28:1 - 冴えわたる毒舌にて
ピット・ストップ・ウィンドゥ(pit stop window)
:ドライバーが給油・修理をするための地点に入った際、そこで停車している時間を経てレースに戻ったときに他のレーサーたちとの距離やタイム差を表す『幅』のこと。この中にいるといわれる場合、それは“ピットインのタイミングによって順位が変わる可能性がある”という意味である。
「にしてもな……こんなん上手くいくんかねェ……」
「ったくっスよねェ、アニ……じゃねェや、イスルギさん」
さっきと同じく、傍らの照準制御担当者の座席についているイスルギが自らの疑念を隠しもせずに呟いて、その他武装の操作担当のケンゴもそれに同調する。ミセスの突然の呼び出しにより船橋のフロアに集められて大体三〇分後かそこら、でもって各種伝達を終えて俺らは操縦席の担当している位置にそれぞれついた後のことだ。イヤまぁ確かに、実行することになった“作戦”ってのは滅茶苦茶に単純なモノだった。つまり言い換えると、俺からすりゃ“作戦”なんてとても言えないようなお粗末なモノに聞こえた。
……けど別に代案が頭に浮かんだワケでもねーし。
そういやコイツ、さっきはイスルギのことを“親父”と読んでいなかったか。しかし今はアニキと呼びそうになったり、それをわざわざ“イスルギさん”と言い直したり。ヤクザの世界だの何だのというのはやはり素人目にはイマイチ分からない。
『へっ、イスルギよぉ。おめぇまだ自分の組の連中に“組長”って呼ばせてねぇのかよ? 結局どういうこだわりか知らんまま俺の方がこんなことになっちまったけどな、幾ら気に入らねぇことがあろうとなかろうと、そういうなぁ気にするだけ無駄だぞ。こういうのは慣習とか雰囲気? みたいなモンだからな。この業界の「常識」っつってもいい、要するに個人で決めたようなこととかじゃねぇ。だったら、実際に居もしねぇモン相手に中指立てても意味ねぇだろ、そういうこった』
船内スピーカーからはフチザキの呆れ返ったしゃがれ声が響く。さっきまではクラフトその物が停止状態にあったので、今や電子機器に取り憑いて喋る幽霊みたいな存在であるフチザキも当然ダンマリだったってワケだ。しかしその反動なのか何なのか、オッサンさっきからよく喋ってる気がした。
俺に割り当てられた役割はさっきと同じ指示役。というか他のメンツも大体さっきと同じだ。そういや説明してなかったが各自の担当は……あー、そっちは別にもういいか。細けーしめんどくせーし。で、さっきも今も、主に年齢的な都合で割り当てられた役割のないミセスが(恐らく形式上だけ)謝る。
「ごめんなさいねぇ、さっきと同じく私じゃ何も手伝えなくって! 歳のこともあるでしょう? 昔に比べると機械の扱いはどうしても不得手でして…… 」
「まぁまぁ、ミセスは特に気になさらなくても良いのではなくて? 人員はむしろ余ってますもの、ホラご覧になって。そこの極東のチンピラ共にもアブれて暇そうなのがいらっしゃいますわ」
今は介護役を買って出ているこのジャーナリストの女……ヴァネッサだっけ? が、余って手持ち無沙汰だったチンピラたちにドギツい嫌味を叩き込んできた。主に口調から受けた第一印象である“上品そう”という評価は大間違いだったらしい。
そういやイギリス人って言ってたような気もするが……何なんだろうか、Π小隊にしろコイツにしろ、どいつもこいつも『お国柄のステロタイプ』ってヤツが酷くないか? 俺自身海外に出たことも無ければ詳しくもないし、そもそもそういうのは気にしないほうだと思ってたが、ここまでどっかで聞きかじってきた噂話がそのまんまな例を見ていると考え方を見直したほうがいい気もしてくる。考えてみりゃ、ソイツが生まれてからずっとその国で暮らしてきてんだからある程度は周りに影響されるってことなのかも知れんし。
そんで一方当然ながら、ナメられたら終わりな社会に生きてきて、なおかつ直接的な暴言を直接言われた野郎共はそりゃキレるワケで。
「オイコラてめェ‼︎ 今イエローモンキーっつったか⁉︎ ヤクザなめてっとどうなるか分かってんだろうな⁉︎」
「ンだと毛唐女が! 今すぐフクロにされ……」
「てめェらコラ面倒ごと増やしてんじゃねェ‼︎‼︎‼︎ 協力者の素人相手に脅し入れんなって何回言わす気だブッ殺すぞ、このスカタン‼︎」
そしてアイツらは懲りずにイスルギから矢継ぎ早に怒鳴られていた。まぁ、前に比べりゃアイツらもイスルギが結果出してたりタチバナの末路を見ていたりだからなのか、今さら特に文句もなさそうではあったが。そもそも忠誠心はあった連中だし。
イマイチ緊張感に欠ける操縦席の面々を見て思わず出そうになる溜め息を抑えつつ、俺はまたさっきよろしく号令をかける。
「おし……エンジン加熱、最大出力! 吹っ飛ばせ‼︎」




