26:2 - 非戦闘員らは不在にて
「全員、ここいら警戒しろ! 間違いなくアイツらクラフト内に隠れてやがる。近くの部屋全部を洗いざらい探せ‼︎ それと、コイツとっとと運べ」
タチバナは冷静に指示を飛ばす。といっても無難な指示だ。たぶんおれらの居場所の見当はついていないだろう。
「そ、それだけスか?」
「……俺にまだ何かやれって? 烏合の衆のお前らをまとめて指揮して、つかそもそもこのクラフトの構造はお前らの方が詳しいだろうに構わず指示まで出してる俺に、まだ何かやれってか?」
「ひっ、い、イヤ……」
タチバナのセリフに口を挟んだ若い男の声は明らかに怯えていた。どこの国からきたヤツかは俺に知る由もないが、どう見てもアウトローである日本のヤクザの威光とやらはフロウ=ライツにとって眩しいものらしい。そして相手が怯えている状態で高圧的に交渉を進めるのに慣れきっていたタチバナも改める気は全く無いようだ。そしてタチバナ以下数名は無言で威圧したまま足早に歩いていくのが聞こえる。
「こ、この部屋は、ドア動かな、い、よな……?」
結果、平常心を失った若い声の男は部屋のドアをガタガタと揺らして開かないことを確認した後、そのことをタチバナに報告することもせずそそくさと立ち去ってしまった。
「行った、みたいね……」
“肝が冷えた”とでも言いたげにベイファンとイヴは胸を撫で下ろすのが聞こえた。俺もつくづく肝を冷やしたところだ。嘆息というには極力音量が抑えられた息遣いも聞こえる。
暗闇にも目が慣れてきて誰がどこにいるのか程度はわかるようになってきた。一先ず部屋の中にいるのは俺たち六名と、特に小柄なベイファン・逆に部屋の奥にいても分かるくらいには大柄なイヴ・残りはヤクザたちの合わせて九名。つまりそれ以外の女であるラッシュやマダム・バタフライのメンバー、それとイスルギと思しき人影が見当たらない。先ほどアデリアが言っていた“ママの手伝い”とやらだろうか。連れて行かれたメンバーを見ても技術屋連中を総動員してるのがわかる。そこまでは察せたが、(聞いた方がはえーや)ってことに気付いた俺はフツーに尋ねた。
「なぁベイファン、イヴ……あとミセスとかイスルギはどこだ?」
「ラッシュも連れてここよりさらに下の階層へ向かったわ、あるのはこのクラフトのメインエンジンルームだとか機関の中枢。今さら見に行ったところで全部停止してるでしょうに、どういうつもりか意図は伝えられてないわね。連れて行ったメンツで何となくわかるけど」
ベイファンが不平でも漏らしそうな声色で言う。イヤちょっと待て。
「なぁ、気のせいかもしんねーんだけど……もしかして“今のこの状況でアイツら五人ぽっちの別働隊作って単独行動してる”っつったか?」
「残念ながらそう言ったね、まさしく」
イヴがそう言いつつため息を吐き出した。見ると額に手をついて、いかにも困ったようなポーズをしている。
「いや、本当に参ったよ。目的は教えられてないけどそれは分かるからまだいい、間違いなくこのクラフトの修理なんだろうし……でもタイミングがね……」
その言葉を聞いて、ベイファンやイヴみたいに(つっても声だけで顔はよく見えないままだが)俺もまた怪訝な顔になった。これが事態打開にどう繋がるのかイマイチピンと来ない。エンジンをまた動かせるようにしたところで何がどうなる? エンジンがどれだけ動いていたとしても操縦席には誰もいない上にエンジンルームの周りが敵だらけ、なんてどうにもなんないんじゃねーのか?
それに別働隊で戦えそうなヤツがイスルギくらいしかいなさそうなのも気になる。実際にティートへ応戦した実績があるラッシュならともかく、ミセスやルチが戦闘をこなせるほど動けるとも思えない。ルチに関してはよく知らないが、一方のミセスのほうは介護がいる程度には相当高齢だ。こう言っちゃ何だが、今に限って言えば“お荷物”なのは間違いない。
「マジでなに考えてんだ……いま動き回るとかリスクしかねーだろ、見つかったらどうすんだか……後もう一つ、階段入り口の傍のトコにあったあの手形なんだよ、怪我人でもいんのか?」
やや曇った顔のままなのを自覚しつつ俺は尋ねてみた。
「……部屋の奥の方に二人ね。このフロアに逃げ込むときに最後だったから彼らが銃撃されたのさ。今はこの部屋のものでなんとか応急手当てしてる」
イヴは依然として困ったポーズのままで言う……ってかもう一回見つかってんのかよ。
成る程、明かりがなくて暗い部屋の奥の、扉の隙間から見えないような片隅にはイヴの他にも横たわる二人とそれ以外の何人かの集まりが見えた。俺はマシになったとは言え、それでも未だ手元を見るのも困難な中でよくやる。というか医者のベイファンじゃなくてイヴが手当てしているのが意外だった。
「とまぁ、見ての通りいま僕はここを動けない。アキたち六人がどうするかは自由だけど、手伝いに行くのならこの部屋に元いたメンバー以外で頼むよ」
「あ? なんで俺が行く必要が——
「あーし行く」
やはりというか何と言うか、口火を切ったのはアデリアだった。なら多分、ってか確実に行く目的はルチの存在だろう。さっきの話しかけ方を見た限りでも気のかけ方が尋常じゃなかったし。
「もう分かってるっしょ? あーしにとってあの子はツレってか、家族みたいなもんなの。オッサンが行かないってんなら置いて一人でも行く。どーする? 来る?」
普段の軽そうな喋り方から心なしか頑なな意志を漂わせつつ、キャバ嬢は言う。




