26:5 - 制止される修羅場の口論にて
「オイ! お前ら何しに来た⁉︎」
階段の下から見張っていたイスルギが鋭く声を上げながら、冷静に俺らが室内に駆け込むのを見届けた後で手持ちの拳銃を抜き放った。そして引鉄を引くこと数回、狙いは出入口の右傍、ジャンク品が雑然と収められた三メートル大で骨組みだけの棚二つ、更にその左の支柱。
で、いかにもヤクザが持つような威圧感のある大口径の拳銃はそのぶん威力も高く、そんなもので金属板で出来た棚の支柱を撃てば当然グニャっと折れ曲がって派手にバランスを崩す。雪崩打ったジャンクの山と金属フレームの棚二つなんて体のいいバリケードに様変わりだ。
「だークソッ、こんなんすぐに突破されんぞ……何で出張って来てんだ」
でもイスルギは歯噛みでもするみたいに苦々しげな顔だった。まぁ確かに、本気出してヤツらが無理やり蹴り上げるだけでも棚は動かせそうだ。現に向こうからはガンガンと耳障りな打撃音が止まない。
俺は駆け降りながら階段の先を見下ろす。少なくともイスルギの以外には誰もいない、機材類だらけの円形のフロアが広がっていた。どうにも、別動隊のアイツ以外の他の人員はフロアに散っているらしい。クラフトの心臓部ということで、もっとデカいエンジンが一つドンと置いてあるだけかと思っていたが実際にはそうでもないようだ。フロア中心のちょっと高めの台に直径三〇センチほどの粗く削られたアイテリウム結晶の核が埋め込まれているだけで、他の柱だかなんだか分からない機械群はフロア中に分散して建てられている。やたらゴミゴミしたサーバールームとでも言えば良いだろうか。
小走りで近寄ってくるイスルギの二メートルほど手前で止まって、何事もなかったみたいに俺以下数名は返事した。
「そらこっちのセリフだ、こんなときに五人ぽっちで別働隊組んで最新部に潜入するってイカれてんのか? お前ら追って来たんだよ。何やってっかは知んねーけど護衛としてな」
「それであんだけ騒ぎデカくして、でもって追っ手に連れたまんまここまで来ましたってか? さっきから銃声やら何やらうっせェんだよ、ナイスアシストどうも」
対して、イスルギは分かりやすい特大級の嫌味でもってぶっきらぼうに切って捨てる。……そんなこと言われたら当然こちらとしても黙ってはいない。
「あ? 何も言わずにチーム分割して独断専行した輩に言われたかねーな」
「そ、そーだって! 急にそんなことやって、状況しっちゃかめっちゃかにしたのどこのどいつだよ!」
もっとも、俺とマリアがどんな風に文句を垂れようと、
「少なくとも俺じゃねェのは確かだな」
イスルギは悪びれるどころか眉一つ動かさなかったが。
「でもイスルギさん、いや組長! 何でワザワザあの部屋から動いたんスか⁉︎ フツーに自殺行為っスよ⁉︎」
「お、ぉ親父だぁ⁉︎⁉︎⁉︎」
今度はケンゴが耐えきれないとばかりに口を開いて、でもってあまりに思いもよらなかったそのセリフの内容に俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だーもう組長って呼ぶなっつったろ、ケンゴ‼︎ 素人の前だと説明ややこしいとか以上に、元々テメェの歳のガキいるほど俺は老けちゃいねェよ!」
イスルギは慌ててケンゴを怒鳴って場を収めようとする。のは良いとして……ヤクザの言う“オヤジ”がどういう意味を持つかなんて知らないが、とりあえずまた緊張感とか緊迫感とかが一周して変な方向にこじれ始めたような気がした。なんというか、今までとは違う方向性でマズい。気がする。……イヤ、そうは言っても親父って……?
「あら、子持ちだろうと何だろうとどうでも宜しいでしょう? ここまで来るよう指示を飛ばしたのは私ですのよ」
「あ、イヤあの、ミセス・ラトナ? 子持ちとかそーいうんじゃなくてですねェ、えーと、日本のヤクザの世界じゃ——
「余計な解説は結構ですわ、それとも今はそんなこと気にかけられるほどヒマな時間なのかしらね?」
イスルギが訂正に躍起になり、俺も若干気になる事情云々はミセスによって面倒そうにカットされた。ミセスはカエルみたいな顔を歪ませて、持ち上がった口の端が三日月みたいなカーブを描く。
「あら、よろしいかしら? 結構、“事情”と申しますのはね、あの部屋でルチに教えてもらったんですの。このクラフトに使われてる発電ユニット、先ほどの空中戦で操作パネルで見た型番が間違いでなければ、自分なら恐らく今の状態から再起動させられるって、ね。事前に説明いたしました通り、ルチはそこのアデリアの専属メカニックというようなポジションですわ。ですからその腕を見込んでここまで連れて来たんですのよ」
エラく得意げというか、いかにも自慢げという感じだ。
「本人が言うならともかく、何でアンタがそんな偉そうなんだよ」
「ヤソジマ! テメェもだっつーんだよ、喋りちゃんとしろやコラ‼︎ いつまで悪ガキ気分でいるつもりだ?」
「あでッ‼︎ ……すみません」
「まぁまぁ、イスルギさんもそう叱らないでやって下さいまし」
ヤソジマは思ったことを正直にこぼし、当然上司のイスルギに頭を引っぱたかれていた。いかにもヤクザっぽい指導だ。だが部下に手が出るのは良くないとでも思ったのだろうか、ミセスもすぐさま仲裁に回ってからヤソジマの問いに丁寧に答えた。
「それでルチのことでしたわね? そりゃあ自慢いたしますわ、あの子は私が我が子同然に育てているウチの工作員たちの中でも最高傑作のメカニックですもの。それこそ、首席工作員の相棒になれるくらいのね。まぁ正確にはアデリアよりも先にあの子が今の地位に就いたのだけれど」
「ち、ちち、ちょっともう……マッママぁ買い被らな、いで……」
いつもよりも吃りながら、物陰からヒョイっと分厚め眼鏡と猫耳がくっついた少女が顔を出した。褐色の肌でもよく分かる程度には顔が赤い。どうも人前で褒められ慣れていないようだ。
だが、そんな見るヤツが見れば微笑ましい光景なんてのも俺にとっちゃ気にするようなものじゃない。というより他に気になることがある。




