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28:3 - 怒りの急降下の果てにて

 俺は他のクラフト、特にΠ(パイ)小隊本来のクラフトとかからの援護射撃にも反射的に警戒する。しかしアリアドネ号内部の占拠に人員を相当()いていたのかそっちから狙われることは無かった。


「上がれ上がれ上がれ、なるべく高く! けど一定の高度以上行ったらエンジン止まっちまうから飛びすぎんなよ⁉︎」


『そうだぞ嬢ちゃんよォ、ちょっとでも手ェ抜いたら撃ち落とされんぜ?』


「あーもー、簡単に言うなオッサンども‼︎ 何でワザワザそんな飛ぶ必要あんの⁉」


 俺とフチザキの煽りにアデリアが不満げに吠えて、


「方向転換するタイミングでどうやっても遅くなんだろ⁉︎ そこ狙われないようにな‼︎」


 でもって俺の代わりにイスルギが答える。ここはエリア・ニュクス、通り抜けると機械が完全停止してしまう見えない壁みたいなものが領域の全体を覆っている土地。つまり見えない“天井”を相手にしたチキンレースをしろっつーワケだ。そらアデリアの怒りももっともだった。まぁ、俺だってオッサン呼びのままなのは不服だが。

 それをよそにして、今度はオペレーターのイヴが声を上げる。


「高度一〇〇〇フィート通過! どうするんだい?」


「クッソ、まだ上げるっての‼︎」


 もうヤケクソとでも言いたげにアデリアがまた返した。確かレース最初の自由落下突入は高さ二万メートルかそこらだったハズ。やり過ぎなくらいの高度設定からのスタートではあるが、少なくとも限界点は今の高度からそこまでの間のどこかってことは確かだ。つまりまだまだ余裕はある。

 とんでもない速度のままひし形クラフトは上昇していった。クラフト内は今のところ重力制御がまだ効いてはいるが、地面から直角の角度で急上昇している状態なのは外の全方位カメラから壁に映し出される風景でわかる。地平線が視界の縦に横切っているのに重力がそのまま足の下の方向から働いてるのはぶっちゃけ変な感覚だ。


「高度二〇〇〇フィート通過!」


「メートル換算だとたかだか六〇〇そこらっしょ? まだまだぁ‼」


 アデリアはさらにブースターをかして更に速度を上げていく。それに合わせて高度も加速度的に三〇〇〇、四〇〇〇、五〇〇〇……と一〇〇〇フィート(つまり三〇〇メートル強)程度ならもはや流れていくように通過していった。それとそういえば、さっきからずっとどこか不満気だったアデリアだが、ここまでくるとヤケクソというよりはムキになってるように見える。余程イラついた感じというか、何というか。つまり何かあったってことか? 女の事情はよく分からない。

 しかしそうこうするうちに。


「高度一〇〇〇〇フィート通過! そろそろかな」


「いーやまだまだ、こんなトコで怖気付い(チキっ)てらんないっての!」


『はぁ⁉︎』


「まだ⁉︎ 今のところブースターの操作は任せてるけど、行き過ぎそうになったら僕らだって止めるからね?」


「うっせ‼︎」


 今度は何だ……?

 アデリアのヤツ本当になんかおかしくないか? アデリアとイヴが会話していた場面なんてそれほどなかったハズだが、それにしてもあんな喧嘩腰の物言いしていただろうか。そりゃフチザキのツッコミとかなら言い返したくなるのもわかるが……。そして当然、そんなことしている間も高度はなおも上がっていく。


「高度一二〇〇〇……一四〇〇〇通過‼︎ ちょっと待って、これもうそろそろ……」


 イヴが言い淀んだ。おい待てよ、もうそろそろ? たしか高度二〇〇〇〇からのダイブの時は一番上でエンジンが停められて墜落してのスタートだったハズだ。それから三〇秒ほど落下してからエンジンを動かせるようになってそれから……あ。


「おい‼︎ とっとと降下開始しろ! でないとエリア・ニュクスの『天井』にぶつかってエンジンが止まっちまう‼︎」


 そうだ、ここには『天井』……つまりエリア・ニュクスでは機械が強制的に停止させられるためクラフトが航行できる限界の高度が決まっているのだ。そんな物の存在すっかり忘れていた。が。



「オイ! 今ブースターは止めたぞ‼︎ 姿勢制御スラスター、出番だ!」


「んッ‼︎」


 イスルギがアデリアの席を無理やり奪い取って操作していた。ルチが吃音きつおんも出て来ないような短い声で返事する。どうやらイスルギは『天井』の存在のことをちゃんと覚えていたらしい。そうだ、そういえばコイツ、確か初日の夜に一度脱出できるかどうか自分たちで検証してダメだったことをワザワザ俺に報告してきてきてたっけ。それを忘れてなかったのか。

 スラスターの調整により空中で芸術的な放物線を描いたクラフトは、正面を地面に向けて地上へ向けて再突入を開始した。限界高度ギリギリまで飛んだおかげで地上のアリアドネ号からはアリみたいなサイズにしか見えないハズだ。現に今はアリアドネ号のレーザー射撃でもさすがに今の一瞬で命中させることは出来ていないワケで。


「おいブースター担当、俺ぁ元のメイン照準の席まで戻る。何あったか知らんがしくじんなよ、次はねェぞ」


 イスルギは早口で突っ立っていたアデリアにそれだけ伝えると、急いで元いた座席へと戻って操縦桿を握る。アデリアもバツが悪そうな顔のままシートに収まった。しかしそんな態度でもアイツの仕事が減ることはない。




 そして自由落下の勢いのままひし形クラフトは地面に向かう。この土壇場で正確な距離やら時間は出せないが、ブースターを動かさなければ衝突まで大体一分弱ってところじゃないだろうか。真正面が地表に相対してるってことで、地表のアリアドネ号と空中のひし形クラフトはお互いに引鉄を引きながら急速に近づいていることになる。つまり、火星の重力に引かれるのに加えて確実にブースターを動かすことになってもっと時間が短くなっていくワケだ。

 まぁ早い話、これから()()()()には持ってこいってこったな。

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