25:1 - 墜落後の爆発事故にて
ハイド・アンド・シーク(hide and seek)
:日本で言うところの「かくれんぼ」の英語名。即ち隠れて(hide)探す(seek)遊び。ちなみに日本と英語圏ではルールが若干異なり、日本では全員が隠れ終わるまで鬼は待つのが基本だが、英語圏では鬼が数え終わった時点で“Ready or not, Here I come!(準備がまだでも行っちゃうよ!)”と宣言して探し始める。
墜落後の俺はと言うと、指揮官とか艦長が座る中心の座席の上でバタバタとのたうち回っていた。
「……っぐッっっッッ……畜生ッ…………カドで打った……ッ」
「遊んでないで早く! 急がないとこの機体ごとΠ小隊に吹っ飛ばされるよ!」
重力制御で打ち消しきれなかった衝撃で座席の背もたれでしこたま頭をぶつけた俺をイヴが叩き起こして脱出を急かす。そうだ、急がないとこのクラフトごと吹っ飛ばされてしまう。口ぶりから察するにどうやら落下の衝撃で爆発、なんてことは無いようだがそうなっても次の心配事だ。まだ痛む頭を振って防塵マスクを急いで被り、俺はゲートに駆け寄った。イヤちょっと待て、この船の出入り口は船橋の後ろ一つきり、そこに人が集まるってことはここを撃たれでもしたらお終いなのではないか?
……しかし、実際はそんなことなかった。ゲートは無防備なまでに口をポカンと開けていたが、ウチの乗組員たちが撃ち殺されているような気配はまるで無い。目線を上げると、いつの間にやらアリアドネ号とこのクラフトは二五メートル程度の距離を空けた地点で激突していて、そしてこれらを結んだ直線をちょうどゴーディマー技研の船体が塞いでいる。つまり偶然なのか何なのか、あの近代的意匠のクラフトがバリケードになってくれていたワケだ。
墜落時、何かを下敷きにしないようお互いの操舵手が操作した結果とかなんだろうか。……とにかくアデリアとルチに後で礼でも言っとかねーと、と俺は胸を撫で下ろした。
墜落位置があと数メートルずれていたら障害物は何も無かっただろう。だが、技研の施設はアイツらに撃ち抜くことは出来ない。現に出来ていない。
なぜならアイツら“ここを使う気満々”だからだ。
俺はここ二、三日ずっと不思議だった。何でΠ小隊のヤツらここを叩きに来ない? フチザキの話の通りこっちの通信を全部傍受して暗号化も通用していないなら、ここごと見せしめに破壊すれば済む話だろう。だが、タヴァナー少尉がさっきフロウ=ライツの連中に語っていたように、冗談でも誇張でもなく本気でこの集落全体を支配下に置いているつもりなんだったら?
なら当然、自分の手元にあるものを自分から壊すような真似はしないのではないか? イヤ、全くしないとは言い切れないだろうが、少なくともそうする可能性は下がる。研究所も兼ねているクラフトなんて精密機械や観測機の宝庫だと思うのは当たり前だ。
だからこそヤツらはここを掘り返せないのではないか、アイツら自身が実際に調べて掴んでいるデータは俺たちの通信を傍受した以外には何一つない現状では、尚更にこの仮説にしがみつくしかなかった。
ゲートの周りには十数人が殺到していた。まぁいつ撃たれるかわからないのだから無理もない。
俺らと同じようなことを危惧しているヤツはいないのか、はたまたここにいる全員が俺と同じような仮説に行き当たったのか。どちらにせよ俺とイヴはゆっくりと、覚悟を決めて踏み出す。……撃たれない。少なくとも狙われている様子はな……ん?
「ちょっと待って、隣に落ちたクラフトの様子がおかしい!」
いち早く異変に気付いたイヴが警戒を呼び掛ける。確かに、隣に落ちた向こうのひし形クラフトの内からは叫び声が聞こえた。苦しんでいるとか怯えているものではなくて、何というかこう、絶叫というよりも怒号のような。
“向こうのクラフト”はというと後ろのゲート部分が盛大に壊れて半開きだ。そして隙間からは時折思い出したように火花が上がっている。それと、銃声。ゲートは機械が壊れてショートしたものと銃弾が激しく擦れて上がったものとが混ざり合って滅茶苦茶に火の渦が吐き出されていた。
「あの入り口には近づかないで! 流れ弾とか跳弾で危ない‼」
イヴに続いてベイファンが声を上げる。幸いあっちのゲートはこちらを向いてはおらず、ベイファンが言ったような危険は少なくともここにいれば誰にも及ぶことはない。俺らにできることはと言えば見守るだけだ、と。
突如、血まみれの左腕があっちのゲートの隙間、つまり内部側から突き出された。それから血まみれの右足、右腕と這い出てきてバタバタともがく。血まみれでこそあったが見覚えのあるサックスブルーのシャツを着ている。イスルギだ。タチバナと一緒かどうかは知らないが、どうも俺らとは別のクラフトに取っ捕まっていたらしかった。
で、その手足がゲートの左右両側を掴んでミシミシと扉をこじ開けようとして……内側からの爆風と炎でゲートそのものが吹き飛んだ。
「アニキ!?!?!?」
「そんな‼」
「おいイスルギぃぃ‼‼‼」
ここにいる半数以上の者が上司の名やら呼び名を口々に絶叫し、俺も慌てて名前を呼ぶ。
しかし、火炎放射器の噴出口みたいな炎と鉄片入りの衝撃波なんかと一緒に、首を縮めた姿勢のボロボロの男も吐き出された。……なんだ、無事そうだ。痙攣なんかもせずに大きく動いている。ほうほうの体、というヤツではあったがイスルギはゆっくり立ち上がってこっちへフラフラと近寄ってきた。
「オイ、てめェら……ゼヒュー……組員で死ん、だ馬鹿、いねェ……だろうな?」
防塵マスクなんて物ももちろん残ってない状態で、しかも見るからに息も絶え絶えってな息遣い。更には深酒でもしたみたいな千鳥足ながらなんとか脱出したイスルギはボソッと尋ねてきた。




