24:4 - 放蕩息子たちは荒野にて
「えーと、エンジン点火! 各員頼んだ‼︎」
イマイチ締まらない俺の号令と共にエンジンは動き出す。すぐにアイテリウム製の浮力器やら推進器やら姿勢制御装置やら、始動したエンジンから各動力部へ電力が送られてクラフトは息を吹き返した。動作確認のブザーと柔らかな駆動音が聞こえてくる。
操縦席でありこのクラフト唯一の内部空間でもある船橋の隅には、元々の乗組員たちの死体が乱雑に積み重なっている。もちろん気分は良くないが、今は彼らを、いや“これら”を全て運び出す時間なんてあるわけがなかった。人工重力やら何やらで散乱しないように固定しておくのが精々だ。そのことに加えて、成り行きでコマンダーになんかに就任させられてしまったことを抜きにしても心配事は尽きない。
「他はまぁ良いとして……おい、ヤクザ連中! お前らクラフトの操縦とか出来ねーってこたぁねーよな? そもそも火星までクラフトで来てんだから」
「アホかクソ、今どきクラフトの操縦なんざクルマの免許と大して変わんねェだろーが。ボンクラの三下チンピラ扱いしてんじゃねェよ‼︎ ……ま、運転さえ出来りゃ充分だから俺ァ免許どっちも持ってねェけどな」
「……農家の息子か何かかよ」
『へっ……ま、配置には全員ついてんぜ。とっととあのカルト崩れブッ飛ばそうや』
ケンゴのやつを余計怒らせないように俺はボソッと呟いて、フチザキが呆れつつ聞かないフリをした。そんなどうしようもなく締まらない雰囲気のまま、突き刺さっていたクラフトの外壁からひし形の金属のカタマリがゆっくりと抜け、飢えた狼か何かみたいにクラフトはフラリと宙に浮き上がる。
敵は三機のうちの残り二機。その片方は(不本意ながら)Π小隊の応戦によりダメージが既に入っている状態だ。
対するこっちの手勢はフロウ=ライツから奪取したこの一機と、(本当に不本意ながら)Π小隊が占拠している我らがアリアドネ号の二機。そして各チームの首脳陣がゴーディマー技研クラフトに集まっていて、ここから彼らが脱出するのは危険であるためこれ以上はお互いの手勢が増えることはないと予想される。つまり(心の底から不本意ながら)どう足掻いても俺らと小隊での共闘で何とかするしかなかったワケだ。
しかもアリアドネ号が動く気配は一切無く、従って俺らが前衛でアイツらは後衛。不満は残るが、この状況を切り抜けるためなんだから今さらどうしようもない。
「あー、えっと……そうだ。“全速前進”! 攻撃受けたほうのクラフトに接近‼︎」
「口籠もりすぎだろ! こんなんで指揮役とかできんのか⁉︎ お前、元自衛隊員なん——
「おいヤソジマ、射撃準備‼︎ 余裕は数秒もねーぞ、外すなよ⁉︎」
俺の指示出しに、ヤソジマの悲鳴じみたツッコミが飛んでくる。うるせぇ、元自衛官っつっても俺はそもそも兵士側の人間であって戦闘指揮とか尉官以上の幹部連中とかそういう出身じゃねーんだ、ほっとけ。……なんて実際に叫ぶヒマなんてないので、俺は命令を被せて封殺することにした。
「了解ぃ、みんなフッ飛ぶなよー……‼︎」
一方そんな俺の指示を受けて、操舵役……つまりクラフトそのものの動作を操るアデリアが前を睨んでブースターを蒸す。モニターの上下左右端から、ひし形のクラフトの角で空気が歪んだみたいな透明の衝撃波が輪状に広がるのが見えて…………それらは爆発的に溢れた。
途轍もない力に押し出されるように、あるいは途方もない存在に釣り上げられでもするように。アイテリウムの青やら青緑のフレームで彩られた艶やかな白い正八面体は青白く澄んだ衝撃波のヴェールを放つ。そして全く同じ見た目でこそあるが、遠方から射撃されて緩やかに下降しながら煙を噴き上げている一機へとそのまま三秒弱で肉薄した。
「ルチ、それとケンゴ・ヤソジマ‼︎ 叩っ込め‼︎‼︎‼︎」
具体的な指示内容は一旦全て省いて、俺は“事前の打ち合わせの通り”各担当の名前と大雑把な命令だけを叫ぶ。それぞれの操作担当はルチがスラスター、ケンゴ・ヤソジマがクラフトの兵器兵装類全般。そしてコイツらもまた“事前の打ち合わせ通り”に、つまりルチは『攻撃対象への接近時してから機体の真後ろ向きにスラスターを射出すること』、ケンゴ・ヤソジマは『正八面体の左右頂点に設置されている自身担当のバルカン・レーザーの各砲台のありったけを撃ち込むこと』に注力する。
一方の正面モニターに映し出されていた目標はというとしばらく見ていなかった間で明らかにΠ小隊から撃ち込まれた穴が増えていて、どう見ても満身創痍の体だ。
たちまちに相手クラフトの白い表面塗装は剝がれ、穿たれ、焦がされ、穴が空けられてたちまち濃い煙が噴き出した。結果クラフトは高度は加速度的に下げながら地表面に叩きつけられる。
「右回転で船体を旋回! それから見上げてもう一機のほうを向け、早く‼︎」
俺の指示通り、クラフトは向きを変えて正面のモニター中心にもう一機を捉える……まずは一機、すると。
『おいよォ、技研のクラフトからアサゴ組の役立たずどもが出てきたぞ。ついでに撃っとくか?』
フチザキが意外そうな声を上げる。アイツの言葉通り、ゴーディマー技研のクラフトからさっき会議室から追い出されていたアサゴ組の組員が飛び出して、落ちたクラフトに集まっていくのが芥子粒みたいな点でモニター左端に小さく映し出された。言うまでもなくフロウ=ライツとアサゴ組はいま協力関係にある(と思われる)。ここで駆け付けたということは救助か?
で、結論から言うとそんなものではなかった。
平たく言うと、虐殺。
「ひっ……」
『へっ、役立たずにゃ容赦しねぇってか。ヒマだねぇ』
画面に映し出された光景にラッシュが小声で叫んで、フチザキは何ともいえない声色で笑い飛ばす。
建物から飛び出してきたヤクザたちは眼下で散った金属のカタマリに駆け寄ると、俺らがさっきやったみたいに銃撃で機械を壊し始めた。さっきと違って既にフロウ=ライツのクラフトは半壊なので、容赦ない弾丸があっけなくゲートをこじ開ける。
そして内部にタチバナがいないのを確認したのか、連中は内部を覗きこんでからすぐにけたたましい発砲音を響かせた。遠目で分からないが、たぶん相手方は先ほどの攻撃のあおりを受けて迎撃態勢なんてものも整ってなかったのだろう。アサゴ組のヤツらに銃弾が撃ち返されることはないようだった。




