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25:2 - メンツと意地の行く先にて

 当然っつーか何つーか、イスルギ組の面々は飛びつくようにイスルギの周りに集まる。


「良かったっス! 良かったっス……」


「マジで、ど、どうなるかと思っ、うぅ……」


「オイお前ら! 未だなんも終わってねェだろうが‼︎ びゃーびゃー泣いてんじゃねェよ、撃ち殺すぞ‼︎‼︎‼︎」


「アニキ……じゃねぇや、イスルギさん。こっからどうすんスか? 状況を教えてください」




 感涙にむせぶ部下たちにヤソジマが一喝し、ケンゴが冷静に尋ねる。組の長たるイスルギは血まみれでもなんとか息は整えたようで、冷静落ち着き払って前を見た。

 どうもケガは気にしないことにしたらしい……ってそういや、コイツがいま血まみれな手足に関しちゃ単なる偽装で本当は義体サイバネなんだっけか。


「会議室に残ってたからな。俺はあのクラフトに捕まって拘束されてた、見りゃわかるか。あと気ィ失ってたタチバナも同乗してて、俺とは違って手当されてる。そんで分かりきってたがアイツら共謀犯グルだ、そんで俺の首がアサゴ組本家との交渉材料にされる予定だったんだとよ。けどお前らが暴れてくれたから相手方は取引も何もかもが一旦パァだ……よくやってくれた」


 イスルギからの労いによりチンピラたちが感涙に感激でワケ分からなくなりそうなところでケンゴがそれを制する。


「で、あのクラフトの中は?」


「それは俺が言うよか見てた方が早い」


 イスルギの返事とほぼ同時に、若干広がった正八面体クラフトのゲートから濃く立ち昇る煙と共にタチバナを先頭にしたフロウ=ライツの一団が姿を現す。


「この通り、まだ始末はついてねェぞ」


 振り向いて一団を、タチバナの顔を鋭く睨みつけながらイスルギは吐き捨てた。





 今日もまた日が青くかげろうとしている。空の青色と赤色の関係が地球と逆転していること自体にはもう慣れたが、ヤクザだの非合法集団だのに向かって“慣れた”なんて言葉を使ってはいけないように俺は感じ始めていた。

 特に、今やってるみたいな抗争なんかに対しては。


「“始末はついてない”だぁ? テメぇまだ生きて帰れるつもりかよ……ケッ、ナメんのも大概にしやがれクソ」


 イスルギに負けじとタチバナは唾を吐き捨てて、アイツは金色の瞳を細めて俺らを睨みつける。ギリっと歯の根を噛む音が聞こえた。


「生憎、テメェみてェな生ガキに殺せるとも思えねェんでな」


 対するイスルギは安い挑発で牽制する。互いの両手には大振りの拳銃が握られていて、このレースでは何度目かの「空気が今にもぜそうなヒリつき」を感じとる。緊張感、なんて言葉じゃとても足りないと毎回思う。

 お互いの背後に並ぶそれぞれの一団が固唾を飲む中、先に口を開いたのはタチバナのほうだった。最初はほぼ聞き取れないような呟きだったが。



「気に入らねぇな…………」


 まるで、呪詛でも唱えるみたいに。もしくは爆弾の導火線に火が付くみたいに。


「あークソ、気に入らねぇ! 散々兄貴ヅラしてフザケやがってテメぇ‼︎ 落とし前もつけずに生かしとけっかよ、そのタマったらぁ‼︎‼︎‼︎」


 確かにイスルギとコイツは兄貴分弟分きょうだいぶんの関係だったと思うが、どうもタチバナには相当腹の中に据えかねるものがあったらしい。雄叫びとかどきみたいな、轟くような凄まじい怒号を張り上げてタチバナは両手の銃口を前に突き出した。

 それと同時に、タチバナの背後にいる(たぶん)フロウ=ライツのメンバーたちが無表情で横一列に並んで短機関銃を構える。完全に明らかに、俺らを“処刑”しようって態勢だった。タチバナがやってるならイザ知らず、何のしがらみも無いフロウ=ライツなら躊躇ちゅうちょもせずにトリガーを引くだろう、俺は叫ぶ。


「お前ら散れッ‼︎‼︎ 早く‼︎」


 ……さっきクラフトから抜け出すときに、念のためピンを抜いた状態でジャケットの袖に隠していた左右の閃光手榴弾スタングレネードを投げつけながら。



 両手からスルリと抜け出した二つある筒状の金属缶は宙に弧を描いて、目の前のタチバナとフロウ=ライツの一団の上へと飛んでいく。アイツらもそれなりに緊張感を持ってたってことなんだろう、飛んでくる金属缶を後ろに並んでいたうちの一人が反射的に撃ち抜いていた。

 イヤまぁ、銃撃されなくても左側のほうも自動で爆発してたろうが。


「あっオイ、そっちは撃ッ——


 タチバナが反射的に声を上げようとして、それは容赦なく爆発と閃光に阻止される。一個半径二メートル弱という範囲限定ながら、密集してたアイツらを襲ったのは一時的に方向感覚を完全に喪失させるほどの爆音と閃光だ。しかもこちらの陣営メンバーならまだ良かった。ってのも、爆発が起きたのはある程度離れた位置で、そもそも散開しようと視線を他に向けていたから。

 しかしアイツらは俺らに向き合っていたワケで、つまり真っ正面から爆発の猛威を受け止めている。……となると当然。


「ヒィっグあっ‼︎」


「ち、畜生ッ……耳がァッ!」


「前が見えない‼︎ ど、どうなってる⁉︎」



 ヤクザだろうと武装した集団だろうと関係なく、アイツらの大多数が阿鼻叫喚あびきょうかんの渦に叩き込まれていた。もちろん横並びの集団の一歩前にいたタチバナは一番モロに視覚・聴覚を揺さぶられて両手の拳銃も取り落としている。


 だが厄介なのがタチバナの“人種”だった。

 鰐人種クロコダイル、すなわちその大元であるワニという生物は水辺での狩りを確実に成功させるべくアゴ周辺の皮膚感覚を驚くほど発達させており、水の流れや獲物からの振動を手に取るように知覚できる。

 そしてその感覚は亜人デミとして遺伝子操作されてもなお四肢の肌に受け継がれていた。つまり、アイツはまだ活きている“触覚”で獲物を探すことが可能なワケだ。それに加えてそもそもタチバナが相当気骨あるヤツというのは間違いないようだった。


 アイツは周囲の状況が何一つわからない状態の中で、真正面にいたイスルギに殴りかかる。爆発の直前、どこにイスルギが立っていたのかという記憶と気流の乱れだけで居場所を看破したらしい。五感情報の大部分がイカれてる状態でそれを実行できたのは驚異的と言うほかないが、そこまでアイツを突き動かすのは何なのか。

 何にしても、恨みはなかなかに深そうだ。

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