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27:4 - 継ぎ接ぎの言い逃れにて

「は? どの口が偉そうに。大体いまの状況からあり得る“未来”って何よ? 普通に考えてあの似非エセ米軍部隊にやられて犠牲は避けられない、最悪負けて全滅だわ。だいたい、フチザキからあれこれ事情を聞き出せたところでここから脱出する手段が分かったワケでもない。奇跡的に犠牲者ゼロでアイツらを撃退できたとして、そこからどうしようっての?」


 そんで勿論、ベイファンの糾弾きゅうだんは止まらなかった。いや、元から止まるような状態じゃないのは確かにそうなんだが。それにしても容赦ない追求だと言える。とはいえここで何かを言い返さないとカッコがつかないし、いずれ俺ら陣営の瓦解がかいに直結しかねない。さっきよりも絶望的な気はするが関係ない、考えろ、俺の頭。


「待てって、まだ手はあるだろ……」



 そんな風に明らかに苦し紛れに、ボソボソ呟きながら俺は必死に思い返した。

 エリア・ニュクス、シグナリアン、Π《パイ》小隊、ウチの陣営、それを構成する参加団体と各メンバー、それぞれの装備、そしてラッシュの周りを飛んでいるシギィことあの結晶……ん?



「ベイファン、ここに突入するときの、あの“最初にあった狙撃”って覚えてるか」


「突入のときの? あら、アレが撃たれたときの出どころ見てたのアナタじゃない? 言ってたわよね、“地表にあった巨大な谷底の奥からビームが出てた”って。出どころから見て、どう考えても地下にいたシグナリアンが異常を察知して撃ってきたものでしょ」


 そもそもが無法者だったとかとは別のもう一つの、人類がバラバラ(こんなこと)になった要因。それは突入のときのあの攻撃だったのは間違いない。あそこで物理的に人類側が散り、各チームが自衛に走って俺らは簡単に協力できなくなった。しかし、アレがあったという事実からくる違和感が一つ。


「それだ、確かに地下にあるアイテリウムの中にいたシグナリアン(アイツら)が撃ったってことで間違いないだろ? じゃあ、ラッシュにくっついてる“シギィ”ってあの結晶。……アレは、いやアイツ自身は、なんで何も撃ってこねーんだ?」


 そう、例えばさっきの銃撃戦なんかは明らかにシギィが自分で攻撃するべき場面だったろう。ラッシュを守る上でもそうすべきだったハズだ。でもアイツがやったのは一〜数発だかの銃撃を防いだことのみ。どう考えても“そんな能力が無い”かのような振る舞いだった。


「そ、それは……」


 同じくベイファンもそう思い当たったのか、狼狽うろたえつつ言う。


「他にもある。そもそもあんな射撃が出来るんなら、何で自分たちで攻撃して来ない? この辺に俺らが集まってんのは察知してるハズだろ? あのレーザーでΠ(パイ)小隊のクラフトやらアリアドネ号を撃ちゃあ良い話だ。なのにシグナリアン(アイツら)はフチザキ使って、あっちの内情を教えてまで俺らに接触してきた。ありゃ何でだ?」


「さすがにそこまで私が分かるワケないでしょ、いい加減にして!」


「そー、俺らはシグナリアン(アイツら)について何も知らない。なら、出揃ってる情報から精査するしかないよな」


 俺の回りくどい言い回しにベイファンはイラついたような声を上げた。でも心なしか、その声にさっきまでのような冷たさは感じない、気がする。そこで俺はさらに一つ、頭の中に引っかかっていた情報を提示してみた。


「……で、既にある情報にでこんなのがあったよな? “エリア・ニュクス(ここ)に人間が入り込めないようにしているのはシグナリアンが自分たちを防衛するためだ”って」


「……ッ‼︎」


 反応を見れば分かる、ビンゴだ。たぶん言わんとしてることを理解したんだろう。可愛げのない女だ。そんなことを思いつつ俺は追い打ちをはかる。


「要するに、今の状況から考えたら。想像のつく中でありそうな仮定ってのはこうだ、『シグナリアン(アイツら)は何かの理由で自分たちじゃ状況をどうにも出来ないから、フチザキを取り込んでまで俺らに接触してきた』、『俺らが恩を売っておけば、俺らは無事エリア・ニュクス(ここ)から脱出できるかも知れない』、んで『俺らがアイテリウムの秘密を暴いて、シグナリアンの存在を人類に認知させ、今までのアイテリウム利用を止めさせたい』。結局、思惑ってこういうことなんじゃねーか?」


「……ありそうな話だけど、結局は“仮説”でしょ。確証はないわ」


「確かにそうだ。でも、確かにお前いま“ありそう”っつったよな? つまり俺の話の中に『そうとは言えない理由』を見つけられなかったってことだ。話のスジは通ってんじゃねーかな」


「…………」


「そりゃ賭けだ、でもそんなん分かってたろ? 後戻りも出来ねーんだ、なら先がありそうなルート突っ切るだけだ」


 ベイファンは苦々しげにこちらを見て黙っていた。そして。


「……分かったわ、アナタの仮説に乗っかってあげる。もちろん飽くまでも仮説でしかないからアテが外れてたら承知しないわよ」


 こうして女は折れたってワケだ。まさかこのタイミングでコイツに譲歩させられる(確実に心から“納得”はしていないだろうが)ような意見を出すことが出来たのは俺自身にも予想外だった。最後なんて詭弁きべん以外の何者でもないとは思うが、案外俺にはこういう誤魔化しの才能なんてものがあったのかも知れない。あったとしても誇るモンではないだろうが。



 と、ここで落ちたままだった天井の明かりが一斉に灯る。といっても廊下のあちこちから噴き出す火花なんかの光が目立つ程度にはまだ暗かったが。とはいえ、機械が動いたってことはエネルギー類とかそういうのがある程度は戻ったってことだ。

 まだ半死半生ながら息を吹き返した船内にて、音質のイマイチな艦内アナウンスが響き渡った。


『私に直接話せって? 何だいルチ、怖気付いたとかそういう……はいはい分かったよ、……あー、聞こえておりますこと? 「マダム・バタフライ」オーナーのラトナ婆さんでございますわ。皆様、ご覧の通り当クラフトのシステムは復旧いたしました。ひいては総員、上の操縦席フロアまでお戻りくださいまし。アリアドネ号を攻める算段を整えましょう、お急ぎ下さいね』


 あからさまに愛想よく喋る壮年女性ミセスからそんな招集命令が下される。

 ……何となく、裏に考えがありそうな、そんな低い声だった気がした。

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