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28:2 - 活路は宙空の先にて

 まず、アリアドネ号を攻める上での差し当たった問題というのはすなわち地面の上にあった。あるいは周辺の地面一帯って言うべきか。

 つまり何かって言うと“地雷原”だ。つってもまぁ知っての通り、リュー軍曹が仕掛けてた爆弾(俺がやられたとき見たものが見間違いでないのなら)の正体は地雷とか大層な物じゃない。……あの地面に撒かれた、丸薬みたいな黒い芥子粒(けしつぶ)

 そんで軍曹が振り回していたほうの手の指の先……のさらに延長線上、あの一瞬光っていた光の粒こそ大地にバラ撒かれていたそれらで間違いない。考えてみれば見たまんまだ。砂粒に混ざったあの黒い粒が反応して白熱して、でもって爆発した。


 そりゃあんな小さな粒にあんな爆発力があるとはにわかに信じがたいものの、それはあの粒一つだけに限った場合。地面にそれこそ芥子けしの種みたいな量が撒かれていたのなら話は通じる。それに爆発物があんな駄菓子屋の爆竹にも劣るくらいに小さくても、そもそも二八世紀の化け物じみた化学力の前じゃ屁でもない。価値が純金と並んでた時代もあったとかいう超絶高額高火力爆薬(オクタニトロキュバン)なんて代モノですら超廉価で生産できるようにしてしまって久しいのだ。今の時代なら威力はもっと上のものがあってもおかしくないし、まして端くれとはいえ、戦争につぎ込む技術力と金の額なら世界トップクラスの米軍相手ともなれば余計にそうだろう。



 で、地面にそんなものバラ撒かれて地上から近づけないとなれば残る道は空路しかない。操縦席フロアに俺らが集められたのはそういう理由からだった。もっとも、それでもアリアドネ号に近づくのが簡単とは到底言えないワケだが。

 障害になるのは次の三つだ。


 障害その一、アリアドネ号からの艦砲射撃。

 さっきから何発も撃ち込まれてるからこれは言うまでもない。そもそもこんな無法レースに出場するクラフトなので、当然ながらアリアドネ号は武装も充実している。そもそもの人員が少ないから整備に人手もスペースも要る実弾兵器は積んでいないものの、そのぶんレーザー兵器はブツブツ文句垂れるナッシュ爺さんに用意できる限りの最上位兵装を選んでもらっていた。高精度攻撃用AI完備で少人数編成にも優しい。なにせ孫娘の生存率に直結するのだ、生半可なモンは積んじゃいないだろう。

 それにエリア・ニュクス突入時にも活躍していたあの八本の牽引用強化鋼ワイヤーも、今は逆に厄介な部類に入る。数が多めなのに加えてワイヤー自体が恐ろしく強靭だから、使いようによってはレーザー砲より脅威度が高くなってもおかしくない。


 障害その二、ここでも出てくるリュー軍曹の爆弾。

 俺がやられたときを思い出して欲しい。あの芥子粒けしつぶ爆弾はちっさいクセに、地雷みたいに地面から風では舞い上がらなかった。どうも火星の強風程度じゃ飛んでいかないくらい重く作られているか何からしい。重いと言うことはそれだけ質量があり、すなわち爆発力も高いと言うことでもある。

 けど俺が身を持って体感した通り、起爆時の強烈な爆風を利用すれば宙へと充分に舞い上げて使うことも可能なようだった。つまり正面や頭上から爆弾が飛び込んできてもおかしくないということ。下手に近寄ることは前後上下左右から全方位爆撃喰らうのと同義だ。


 障害その三、というかそもそもエリア・ニュクス特有の強風と砂塵さじんそのもの。緑化なんてこれっぽっちもされていないエリア・ニュクスでは砂煙避けの防塵マスクが必需品なのは何度か書いている通り。ここは荒野か砂漠しかなくて、しかし火星の余所よそでは惑星地球化テラフォーミング事業なんてのの一環で大気の流れが作り出され続け、結果ここでは大昔から風が強いのにさらにいつも風が吹き続けている。運良く俺たちは出くわしてないが、当然砂嵐だって無くはない。

 そりゃ今まで何度となく俺らが風の中を歩いたように、それこそ防塵マスクさえあれば生身でも出歩ける程度には風の影響も弱まっていた。でも問題なのは風の強さそのものじゃない、風に乗って大量に飛んでくる砂粒だ。

 これらは容赦無く機械の隙間に入り込んで機械にダメージを与える。もちろん装甲を充実させてそんなことが起きないように対策はしていても、攻撃されてその走行が剥がされては元も子もない。そんでもし砂が内部に入り込んだとすれば、砂粒同士の接触で起きる静電気によって誤作動を引き起こされることだってあるし、そうでなくても芥子粒けしつぶ爆弾そのものが入り込むかも知れない。ひどい時には視界を覆い隠すし、そうでなくても騒ぎがあれば余計に砂粒は舞い上がる。

 まぁ要するにアレだ、つまり早い話がここは元々暴れるのにあまり向いていない土地だった。




 で、これらの問題に俺らがどう対処するかというと。


「急速浮上、船体上げろオォおォオおぉ‼︎‼︎‼︎」


「ちょっとアキ、うるさい! そんな大声で叫ぶ必要どこにあるのよ」


「え、あ、悪——ぐあっ」


 発想はクソ単純、つまり“もっと浮けばいい”。要するにこの場で急上昇して、上空で弧を描いて、落下の勢いで特攻を仕掛ける。もちろん上昇まではともかく、落下の途中で撃ち落とされる危険性もあった。そこはスピードとクラフトの操舵でさばき切るしかない。結局は運試しってヤツだ。

 ベイファンのツッコミでやっぱりイマイチ締まらない俺の号令と共にクラフトは浮き上がる。そして咄嗟とっさに謝った俺が舌を噛むくらいの、クラフトの重力操作も間に合わないくらい瞬時に船体が反応した。荒野に突き刺さっていた正八面体のひし形クラフトはブースターで生み出される浮力で地面を派手に吹き飛ばして宙へ飛び出す。土砂と砂煙の中から、先端までキレイに尖った角をいからせて上へ、上へ、上へ……。

 もちろんアリアドネ号からはレーザー射撃が飛んでくる、が、そんなものかすりもしない。さしもの米国軍人でもそんな動きは想像していなかったらしかった。

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