27:2 - 義理親子喧嘩の合間にて
で、だ。
まず結果から言うと俺は暴れ過ぎたらしい。
いきなり何の話かってーと、さっきまでのタチバナとフロウ=ライツの一団との戦闘での俺の評価のことだ。要するに、配電盤周りへ大量に張り巡らされていた電線に向かって撃ちまくったあの行為、アレはメカニック的目線ではなかなかに許されざる狼藉ってヤツらしかった。
「あ、あぁあのさぁ! あ、アキさん自分が何やったかわわ、分かってる⁉︎ それ、とも何、PCの電源落とす度に、ま、まま、毎回プラグ引っこ抜いてるとかい、言わないよねぇ⁉︎ 良ぃい? ピ、PCの電源だけじゃなく精密機械っていうのは電源が切れる前にアプリとかプログラム、機器とかにダメージがいかないよう適切な順番で停止させてんの、分かる⁉︎ あなたはそれを一気にフッ飛ばしたワケ‼︎ そんなことしたら普通——
「こらルチ‼︎ 恩人に向かって何てこと言うんだい、というか誰であれあの緊急事態でそんなことに気を払えるワケないだろ⁉︎ お前はもっと他人様の事情を考える努力をおしよ‼︎‼︎‼︎」
また吃りを付けたり外したりしながら流暢に捲し立てるルチに、ミセスもまた金切り声を上げていた。そらキャバレーの支配人なんてやってる身からすれば、面と向かっての対人関係が重要になるだろうことはまぁ分かる。分かりはするんだが……ただ今はそこに拘る問題じゃないってのも俺には分かる。というか、もはや芸術的なまでにお互いの言い分が噛み合わない。
「わ、わっ悪いけどこここ今回だけはッま、ママ黙ってて! だだ、だってこれからクラフトせ、整備してまた、ぅ動かせるようにすっすすするのは私と、ラ、ラッシュちゃんなんだよ⁉︎ そりゃぁ、アイツら一網打っ尽にして、てて敵一掃したのもぁアキさんたちのッ、て、手柄だけど‼︎ でででっでも、ッだからってここまで、まっ、め、メチャクチャになったシステムを今すぐ即興で復旧させるのぉなななんてッ、よっぽど無茶にッ、き、決まってぇるじゃない‼︎」
「る、ルチちゃん落ち着いて! ね、ね? 二人で頑張れば何とかなるって……」
「良くないッ!」
「黙らっしゃい‼︎ いつだって金勘定と他人様から受けた恩は忘れるなって言ってきたろう! 孤児だったお前を育てて来て、そのことはずっと教え込んできたつもりだったけどね……まったく、こんなにも身についてないとは思わなかった! 私ゃ情けないよ、なんだってこんな……」
「あー……イヤ、あの、落ち着いて下さいミセス。出来ればこのカジロ・アキユキに免じて、とは行きづらいかも知れませんが……。今は言い争うのにもタイミングが悪いですし、俺のほうも後先考えなかったのが問題なん——
「“俺のほうも”? アナタがあんな無茶したのがそもそもの原因なんじゃなくって⁉︎」
「そそ、そうだよ! こっ、ここんな時にトラブルのッ、もも元になるようなことぉ起こさないでっ‼︎」
……喧嘩してんのか意気投合してんのか、つか義理親子でも充分仲良いじゃねーか。内心そうツッコみつつ、けっきょく俺は似てるのか何なのかよく分からない二人に責め立てられる。
ガラじゃないこと百も承知の俺の敬語も全スルー、ラッシュの気弱なフォローなんて物の数にも入らないらしい。……頼むラッシュ、お前はアワアワしてないでもうちょい頑張ってくれないか。とか言いつつこんな風に頼ることしか出来ない自分が不甲斐ない。
そんな目の前の光景を見て、呆れた調子でティートが口を開いた。
「いやマジで落ち着けよ、バーさんも嬢ちゃんもよ……親子ってか孫の歳の差だろが。で? メカニックでも何でもない俺らはどうすりゃいい? クラフトの機関部どころか最低限、自分の義体整備くらいしか出来ゃしねぇんだぞ。横で遊んでろってか」
イスルギ組組員と同じく相変わらずチンピラ根性が抜け切らないようで、おまけに敬語でもなければ遠慮もないのが丸出しのコメントだ。しかし環境だか職業柄だかでそういう手合いには慣れっこだったのか、ミセスは気にも留めずにいつもの調子で続ける。
「——ハァ、まぁ確かに、こんなメカニックの仕事場に素人は不要ですわね。ならこう致しましょ、機械整備を生業としない人間は、そうね……上のフロアに幾つか主人を失った部屋がありますわよね? そこの片付けというか“整理”をお願いしようかしら。アキさんは最初に隠れてた部屋まで戻って、応急処置をなさってた方々にこの旨、伝えてくださいまし。それとマリア、あんたは残って私の手伝いをしとくれ。……ほら、聞こえたろ? 総員とっとと動いた動いた!」
いかにも年長者というか中高年女性らしい貫禄でパンと手を叩くと皆を急かす。
追い立てられながら部屋から出ていく直前で、さっきミセス直々にご指名があったマリアがこっちを能面みたいな無表情で見ているのに気づく。憮然というか仏頂面というか、とにかく何か気に食わないことがあるみたいな、そんな表情。何かやっちまったのか、よく分からんまま俺は逃げるように目を逸らした。
相当目を凝らさないと分からなかったが、闇の向こうの光景は特に変わっていない。例の部屋の奥では応急処置を終えた例のチンピラ二人が腹が立つくらい安らかな寝息を立てているのが見えた。その隣にはイヴとベイファン、部屋の壁際では残りのチンピラたちが見るからにイラつきながらも集まってソワソワしている。とりあえず応急処置というか、その後の手当てに至るまで成功していたらしい。
「なぁオイ、開けてくれ」
ドアの隙間から覗き込みつつ俺がノックしてそう頼むと、少し間があってから細い隙間の向こうでガタガタと硬い何かが鳴った後にまた隙間が広げられる。ベイファンが急いで開けたらしかった。
「ちょっと! 何で戻ってきたの⁉︎」
で、小声ながらもなかなかの剣幕でベイファンに詰め寄られる。俺はというと、
「いや待った待った! 相手方はもう全員始末した後だ。ここのフロアに残って見回りも掻い潜ってるようなヤツがいないんなら、って話だけどな。もう安全だって」
眉間にシワを寄せて詰めてくる女にたじろぎながらも俺は返した。直後、奥の暗闇から情けない安堵の溜め息が聞こえてくる。それからチンピラたちは余程重い緊張から解放されたのか、こっちに駆け寄って興奮した声でこっちに話しかけてきた。
「アレ何とか出来たんスか、マジかよスゲーなアンタ‼︎」
「ばっきゃろイスルギさんもいんだろーが!」
「タチバナのヤローも殺したんスよね? へっ、ざまぁねェな」
「……で、アナタ何しにきたの?」
しかし沸き立つ男たちが騒ぐ中にいて、不思議とやたら通る冷めた声でベイファンは言い放つ。あまりの温度差にチンピラたちの顔があからさまに曇るのが見えた。




