり釈然としない。
「……なんだそりゃ、開き直ってンなこと言うのに何の意味があんだよ」
「あら、重要なことよ? 少なくともアタシやアタシたちにとってはね。知っての通り、アタシたちは“マトモ”じゃないわ。人とは違うものを抱えて生まれてきて、それを異常だと蔑まれて、存在そのものが間違いみたいに扱われた」
淡々とした口調だったが、反面でフローラは興奮しているようだった。いかにも、自分の正しさを声高に叫んでいるみたいな。
「ね、不公平だと思わない? 自由の国に生まれて、他の人間は多様性の名の下に自分の抱えたものを曝け出して、しかもそれを賛美までされてるのに。だからアタシは、アタシたちはアイツらに“異常”と言われた自分を宣言するのよ、敢えてね。そうすることで初めてアタシたちは持って生まれた自分を取り戻すの‼︎」
「……じゃ、続いて俺も遠慮なく。ショーン・レンフィールド上等兵、ジャーマン・シェパード系犬人種で病的性向は『火炎性愛』。炎を愛しまた愛され、ゆらめく火炎に幸福を見出している! 罪状は複数の軍事施設への連続放火及び関係者の大量殺人‼︎」
さっきからショーンと呼ばれていた小柄のガスマスク男も高らかにそう名乗る。
……アメリカという国の人間の、自己肯定を何よりも重んじる姿勢については知っていた。いや、知っているつもりでいた。実際にはラッシュみたいな、“たまたま知り合っただけ”の善人の少女一人を勝手に代表例だと思い込んでたってだけの話だったのに。
だがそれをトチ狂った人間にまで与えるのなら話は変わってくる。自己肯定をこんな物騒な信念に変えてしまうような、そんな危うい思想だとは思ってもみなかったのだ。目の前の光景はそれを俺に思い知らせるくらいにはイカれていた。
「ま、そういうワケでこれからアナタたちは“食材”になってもらうわ。食材というか生贄ってトコが妥当だけどね」
目の前の燃え始めでまだ小さな障害物と、それを警戒して動けない俺たち。よっぽど滑稽に見えたのか、フローラはそんな目の前の光景を見てせせら笑う。当然ながら俺としても気分は良くない。そしてそれは、
「……フザケんなっての」
この場に居合わせた蝙蝠人種の少女も同じらしかった。
「あら、なぁに? 聞こえなかった」
「フザケんなっつってんの……! いい加減にしろって‼︎ あのねぇ! この世に生きてる人間はみんな、誰だろーとそーゆーのに折り合い? つけて生きてんの! 相手に気ィ使って、周りに気ィ使ってさぁ‼︎」
アデリアは明らかに、そして予想以上にイラついている、というか怒り心頭だ。フローラのどこか殺気立った問い返しにも怯むことなく、というかそれこそ烈火の如く怒りをぶちまけ続けた。
「自分らだけ受け入れられないから不公平⁉︎ アンタらは我慢もしないで他人に押し付けただけだろ‼︎ それで刑務所入れられてんだから結果は全部出てんじゃん! 社会とか他人に責任押し付けてんじゃねーよ、あーしだって…………」
「“あたしだって”? まさか自分も同類だって言いたいの? 自分もアタシたちみたいな変態って言い出すのかしらね?」
「そ、それは……その」
少女はモロに顔を曇らせながらうつむく。まるで図星を突かれたみたいに。だが対するフローラはそのことに気付きもしないまま続けた。
いや、気付いていたとしても“面と向かって宣言できないのは弱さだ”と解釈したのかも知れないし、もしかしたら“気付けるほど他人の機微を読み取れない”というほうが的確かも知れない。結局どちらが正確かは分からないが……。
「口に出せないなら素直に黙ってなさい。言っとくけどアタシたちみたいな本物ってね、勢いでついた嘘くらい分かるのよ? 増して口籠るなんてアタシたちじゃなくても嘘だって分かるわ」
「ぅ、るッせぇよッ‼︎‼︎‼︎ あーしだって……あーしだってね……」
尋常じゃないアデリアの怒気に、さしものフローラもさすがに何かを察したのか逆に口籠った。一方でアデリアは微かに唸り声を漏らす。重いものでも持ち上げるみたいに、体のどこか一点にメチャクチャ力を溜めてるみたいに。
「あーしはッ……! レ、同性愛者なんだよッ‼︎ に、にに似たようなモンでしょ……‼︎」
「ッ…………!」
突然のことにルチすら驚いた顔をしている。結局、そんな風にアデリアは自らそう暴露した。尖って長い耳の先まで赤くして……ん? ってことは意中の相手というのは。




